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殺し屋上がりの生命魔法使い〜俺は一応ヒーラーとして転生したんだが〜  作者: 刻彫
第一章 『異世界スローライフ(?)』
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第18話 『スローライフの終わりに』

俺は家に帰ったあと、暮れるまで森の中を探し回ったが、ピアスはどこにも見つからなかった。


……ま、とりあえず湖で休むか。


そう思い、湖へ向かった。

月明かりが水面に揺れ、森の影が伸びている。

その湖畔に、ひとりピンク色の髪をした小さな少女が湖畔に向かって何か語りかけていた。


その姿を見た瞬間、息が止まった。

俺はこの人物を見たことある、いや正確にはこの面影に似た人物を知っている。

 

「……リュミナ」


勝手に声が漏れていた、だが間違いない。

オッドアイの瞳、水晶のような小さな角。

ただ、十四歳くらいか、以前の彼女よりずっと幼く見える。


「ん? わたし?」


首をかしげる仕草まで似ている。


「……お前、リュミナ……いや、先生……だろ?」


思わずそう口にしたが、やはりどこか違和感がある。

目の前の少女は確かにリュミナに似ている……けど、何かが違う。俺の本能が、これは別の存在だと警鐘を鳴らしていた。


「ちがうよ〜? わたしは、あの時あなたに助けてもらったスライム!!」

 

「……は?」


思考が一瞬でフリーズした。

スライム? この少女が?


……いや、待て……ピアス……。

……ピアスを媒介に、リュミナの姿を模倣したってわけだよな? さすがスライム、やることがえげつねぇが……一応、確認はしておくか。


「はぁ……お前、俺のピアス、食っただろ?」


「え、そんなことより、回復してあげたお礼を言われてないんですけどお?」


「質問の答えになってねぇ……いいから吐き出せ!」


俺はスライムのほっぺをつねる。

ぷにっとした柔らかさに、思わず手が止まった。

スライムっていうより……人肌だな、温かくてやわらかい。


「きゃあっ、いたい、いたい! せっかくイザナ様の好みの姿に変身して待ってたのに……////」


……なんで嬉しそうなんだよ。てか好みの姿ってなんだよ。


「俺はスライムなんか好きじゃねぇよ。まあでも、食っちまったもんはもう出ねぇわな……とりあえずだ、その姿はやめてくれねぇか?」


「いやだよ。イザナ様に好かれたいもん」


……目を輝かせて言うな、にしてもこいつ……どういう構造してんだ?


「そうかいそうかい。でもな、俺は明日、この森を出る。だからお前とはここでお別れだ。好きになるならちゃんとスライムの異性にしろ」


「……え? ……わたしも連れてってくれるよね?」


「は? バカを言うな。ただのスライムを連れていけるか。お前にトムラウシ山を越えられるわけがねぇだろ。命を無駄にするな、この森でゆったりスローライフでも満喫してろ」


「いやだ! それに私は一回死んでるもん! ……イザナ様の命かけた蘇生のときにね? イザナ様の魔力と、わたしの魔力がまざっちゃったの。それで、体の中の魔力がドーンって増えて……変性スライムに進化したんだよ! 前は霊獣とか魔獣とか、強いものは吸収できなかったけど……いまはぜーんぶ取り込めるの。……だから、恩返しがしたいの!」


……また恩かよ。ていうか、俺は命かけた覚えないんだけど……


「いや……俺は命なんかかけてねぇぞ?」


そう、俺はただ<生命ブースト魔法(仮)>をこのスライムに使っただけだ。別に命を張るような真似をした覚えはなかった。


「命をかけたのはね、わたしのほうだよ。あのとき、イザナ様のこと信じて、ぜーんぶの魔力をきゅーって絞ったの。そしたら、イザナ様の魔法と混ざって……わたし、生き返れたの!」

 

……つまり、俺の魔力を媒介にして、進化したってわけか? ……全く面倒だ。


「自然発生ではなく人為的進化種、ってわけか」


こくり、とリュミナ……いや、スライムが静かに頷いた。


「リュミナ……いや、スライム。もし望んでない進化だったら、悪かったな」


「もし、そう思うなら……わたしも一緒に行きたいっ! ちゃんと役に立つからっ、ね? イザナ様!」


まっすぐな瞳に思わず言葉を失う。

……くそ、まためんどくさいことになった……リカになんて説明すりゃいいんだ……。


頭を掻きながら、ため息をひとつ。

「はぁ……まあ、わかったよ。……お前、名前はあるのか?」


「名前? わたしは変性スライムだよ?」


「いや、それは種族名だろ……けど、リュミナって呼ぶのも違うし、スライムってのも人型に似合わねぇしな」


俺は少し考え、ふっと笑った。


「――リュナ。お前は今日からリュナだ」


少女――リュナはぱっと顔を輝かせて、嬉しそうに笑った。


「リュナ……! はいっ、わたし、変性スライムのリュナです!」


「いや、スライムはいらない。リュナでいいよ。それとこれからリカっていうエルフを紹介するからな。ちゃんといい子にしてろよ?」


全く、めんどくさそうなやつが仲間になってしまった。

 

「うん、わかった!」


リュナが嬉しそうに手を繋いできた。

指先に伝わる感触はやはり人間らしい温もりだった。


「……手、スライムのくせに暖かいんだな。ちゃんと人のぬくもりだ」


「えへへ、それはイザナ様が好きな――」


「待て。それ以上続けると殴るぞ、それになんで俺の記憶を知ってるんだ?」


「ひぃっ!? ち、違うもんっ! じょ、冗談だよぉ! リュミナさんの鱗はね、小さいころに作られたやつだったの! だからそのときの姿を、わたしが再現しただけっ! それに、鱗の中にちょっとだけ記憶が残ってて……リュミナさんね、すっごく強い魔法使いで、剣も使えるんだよ!」


「俺の質問の解答にはなってないが、まぁなるほどな……」


リュナの再現能力には舌を巻く。

どうやら食べたものを形だけでなく、記憶の断片まで再構築できるらしい。

要するに、俺の細胞か何かも食べて記憶を覗いているのだろう。……だが、裏を返せば“見たくない過去”まで覗けるってことだ。


「……使いどころを間違えなきゃ、すごい能力だな」


俺はそう呟きながら、繋いだ手をそっと離した――その瞬間。


「えへへ〜、逃がさないよっ!」


リュナの指がとろりと溶け、ぬるりとした感触が指の隙間をすべり抜けて、俺の手を包み込んだ。


「おい、やめろっ……冷たっ!? いや、なんか温かっ!?」


「ふふーん、離さないもーん。だって……イザナ様の手、気持ちいいんだもん」


「スライムのくせに……くそ、どこでそんなスキンシップ覚えた!?」


「えへへ〜、リュミナさんの記憶にありましたぁ」


……なるほど、やっぱり余計な記憶まで覗いたな。

俺は額を押さえ、深く息を吐く。


「はぁ……ほんっとに手がかかるな」


月明かりの下、リュナはにこにこと笑っていた。

……さて。問題は、この変性スライム少女を、リカになんて説明するかだな。

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