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第20話 『ストームレイヴン』

冒険二日目。


リュナは昨日のことなんてすっかり忘れたように、朝から元気いっぱいだった。

一方のリカはというと、顔を真っ赤にして、俺と目を合わせようともしない。

……どう考えても、昨日のあれせいだよな……いや、誤解すんなよ? 俺だって被害者だからな……たぶん。


「やっぱり詳しいのは女の子の体なのだー!」


「お前はもう黙ってろ……」


……もう構うのも面倒だ。


朝食はリカが作ったチーズタルト。

異世界らしさはないが、普通の朝食ってのも悪くない。




食後、俺たちは小屋を出て山道を登り始めた。

隊列は俺が先頭、次にリカ、そしてリュナ。

気温はおそらく十八度ほど。ひんやりとした風が頬を撫でて心地いい。

見晴らしの良い丘を越えると、眼下にはどこかアイスランドを思わせる荒涼とした大地が広がっていた。


午前中、俺たちはさっそくグレイウルフの群れに囲まれた。

だが、今の俺たち三人にとって苦戦する相手ではなかった。


戦いの合間、俺はリュナの動きを観察していた。

どうやらリュミナのように紅蓮連撃は使えないらしいが、代わりに紅蓮斬という剣技を使えるようだ。

前に素早く踏み込み、炎を纏った小剣を横薙ぎに振り抜くと、グレイウルフが真っ二つに裂けた。

……剣の腕も威力も大したものだが、それにしても、あの小剣までリュミナのものを再現しているとはな。

本人いわく、「ユクナトゥスの魔鉱石で似せて作ったんだよー」とのことだ。

 

一方、リカも相変わらず隙がない。

淡々と<エアーショット>で群れをまとめて即死させている。

……もう俺が出るまでもないな。

とはいえ、手持ち無沙汰なのも癪なので、近くの一匹を軽くガントレットで殴っておいた。




さて、昼に差しかかった頃。

荒涼とした地帯を抜け、俺たちは一面緑が広がる平原に出た。

山の中腹にしては珍しく風も穏やかで、空気もうまい。

ここなら、のんびり休憩もできそうだ。


「……ん? あれ、なんか飛んでないか?」


ふと空を見上げると、遠くから黒い影がいくつも近づいてくるのが見えた。

最初は鷹かと思ったが、どう見ても普通の鷹じゃなさそうだ。


スカイレイヴン……か? けど、あいつらは群れを作らねぇはずだろ……。


ざっと見て二十数羽。その中に、ひときわでかい個体が混じっている。

なんだあれ……スカイレイヴンにしてはちょっとでかすぎやしねぇか?

俺が眉をひそめたその時、隣のリュナが目を輝かせて指を差した。


「ストームレイヴンだぁ! まさか、こんな場所にいるなんてねー!」


「ストームレイヴン? 聞いたことねぇな……」

そんな魔物、《魔獣分類書》には載ってなかったが……。


「ストームレイヴンはね、スカイレイヴンのボスみたいな子なの! ふつうのレイヴンたちは気性が荒くて、ぜ〜ったい群れないんだけど、あの子が出てくるとみんな従っちゃうの。風を支配してるから、飛んでるだけで周りの魔力の流れがぐるぐる変わるんだよ〜! だから他の子たちは逆らえなくて、はいリーダー! って感じで群れになっちゃうの!」

 

「……なるほど、群れに見えてはいるが、実際はスカイレイヴンが生存本能で従ってる……ってわけか」


「うん! だからストームレイヴンがいる時は、空がざわざわしてるの〜。見て、少し風が逆立ってるでしょ?」


「意外と物知りだな……で、リュナ。こいつらとどう戦うんだ?」


「知らなーい!」


……即答かよ。


「でもね、リュミナさんの記憶ではねー、前衛三人で囮になって、B級魔法使い三人以上で殴らないと勝てないってあったの! でも、イザナ様とリカお姉ちゃんなら大丈夫だと思うから――リュナ、前衛やるねっ!」


そう言うや否や、リュナは剣を抜き、スカイレイヴンの群れに向かって駆け出した。


「おい、ちょっと!」


制止の声も聞かず、リュナの瞳が竜のように細まった。


「竜の威圧ッ!」


空気が一瞬で震え、リュナを中心に見えない衝撃波が走った。

スカイレイヴンたちは羽を乱し、空中でバランスを崩す。

リュミナほどの威圧ではないが……動きを止めるには十分だ。


「おぉ……やるじゃねえか!」


俺は片手を軽く払う。

その動きに呼応して、<ブラッドバレット>を発動させる。

血の弾丸が空中に浮かび上がり、一斉に速射。

スカイレイヴンたちは逃げる間もなく撃ち抜かれ、黒い羽を散らして草原に落ちていく。


「……やっぱり、ケルベロスとの死闘で魔法の精度が上がったな。コツも掴めてきた気がする」

 

だが、その弾幕の向こうにはストームレイヴンが残っていた。


「くっ……!」


ストームレイヴンの<エアカッター>をリュナは剣で受け止めるが、衝撃で身体がぐらりと揺れる。

リュナも決して弱くはない……だが、自身の戦闘経験が少ないが故に圧倒的な力量で押されていた。


「下がれ、リュナ! 無理するな、死んだら意味ねぇ!」


俺の声が鋭く響く、けれどそれは怒りからではない。

殺し屋時代、共に戦い、命を落とした仲間たちの顔が……一瞬脳裏をよぎったからだ。


リュナは振り返りもせず、悔しそうに唇を噛みながら後方へ跳ぶ。

……それでいい……死んだら、元も子もねぇからな。


俺は深く息を吸い、意識を研ぎ澄ませる。

……じゃあ次は俺の番だ。改良版<ブラッドショット>を使ってみるか!

仕組みは基本的に同じだ。まず弾丸を血で構築する。

だがここからが改良点だ。弾丸の回転数を魔力で極限まで高め、その慣性で貫通力を増した一発を指先から解き放つ。


「<ブラッドショット>ッ!」

極限まで回転した弾丸が、音を置き去りにしてストームレイヴンの額を一直線に撃ち抜いた。


「は、はや……っ。い、今の、なに……?」

リュナが目を丸くしたまま、信じられないという顔でこちらを見ている。


「ただの血の弾だよ。でもケルベロス戦の反省を生かして生成の時点で意識して、魔力の流れを螺旋にしてみた……ほら、銃弾って撃ったら回転するだろ? それと同じ理屈だ」


イザナの何気ない言葉に、リカは思わず口を開いた。


「……先輩、それ、簡単に言ってますけど、普通はそんなすぐに出来ませんよ……。私の<エアガン>や<エアーショット>だって、あの威力になるまで二十年かかったんです。魔法の精度を上げて、魔力の流れを調整して……ようやく、音速に届くようになったのに……それを、先輩は……たった一ヶ月で」


「まぁ、こんなもんだろ。とりあえず、レイヴンの素材は高く売れるみたいだからな。皮とか剥ぎ取って、残りはリュナが食べてもいいぞ」


「やったー! いただきまーす!」


リュナは嬉しそうにストームレイヴンへ駆け寄り、スライム状に変化した腕でそのまま体を包み込んだ。

俺が止める間もなく、肉も骨も静かに吸収され、やがて皮とストームコアだけが地面に残る。

……おいおい、まだ皮とか剥ぎ取ってねぇが……まぁいいか。ここまで綺麗に処理されたら文句も言えねぇわな。

 

「うわ……すごい……。リュミナさんって、こんなに綺麗にご飯食べられるんですね!」


リカが目を丸くする横で、俺は無言でその光景を見つめていた。

……これを見てドン引きしないあたり、流石だな。やっぱり昨日のスライム事件で免疫が……いや、考えるのはやめておこう。

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