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8 パーティー




「そうだ、ジュリー。このパーティーが終わったら私、そろそろ王都の方に戻ろうと思っているんですよ」


 パーティーのための衣装を着せてもらいながらクロエはお付きの侍女のジュリーにそう伝える。


 彼女はクロエの腰にいつも通りの仕込みナイフのケースをセットしつつ言葉を返す。


「あら、左様でございますか。……そうですね。秋の収穫も終わりほかの貴族の方々もあちらへ向かうでしょうから丁度いい時期ですわね」


 クロエが着ているドレスは少々変わった性能をしているが、一見すると普通の令嬢の物と大差はない、しかし足元はいつでも長距離を移動できるようなヒールの入ったブーツだし、常に帯剣している。


 また、現場に急行する際には女性騎士でも馬にまたがれるようにドレスの裾が大きく取られており、クロエがドレスを着たままアクロバティックな行動を取れるのもそう言った工夫がなされた衣装のおかげなのだ。


「でしょう? いくら討伐任務を兼ねた里帰りでも、そろそろ成果の報告も必要ですし、どうせ、こちらの友人も王都へ向かいますから」

「では、私も少しずつ準備をしておきますわ。それで本日も同行は必要ないのかしら? クロエ様」


 彼女の言葉に「そうですね、必要ないわ」と短く返すと彼女は少し寂しそうにクロエに視線を向けるけれどいつものことなのですぐに了承の返事をする。


 今回のようにひとところに滞在して、婚約者であったトリスタンとの交流や魔獣の討伐、更には、領地周辺の貴族との仲を深めるための里帰りならばこうして彼女も連れてくる。


 けれど、基本的にはタウンハウスの方にいてもらって公の場所以外では付き添ってもらうことは少ない。


 クロエは騎士団の中でも魔獣の討伐部隊に所属しているので、必然的に遠征も多く彼女を連れまわすには負担が大きいのだ。


 ……それに私自身、気まぐれな行動をとることがありますから、振り回すのは酷ですし。


 前回なんて突然馬車から飛び降りたのだ。そこにジュリーが居合わせたらとても困った事態になっただろう。


「……わかってはいますけれどね。私だって、クロエ様は昔から奔放な方ですもの」

「ええ」

「ですが、はぁ。せっかくお美しいというのに、常にお仕えしてその絹糸のような黒髪を整えてお世話をすることができないのは、残念だとも思いますわ」

「……悪いとは思っていますよ」

「ええ、ええ。そうでしょう」


 少し口をとがらせて言う彼女は、衣装を整えてから、クロエの髪に触れる。顔の横の髪を簡単に緩く後ろで止めて編んでいるだけのそれを名残惜しそうに見つめられて静かにされるがままで佇む。


 櫛を通されて、なんかいそれをするのだという気持ちはあれど、本来ならばもっと結い上げたり髪飾りをつけたり彼女がやって楽しい事をたくさんできる長さである。


 それも、いつもの髪型でいいと断っているので、ジュリーが名残惜しんでいる姿を止める訳にはいかないのだ。


「いつも助かっています、ジュリー」

「そうですか」


 簡単なお礼では機嫌を直さない彼女に、クロエは王都に戻ったらなにか流行の物でもプレゼントしたらいいだろうかと考えたのだった。




 パーティーだったり、お茶会だったり、狩猟会だったり、貴族というものは大体何かしらのイベントを開いて社交をしてほかの領地の動向を窺ったり情報を集めたり、結束を強めたりする。


 このレガリア王国北側諸領地の集まりは、結束を強める意味合いが強いが、今の時期になると王都へ向かう日取りの情報集めという側面が大きい。


 ただそれはクロエにとってはあまり関係のないことで、実家の家族もすでに王都にいるので気楽なものだ。


 そんなことを考えながら、ホールに入る前にディオンと合流する。


 彼は二人きりで話した時ように取り乱したりはしなかった。


 その姿は今まで視界に何度も映っていた彼であり、特になんとも思っていなかった姿なのに不思議でまじまじと見つめてしまう。


「……」

「……」


 貴族の中でもあまりニコニコとしている男性というのは多い方ではなく、たまにニヒルな笑みを浮かべる様な程度でクールな人が多い。


 もちろん彼もそれにたがわず落ち着いた印象で、すぐに真っ赤になるようなこともない。


 しかし、見つめていると、目が合って次第に困ったような顔になって眉間にしわが寄って顔が赤くなった。


「……照れない。というわけではないのね」

「そ、れは……仕方ないじゃないか」

「でも挙動がおかしいというわけでもないですね」

「だって、変な挙動の人間がそばにいるのは、ほかのファンに見られたら反感を買うかもしれないだろ?」


 当たり前のようにそう返されてクロエは目を丸くした。


「ほかのファンがいるのかしら?」

「まだ、あったことはないが。クロエのことだ、いるものと思った方がいいはずだし」

「……先日のように敬語が混じったりしませんね」

「帰ってから練習したからな」


 焦ることもなく物静かにそう返す彼に、健気なことだと思う。


 ……私がその場で取って付けた役目をまっとうするために、そんなこともできるんですか。


 そう思うと、なにとも言い表しづらい心地になる。そっと彼の手を取ると少し肩が跳ねてそのままホールに入った。





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