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殺し屋上がりの生命魔法使い〜俺は一応ヒーラーとして転生したんだが〜  作者: 刻彫
第一章 『異世界スローライフ(?)』
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第12話 『竜の姫が遺した物』

異世界に来て十日目。


あれから毎日、リュミナと剣を交えた。

最初は死にかけの連続だったが、今では剣も魔法も手応えはある、多少なりとも形にはなってきた気がする。


それと、<ブラッド・ガントレット>にも改良を加えた。

リュミナの竜化は攻防一体の装甲、打撃の瞬間、鱗が逆立ち、刃のように相手を切り裂くこともできる。

その構造を真似して、ガントレットにも鱗状の装甲を追加してみた。


結果、スーツはズタボロ……今は上半身裸でズボンだけ。

殺し屋時代の銃創や深い傷跡がそのまま晒されてて、正直あまり気分のいいもんじゃない。


だが、その代償で得た成果はでかい。

<ブラッド・ガントレット>は<ブラッド・ドラグアーム>に進化し、さらに先端は血で竜の爪を形成させてみた。

仕組み自体は他のブラッド系と変わらないが、鱗の曲面装甲と層構造が外殻となって熱や衝撃を受け流し、防御性能も段違いに上がった。


それともう一つ、<細胞ブースト魔法(仮)>の応用技、<神経電撃(ニューロ・ショック)>だ。


これは、スライムを蘇生させたときに使った生体電気を応用、増幅し、攻撃手段に転用したものだ。

いわば生体スタンガン、対象の神経を一時的に麻痺させ、致命傷を与えずに無力化できる。


ただし<ブラッド・ドラグアーム>を纏って放つと鱗が伝導体となり、電流の出力が数百倍に跳ね上がる。


……威力だけならきっと雷魔法にも引けを取らねぇんじゃないか? この世界でまだ雷魔法ってのを見たことはないが、それに近いもんを自力で作れたって思うと、正直ちょっとテンションが上がる。


実戦で試してみたくてうずうずするが、初めて披露したときのリュミナのドン引きした顔を思い出すとどうにも気が引けるんだよな……。


ふとそんなおさらいを頭の中で繰り返しながら、木になっている桃のような果実をもぎ取り、軽く拭ってから齧った。


「……あぁ、やっぱ、もぎたての果実ってのは、なんでこんなに美味いんだろうなぁ……」


思わず頬が緩む。

……そうだ、リュミナにもこれを食わせてやろう。


 



「それ……毒です」


「は?」


リュミナの一言に思考がフリーズする。


「え、いや、もう食っちまったんだけど!?」


「ふふっ、そんなに慌てなくても大丈夫。それほど強い毒ではありません。発酵させれば甘みが増して、ピーチワインの原料にもなるくらいですのよ? 心を休めたい夜には、これ以上の果実はありませんわ」


「……そ、そういうことか。だから今、ちょっと眠いのか」


うまそうだったから、観察眼を使うのをすっかり忘れてた。


マドロミピーチ

品質:標準

効果:食べると身体の緊張がゆるみ、軽い眠気と心地よい倦怠感をもたらす。


ピーチ……やっぱり桃の一種なのか、成分を抽出すれば睡眠薬にもなりそうだ。

そう考えていると、リュミナが静かに口を開いた。


「……私は、もう一度この世界に命を繋ぎ止めることができて、本当に嬉しかったです。生前、私情で弟子を取りませんでした。でも、それがずっと心残りで……。だから最後に、あなたにすべてをぶつけることができて……もう、思い残すことはありません」


彼女の声は穏やかで、どこか満ち足りていた。

……戦ってるときとは違って、普通に話すときは言葉も仕草も上品になるんだよな、まるでお姫様かってくらいに。


「……それは本当に偶然だ。俺に人を生き返らせるような魔法はない。神様が先生に、ほんの少しだけ生きる時間をくれただけだろ」


リュミナは小さく目を伏せて、静かに微笑んだ。


「偶然でも、それでよかったんです。……死んだ後も、数千年、数万年と悔い続けるなんて嫌でしたから。だから、こうしてあなたに会えて、戦えて……それだけで報われた気がするんです。私の、罪滅ぼしに付き合わせてしまって、ごめんなさいね」


「いいんだよ、先生。あんたの命だ。自分の好きにすればいいさ」


その一言で、リュミナの顔がぱっと明るくなった。

まるで重荷が消えたみたいに……


「イザナさんって……どこか、昔の仲間に似てますわ。みんな正義感が強くて、優しくて、いつも無茶ばかりして……それでも誰かのために戦うような人たちでした。あなたを見ていると、あの頃の旅の空気や、仲間と食べたご飯の味まで思い出してしまいます。……不思議ですね。もう、きっと……何百年も前のことなのに」


「それは……よかったな」


「もうっ、まともに聞いてないでしょ!」


「いや、ちゃんと聞いてるよ。……照れくさいだけだ」


そう言うと、リュミナは少し俯き、静かに息を吸い、言葉を紡ぐ。


「……これは、私に生きる時間をくれたお礼です。そして……私の罪滅ぼしに付き合ってくれたお礼でもあります。……どうか、受け取ってください」


そう言って、彼女は耳元から小さなピアスを外した。

それは、水晶のように透き通った小さな竜鱗のピアスだった。


「ありがとう……大事にするよ」


「……このピアスを、私だと思ってください。そして……あなたの旅に、これを連れていってくれると……嬉しいです」


言い終えたあと、リュミナは少しだけ目を伏せ、微笑みながら、そっとそれを俺の手に握らせた。

その手は透けているのに、温かかった。


「いや、俺は冒険者になるつもりは――」


最後まで言い切る前に、リュミナがふっと俯いた。

その顔は影に隠れて見えないが、肩が小さく震えていた。


「……わ、わかった! わかったよ! 俺がお前を連れてってやる! 一緒に冒険しようっ……な? だから泣くなよ……」


そう言うと、リュミナは涙を拭うように目元に手を当て、それから、にこっと笑った。


「……ありがとうございます。イザナさんのその言葉……とても嬉しいです。……ですが、私はもうこの世界を離れなければなりません。ですがその前に、西の大国を、一目だけでも見ておきたいのです」


「西の大国? なぜそんなところに?」


「……生前の仲間のひとりが、その国の王になったんです。ずっと黙っていましたが、私も一応王女でしたから……。だから……消える前に、この目で確かめたいんです」


「王女!?」


思わず声が裏返る。

……そりゃ気品あるとは思ってたけど、まさか王女だったとは。


「ふふっ、名ばかりの王女でしたけどね」

 

「そ、そうか……。あー……で、仮にだ。もし俺が冒険者とかいうのになるなら、最初はどこ行きゃいいんだ?」


リュミナは少し考えてから、微笑んで答えた。


「イザナさんは転生者ですから……北の大雪山を越えてください。越えた先ににシモカプ村があって、さらに進むとピエイの町という場所があります。辺境でもかなり栄えてる町なので、最初の拠点としては、そこがいいと思います」


「大雪山、ね。……名前からして寒そうだな」


「北の平原を抜けて、カネヤマ湖を渡った先にあります。……大きい山なので、すぐに分かるはずです」


「そうか。寒そうだし、装備や食料の準備はしっかりしておかねぇとな……」


アニメや漫画なら、最初に出会う師匠やドラゴンから伝説の装備や剣でももらえる流れなんだろうが、俺の場合はピアスか。

そう思うとちょっとおかしくて笑みがこぼれた。


「……そろそろ、行かなくては……イザナさん、あなたに出会えて本当によかったです。短い間でしたが、あなたと過ごせた日々は、私の宝物ですっ」


「おう、気をつけてな。そして……これからもよろしくな」


そう言って、俺は手の中のピアスをそっと耳に着けた。

冷たく光る竜鱗のピアスは、陽の光を反射して淡く輝いている。

リュミナはその様子を優しく見つめ、どこか満足そうに微笑んだ。


……そして、竜の姫、リュミナ・ドラゴニアは、空気に溶けるように静かに消えていった。

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