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48 訪問


 

 翌日には、魔獣の少ないこの時期に狩りをさせてくれてクロエのうわさを流すことに協力してくれたエルヴィールに二人で会いに行った。


 彼女は外面を忘れて、ディオンのことをじっとと見つめていた。


「……あらやだ、クロエのことを独り占めしようとする人と交わす言葉なんてありませんわっ!」


 それからカッと目を見開いてそう言い放つ。


 彼女はクロエに対してあんなに懐いてなんでも協力してくれるというのに、ディオンに対してはそうではないらしかった。


「別にわたくしはクロエを助けようとしただけで、あなたとの仲を応援するつもりはなくてよ! クロエが自分の道を行くのはいいけれど、わたくしに構ってくれなくなるなら話は別だわ! わたくしの方がずっと長い付き合いの友人なんですのよ!」


 エルヴィールはディオンに対して友人という部分を強調し、付き合いの長さを引き合いに出して、威嚇した。

 

 そんな彼女にクロエは制止するように手を前に出す。


「やめてください、エルヴィール。結婚したとしてもあなたのことをないがしろにする理由にはしません」

「それでも、嫌なものは嫌なのよ。わたくしのクロエなのに! 男の人に取られるなんて、二人の間にあった絆は何にも代えがたいもののはずなのにっ!」


 その言葉を聞いたクロエは、そうはいっても先に自分は結婚しているではないかと思う。


 結婚してしまって男の人にクロエが取られるのが嫌だというのならば、自分は結婚しているのにと言われて当然だろうと思う。

 

 しかし彼女はそんなことは想定していない様子で、むきになってディオンのことを見つめていた。


「それは……ふふっ、そんなこと気にする必要はないです。俺はクロエ様のことを独り占めなんてするつもりなんてないし、誰かが縛れるとも思っていません」


 ディオンは少し笑ってからエルヴィールの言葉に答える。


 立場のある人なので彼が委縮してしまわないかと思っていたが、割と肝が据わっていて、平気そうだった。


「そ、それでも認めないわ、だってあなた、クロエに助けてもらってばかりの情けない人なんでしょう?」


 しかしそんな程度の言葉でエルヴィールは引くことはなくディオンに追撃を仕掛けた。


 けれどもディオンはその言葉を全く否定せずに受け止める。


「その通りです。俺は、クロエ様のことを大切に思っている方たちから認められるような人間じゃない。でも人生かけて彼女のことを応援する覚悟だけは決めてます」

「応援?」

「はい。クロエ様は俺の人生に現れたたった一人の天使みたいな人で、唯一無二の美しさと高潔さを持ち合わせた、生きる上での指標みたいな人でっ」


 ディオンは少し頬を染めて、前のめりになる。


「だから俺がクロエ様のやることを邪魔することなんて絶対にありません。友人との交流を阻害するなんてもってのほかですからっ、俺はただ影みたいにクロエ様の日常の一つの歯車になれたらそれだけでもう満足なんだ」

「…………」


 そしてクロエの彼に対する愛情は未だ伝わっていない様子で彼は、クロエと結婚するけれど自分の権利を主張するつもりはないらしい。


 ……そういえば告白の返答は、ありえないでしたね。


 ふと、そんな問題があったことを思い出す。


 しかし今その話をするわけにも行かずに、彼らを見つめるとエルヴィールはまったくもって理解できないという顔をして、口をへの字に結んでクロエの方を見た。


「……こういう人なんです」

「こうって言われても、どういうこと?」

「ファンです」

「ファンらしいわ」

「…………まぁ、クロエのことを大切にして、縛らないっていうなら、認めてあげなくもありませんわ」


 そして彼女はディオンとクロエの関係性を理解することをあきらめて、勢いをそがれてディオンに言った。


 その言葉に彼は「もちろんですっ」と返してそれから続ける。


「エルヴィール王太子妃殿下にはとてもお世話になっていますし、俺は迷惑しかかけていないので認めてくださらなくても当然だと思っていました」

「そんなに、わたくしの心は狭くないわ」

「ありがたいお言葉です。それに言い遅れましたが、手を貸してくださりありがとうございました。エルヴィール王太子妃殿下のおかげで、こうして婚約を結ぶことが叶いました」

「……あなたのためじゃありませんわ」

「はい、理解しています」


 今回二人で訪問した目的であった感謝の言葉にエルヴィールはつっけんどんに返す。そしてまた、クロエのことを独り占めしないようにと念を押すのだった。




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― 新着の感想 ―
私の相棒なのよ!とキャンキャン威嚇してるポメラニアンに、ご主人様は素敵だよね!君とも遊んでくれるよ!という高いテンションで遊びに誘うシュナウザーかなと。
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