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第22話 『暴牛王の骸』

翌朝、俺たちは巨人同士の死闘を山頂から見下ろしていた。

ミノタウロスは、崩れた神殿の柱のようなものを振り回し、サイクロプスは棍棒を叩きつけて応戦している。


寝ずに戦い続けているのか、どちらも満身創痍だ。

肉は裂け、牙は折れ、立っているのが不思議なくらいだ。

……正直、どちらが勝ってもおかしくない。


俺は内心、近くまで行ってあいつらの落とし物でも拾えないかと考えていた。

リュナはというと、俺の隣でニコニコしながら観戦していた。


リカが小屋から朝食代わりに、チーズを乗せたトーストを持ってきてくれた。

どうやら、挨拶がわりにメフィスにも渡したらしい。

……食料は大事だが、悪魔と一夜同じ屋根の下で生き延びたんだ……。パン一枚で済むなら安いもんだ。


そして三人は、まるで怪獣映画でも見ているような気分で、その戦いを眺めていた。

見た目どおり、二体とも魔法よりは肉弾戦タイプなのだろう。

サイクロプスの棍棒が唸りを上げ、ミノタウロスの顔面を横薙ぎに打った。

その怯んだ隙を逃さず、サイクロプスの単眼から光線が一直線に放たれた。

光はミノタウロスの額を貫き、その巨体はゆっくりと崩れ落ちた。

 

リカが目を細め、ぽつりと呟いた。


「……なるほど。あれは光学プラズマ放射に近いですね。理屈上は、空気の屈折率を一瞬で変化させて爆裂させてる……雷・風魔法の中間のような性質ですね。……もしかしたら、私でも再現できるかもしれません」


俺は思わず、ドン引きした。

……サラッとえげつないこと言うな。

アイビームを風魔法で再現って、それはもう風魔法の範疇超えてるだろ……。

とはいえ、俺も<神経電撃(ニューロ・ショック)>なんてやってるから、人のことは言えねぇけどよ。


「わぁ! ミノタウロスが倒れたよー!」


リュナの声に目を向ける。

どうやら、完全に決着がついたようだ。

……落とし物や素材は気になるが、一応、メフィスに確認してからにしよう。




メフィスの姿は、もう小屋から消えていた。

ま、もともとあいつの目的はサイクロプスが飲み込んだ堕ちた勇者だ。

ミノタウロスについては一言も触れていなかったし、こっちは気にせず素材を頂くとしよう。


戦いを見ていて思ったが、ミノタウロスは魔法こそ使えなかったものの、その巨体と腕力だけで十分な強さだった。

……まぁ、サイクロプスのアイビームが魔法かスキルかは知らんけどな。


やがて俺たちは、死闘の跡が残る谷底へと足を踏み入れた。

そのときには、サイクロプスの姿はもう見えないほど遠くへ離れていた。


リュナがミノタウロスの亡骸へと近づく。

そして、自身の体をスライム状に変化させ、百メートル級はあろう巨躯をゆっくりと覆いはじめた。


……お、おい、まずいな。剥ぎ取る隙もねぇ。

とりあえず、観察眼だ。昨日は弾かれたが、流石に死体なら問題なく発動するだろ……。



対象:暴牛王(ミノタウロス・ロード)

分類:災獣/精霊吸収個体

状態:死亡

生態及び詳細:ミノタウロスが風の大精霊を喰らい、その核を取り込んだことで誕生した災厄の王。

肉体は筋繊維と魔力風流で構成され、呼吸ひとつで周囲の空気を震わせる。

その素材は極めて貴重で、「その骸ひとつで王国が三度栄え、四度滅ぶ」と伝えられている。



……四度滅ぶ、ね……。意味はよくわからんが、少なくとも、こいつの素材は超貴重ってことだろ。

その素材で国が栄えやがて、それをめぐって争い、滅んだ。

……きっと、そういう話なんだろうな……多分。


リュナに「食いすぎるな」と釘を刺そうとした矢先……気づけば死骸は跡形もなく消え、リュナはけろりとした顔で人型に戻っていた。

……おいおい、食うの早すぎだろ。


「うぇ……胃もたれしたぁ……」


「そりゃ百メートル級の化け物食ったらそうなるわな。お前の胃袋どうなってんだよ」


「う、うぅ……リュナだって全部食べる気なかったもん……でも……つい……」


「いや、ついって……ま、いいか。で、食ったもんの中で、なんかいい素材とか残ってねぇのか?」


「う、うん……とりあえずイザナ様が持てそうな分は出すね……。コアとか大事な部分は消化してないから、街で換金できるかも……イザナ様なら、たぶんそうする……」


……こいつ、意外と経済観念あるのか……。やればできるじゃないか。


「ちゃんと残してたのか、えらいな……。よし、とりあえず俺が持てそうなやつを出してくれ」


「えへへ、わかったぁ〜」

そう言って、リュナはスカートの下からポロポロと何かを出し始めた。

……いや、うんちじゃねぇんだからさぁ……。

……まぁいいけど。


だが、次々と転がり出てきたそれに、俺は思わず見入ってしまった。



対象:暴牛王の心核

状態:神品

効果:胸腔内に形成される高濃度の心核。

通常のコアとは異なり、鼓動のような脈動を放ち続ける。

魔力供給効率はマナストーンの千倍に達し、一つで魔法都市を一週間稼働させられるほどの出力を持つ。

 

対象:暴牛王の血液

状態:神品/瓶詰め

効果:高い酸化活性を持ち、血の増幅剤として知られる。極微量でも肉体強化・体温上昇・再生速度向上を引き起こすが、過剰摂取すれば筋肉組織が破裂する。

用途:魔法触媒、戦士用強化薬。

副作用:中毒・筋繊維崩壊。


対象:風の大精霊核

状態:神品

効果:大精霊の心核。

風魔法の威力・範囲・操作を飛躍的に上昇させる。



全部神品か……さすが暴牛王ってとこだな。

観察眼の「王国が三度栄え、四度滅ぶ」って評価も、あながち間違いじゃねぇのかもしれない。

少なくとも、街に持っていけばかなりの値で買い取ってくれそうだ。


ひとつひとつ観察眼にかけていると、視界の端でリュナの体から湯気が立ちのぼるのが見えた。


「おい、リュナ。……熱でもあるのか?」


「ひゃ、ひゃいっ!? ち、違うの! ミノタウロス食べたら……体が熱くなっちゃって……」


「おいおい、大丈夫か? 消化不良とか……」


「うぅん……なんか、体の奥が……ぐるぐるしてるの……あつい、の……」


……なるほど、精力剤的なもんか? と思ったが、こいつ、体が半分溶けかけてるんだよな。

精力とは違ぇか……いや、待てよ。暴牛王の血液の効果に体温上昇ってあったよな? ……ってことは、その効果がもう出始めてるってことか。


「おいおい、あんま無理するなよ?」


「イザナ様もミノタウロスの血を飲めば、同じくなるよ? 生命魔法とも親和性が高そう〜」


……これを飲むのかよ。

まぁ、いいか。検証も兼ねて……。


一思いに喉へ流し込む。

すると、鼓動が一気に早くなるのがわかった。

体中を魔力が駆け巡り、筋肉が隆起する。

拳を握ると、節の間から白い蒸気が噴き出した。

体温は体感で四十度近いが、不思議と苦しくはない……ただ、やけに魔力を消費していく感覚がある。

……長くはもたねぇな。このまま使い続けたら、確実に体が壊れる。


「リュナ、今更だが、この状態を解除する方法はあるのか?」


「深呼吸と瞑想で心を落ちつかせれば大丈夫! ……のような気がする」


気がする、じゃダメなんだが。

……まぁいい、深呼吸と瞑想ね。


ゆっくり息を吐くと、体の火照りが少しずつ引いていった。

……だが、今の反応を利用すれば、新陳代謝で体を熱して人体発火みたいな現象を再現できるかもしれねぇ。

……いずれリュミナの紅蓮連撃みたいな技を……いや、流石にそれは無理か。


けど、この反応は<筋繊維強化(セル・ブースト)>を超える強化が期待できる。

筋繊維強化(セル・ブースト)>の上位魔法、<筋出力限界突破セル・オーバードライブ>そして、<血熱燃焼(ブラッド・バーン)>。

……<血熱燃焼(ブラッド・バーン)>は、新陳代謝で拳から熱を噴く近接技として使えそうだ……。

ま、実戦で使えるかどうかはまた別問題だが、意識すればこの熱をまた再現できる気がする。


「先輩……口のまわり、血だらけですよ。もしかしてミノタウロスの血でも飲んだんですか……?」

リカが引きつった顔でそう言った。


「精がつくが、あまり美味くはなかったな。……リカも飲むか?」


「い、いえ……私は結構です。それより、その緑の結晶……少し触ってもいいですか?」


……風の大精霊核のことか。


「あぁ、いいぞ」

俺は短く答え、結晶を手渡した。


「……綺麗。触れてるだけで、魔力が上がった気がします」


リカがそっと指先でなぞると、結晶が緑光を放ち……そのままリカの胸元へと溶け込むように吸い込まれた。


「……おい、今……胸に入らなかったか? 見間違いじゃねぇよな」


「わ、わぁ!? すみません! 私のせいで大切な素材を……!」


「い……いや、いいさ。それは、また集めればいいだろ。それより……体に変化はないか?」


「え、ええ……今のところ大丈夫です。でも……なんというか、風魔法の核心に触れたような感覚があって……。ゲーム風に言うと、レベルアップした感じです」


「そうか。ならよかった」


体調に問題がないなら、それでいい。

……さて、そろそろ先に進むとするか。

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