第27話 『冒険者の食堂』
俺たちは、シモカプ村の一角にある食堂に入った。
中は想像以上に騒がしい。
テーブルの上では、ビールジョッキを掲げて立ち上がる男と、それを囃し立てる仲間たち。
奥では、酔いつぶれて床に寝転がる奴を、面倒くさそうに蹴り起こす連中までいる。
……小さい村ながらも、冒険者の拠点としてはそれなりに栄えているみたいだ。
ちらりと周囲のテーブルを見ると、名刺サイズの鉄製プレートが置かれているのが目に入った。
そこには「D」「E」などの文字が大きく刻まれている。
……なるほど、これが冒険者のランクプレート(?)ってやつか。
「いらっしゃいませ〜。ご注文はお決まりでしょうか?」
明るい声とともに、若い女性の店員が近づいてきた。
「なんでも頼んでいいぞ。リュナ、俺の分も適当に頼んでくれ」
「やったー! 食べ放題だぁー!! どれもこれも美味しそうっ! あっ、このメニュー、絵だけでお腹空いてくるね! これ全部頼んでいい!?」
「食えるならいいぞ」
……まぁ、リュナのことだから残す心配はねぇか。
「やりましたね、リュナさん! 何食べますか!?」
リカが苦笑しながら、嬉しそうに身を寄せる。
「えっとね、えっとね……山賊の骨付き肉と、マナビーフスープと、オムライスと、海鮮チャーハン特盛! あとアイスクリームとメープルパイ! イザナ様にはこれかな〜、日替わり定食っ!」
おいおい、食えるならいいとは言ったが頼みすぎだろ……。
てか俺のは一番安いやつかよ……。まぁ、一応気になってたメニューだからいいけどさ。
数分後。
香ばしい匂いとともに、次々と料理が運ばれてきた。
テーブルの上は、たちまちごちそうの山になる。
中でも、「山賊の骨付き肉」は圧巻だった。
マンガでしか見たことのないような、骨一本丸ごと覆う巨大な肉塊。
焼けた表面から、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「うわぁぁぁ……! すごいボリュームだねぇ!」
リュナが目を輝かせる。
「お前が頼んだ分は一人で食えよ」
「もちろんっ! リュナは全部食べきれるもん!」
「私はオムライスをいただきますね!」
リカが上品にスプーンを構える。
「お待たせしました、日替わり定食でございます」
そのタイミングで、店員が俺の席の横に皿を置いた。
「おー……」
思わず声が漏れた。
運ばれてきたのは、白いご飯の上に肉と目玉焼きが乗った丼物。
付け合わせは香りからして酢漬けの根菜……たくあん的なやつだな。
……なんというか、異世界のくせに意外と普通の飯が出てくるんだな。
あとスプーンも一緒にきたか……多分、この世界には箸で食べる文化がないんだろうな……知らんけど。
「いただきます……」
一口。
うん、味は薄いが普通に牛丼。
きっと、某チェーン店みたいに、腹がふくれりゃそれでいい層に人気のメニューなんだろうな。
……まあ、冒険者らしくていいじゃん。
一方、リュナはガツガツと肉や炒飯を貪り食っていた。
人間(?)ダイソンかよ……マジでスライム恐ろしい。
リカはといえば、オムライスをちびちびと口に運んでいる。
「そんな急いで食わなくても、飯は逃げねぇぞ……。ほら、まだ食べたかったらおかわりしてもいいからな。最近、まともな飯食ってなかったし」
「やったー! じゃあ山賊の骨付き肉五本くださーい!!」
リュナが目を輝かせた。
「お、おう……」
さすが人間ダイソンだ……(二回目)。
その後、リュナは満足するまでおかわりした。
「さて、今後の行動方針だが……まず明日は一日、この村で必需品を買う。出るのは明後日だ」
「わーい! 観光観光! メープル蜂蜜たべるー! あ、それと焼きリンゴも〜、あと広場で売ってた串焼きも食べたい〜」
さっき死ぬほど食ったのに、もう次の飯の話かよ……まあ、よく食べるのはいいことだが……。
「よかったですね、リュナさん」
「はぁ……まぁいい。基本的に自由行動でいいからな。それと、金貨一枚ずつ渡すから適当に使っていい。欲しいものとか、旅で必要そうなものは、明日しっかり買っとけよ? ただ、この村には盗賊が出るって噂がある。路地裏とか、人気のねぇとこには絶対に近づくなよ、いいな?」
「はい!」
「はーい」
その後、俺たちは適当に宿屋に入り、藁のベッドで一晩を過ごした。




