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9 視線




 華やかな音楽が流れていて、貴族たちの朗らかな会話が聞こえてくる。いつもの友人たちが集まっている場所へと向かうと、途端にざわめきが巻き起こったが、ベルナールがいち早く立ち上がって声をかけた。


「ごきげんよう。クロエ、ディオン。来てくれて嬉しいな。先日の僕の提案はまだ保留中だったと思うけれど前向きに検討してくれているようでよかったよ。うまく両家で話が進むといいね」


 彼の一言で、多くの人は大体のことを察することができただろう。


 ベルナールの紹介で、二人が出会ったこと、共にいることで前向きにその紹介をとらえていること、けれどもまだ正式には決まっていないこと。


 これならば、いざなにか不都合が起こって正式に婚約を結ばないとしても話が違うとはならないし、けれどもクロエを狙って声をかけようとする男性は今は断念するしかない。


 事情を説明する手間が省けて助かったと思うし、その気遣いが嬉しい。


「ええ。お招きいただきありがとうございます。私もいい人を紹介してもらえたことに恩を感じていますわ」

「俺からも、お礼を言わせてもらいたい。まだこれからどうなるわからないが、交流を深めていけたらと思っている」


 クロエの言葉に続けてディオンも返し、その無難な返答に、先日の支離滅裂な彼を思いだすと少し面白くて、いつものように仲間内の輪に入る。


 トリスタンではなくディオンが隣にいるのは不思議な感覚だ。


 彼とは深い付き合いではなかったが、王太子の候補から外れて一番最初に婚約を申し込んできてそれ以来の長い付き合いだった。


 だからこそトリスタンとは違う髪色や体格、声音のすべてが新鮮だった。


 その目新しいクロエとディオンの様子にざわめきは多少治まっても、小さな驚きの声はあちらこちらで上がっていてそわそわとした雰囲気だ。


 ただ噂されていても、クロエはあまり気にしないタイプだ。


 しかし彼はそうとは限らないかもしれないとチラリと視線を向けるが、平然としていて、今日は問題なく終えられそうだろうと思える。


 すると早速ベルナールとアリエルは、クロエのことには深くこれ以上触れずに適当な話題を提示する。


「実は、来月に入る前に父と母とともに王都の方に向かう予定でね。久しぶりの王都だから雪が降る前にアリエルといろいろと回りたいんだ」

「今年はわたくしも早めに向かう予定ですのよ。皆さんはお勧めの場所などあるかしら?」


 早速、だされた話題は二人のデートスポットについての話題であり相変わらずの惚気具合にクロエは肘掛けに腕を置いて耳を傾ける。


「それなら、王城の裏手にある丘には新しい見晴台が設置されたらしいわ。そちらに行ってみるのはどうかしら」

「たしかに聞いたことがある話だな」

「わたくしはやっぱり王都の城下町ですわね。毎年新しいお店が出来ているもの」

「あら、危なくないかしら?」


 見晴らし台で眺めを楽しむ、城下町でのお店探し、すぐに上がる案にさらに話題は広がっていく。


 そうするとクロエやディオンにひそかに集まっていた視線はなくなっていく。


 しかしなんだか気配を感じて、クロエは少し視線をやった。いつもなら嬉々としてベルナールの話題に乗っている男性……たしかカジミールという侯爵家の男性だ。


 彼は何というか、トリスタンと似たような性格をしていて、考え方が少し古風な印象を受ける。


 アリエルの刺繍の話の時にも一番にそう言った行為は女性の特権だと言っていた張本人で、友人も多く彼に賛同する男性陣がおおい。


 そんな彼は、ディオンのことを凝視しており、彼らの関係性について考えるが特に深い仲だったとは思えない。


 ディオンは誰かと個人的に仲良くしている素振りを見せるタイプではなかったし、アリエルたちと交流があったことにだって驚いたのだ。


 しかし見つめているだけだ、いくらトリスタンと似ていると言っても、警戒する必要はないだろう。


 そう考えて、久しぶりの穏やかな時間に意識を戻したのだった。



 一頻り会話を楽しんで、ちらほらとその場を離れる人が増えてくる。


 その様子に、クロエもディオンもお開きの雰囲気を察してアリエルたちに一言告げて、退場するつもりで視線を交わす。


「ベルナール、アリエル、そろそろ私たちも失礼しますね。今日も楽しい交流ができて良かったです」

「ええ、クロエ。また、王都でも話をしましょうね」

「久しぶりに落ち着いて皆で話ができて良かったよ、ありがとう、クロエ、ディオンも。僕は二人のことを応援しているから」


 彼らは、クロエの言葉に笑みを返して更にそう付け加えた。しかしその時を待ってましたとばかりに、会話に割って入る男性がいた。


 先ほどディオンのことを見つめていたカジミールだ。


「待ってくれ。会話に割って入るようなことをしてすまない、ベルナール様。ただ少し私に時間をくれないか?」


 言いながらも彼の眼はディオンに向いている。


 ベルナールもその彼の今日の様子に気が付いていたらしく、すぐに言葉を返す。


「カジミール、なにかな。もう彼らも帰るところだし手短にしてほしい」


 アリエルも彼に注意を払って、笑みを浮かべながらも視線を向けた。




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