43 友人
クロエはクローディットと対面して話をして、それから情報を集めた。
すると道筋は見えたような気がするが、ネックになる問題もいくつか出てきて頭を悩ませていた。
クローディットは、彼ら兄弟から引き離すしかない、けれども強引にそれを成すために必要になるものは、多くの人間を自由にできる地位だ。
それを予測していたディオンの言葉はきっかり当たっていた。
……というか、あの人……。
頭の中に彼の顔が浮かんで、クロエはなんとも言えない気持ちになる。
クローディットが言った通り、ディオンはとても優秀な人間だ。なのにまったくもってそれをひけらかすことはなく、むしろ隠していたまであっただろう。
今更ながらそれを知って、彼の言動を思い出してみると、ゲームに慣れていないのも純粋過ぎるのも、当然のことだったと思う。
たまたま声をかけたクロエ以外を知ることがなかっただけで、彼の方こそ彼に尽くすようないい女性と出会えたのではないだろうか。
しかしそんなことは可能性でしかなく、そんな自由を得られない上に、今でもなにも望まずに、自分よりも力のないものを守って必死だ……。
……尊敬するなんて言葉で言い表すのは、やりたくてやっている努力でも苦労でもないからには違う気がする。でもやっぱり、すごく苦しんだ末でも必死になってやってきたのでしょうから、すごいと思うんです。
そんな彼の手を引きたかった。
だからこそ彼の望む形で未来を手に入れたい。
ところでクロエには一つとても使える手札がある。
今、このタイミングだからこそ使えるものだったがそれは同時に、クロエの生き方を変えてしまうもので、避けるべきではある。
けれども画期的な答えは出ないし、大人しくエルヴィールの元へと向かうことにした。
冬ながらに天気のいい日だったのでバルコニーで机をはさんでエルヴィールと向き合う。
彼女は変わらず忙しい日々を送っているはずだったが、とても機嫌がよくて、クロエにもお淑やかに接する。
出会い頭にライバルなのに! とヒステリックを起こさなかったので一安心だが、今はそれがないことが少し惜しいとも思う。
「だからね。わたくしたまに、あの人の元にいって、健康な体系に戻ってきたか見てあげていますのよ」
「……」
「食事の内容も見直してあげて、野菜をたっぷりとらせて、潤沢な魔力を吐き出せるように、運動も欠かさずさせるように兵士には伝えていますもの」
「……そうですか」
そんな彼女がうっそりとほほ笑みながらなんの話をしているかというと、捕らえられたオードランの話である。
平民とは違って、魔力を持っている貴族は、罪を貸して捕らえられても魔力を搾り取るために長生きさせることが多い。
それらの魔力は彼らが犯した罪によって被害に遇った人間が利用できることになっており、エルヴィールはその成果をできるだけ多くしようと企んでいるというわけである。
一般貴族の生活では魔法は使わないことが多いものの、領地や国のための魔法具に魔力を注いで維持したり、魔力が足りない領地に売り払ったりもすることができるので、魔力は何かと重宝する資源なのだ。
「あんなに憎たらしかったのに、今ではなんだかとっても愛らしく見えてくるのですわ。どうしてかしら、うふふふふっ」
「不思議ですね」
クロエは彼女の黒い笑い声を聞きながらも、若干適当に返した。
すると彼女は、クロエの反応が芳しくないことに首をかしげてそれから、ぱっと思いついたような顔をして、太陽の下ではじけるような笑みを浮かべる。
「! …………はぁ」
しかしそれから、一人で勝手に肩を落として、耳に髪をかける仕草をしながら、バルコニーから遠くの方へと視線を向けた。
その様子はどこか物憂げで、絵画の題材にぜひという画家が現れそうな彼女の美しさが引き立つ表情だった。
「……どうかしたのですか、エルヴィール」
「……」
「私の返答が気に入りませんでしたか」
問いかけると彼女はちらりとクロエを見るけれど、つんとした表情で遠くを見ているだけですぐには返さない。
今までに見たことがない反応でクロエは黙って彼女がどういう気持ちなのか聞くために待った。
するとさらりと風が吹いて空間を温める魔法具を使っていても少し寒い。
王都の小さく見える家々の屋根にはこんもりと雪が降り積もっていて、なんだか可愛らしく感じる。空を見れば遠くに鳥が飛んでいる。