4 結論
「それにアリエルがベルナールを立てていたと言っていたけれど、それはベルナールが最初アリエルのことをたたえて自慢して心の底から愛していると示していたからアリエルもそうしただけでしょう」
彼らの言動を逐一思いだして、彼の言葉をつぶしていく。
「それに、あなたはまるでベルナールもほかの男性たちも全員が、女性がつつましく男性に尽くすようであればいいと思っているという前提で話をしていますね?」
「あ、ああ」
「少なくともベルナールはアリエルに誰よりも尽くしていて、自分もそうしたいと意思表示をしていたでしょう。自分も手作りの贈り物を渡したいと言っていた」
「……それは、ただ体裁でそう言っただけで……」
「ならそのあとに男性陣が言った言葉に同意しているはずですよね、その言葉を一度でも聞きましたか?」
さらに言葉を重ねるとトリスタンは目を見開いて納得できないような顔をして黙り込んだ。
「……」
「それらのことを鑑みると、あなたは、自分に都合のいいアリエルの言動ばかりを私と比較してほかのことは見て見ぬふり」
クロエはさらに、彼を煽るように言う。
「もう自分のどこが悪かったのかわかるでしょう? 言ってみてくださる? ねぇ、トリスタン」
彼がしていたように大人が叱るみたいに言ってクロエは髪を後ろに流して笑みを深めた。
「それにね、私があの二人と仲がいいこと、あなたは知っていましたよね。よく引き合いに出そうと思いましたね」
「……」
「それで? 比べるならば私も比べましょうか。トリスタン」
「……」
「あなたは、私に行動を伴った愛情を示してほしいと望むけれど、あなたはベルナールに比べて私をどれだけ愛してくれましたか?」
「……っ」
「贈り物をしてくれたことは? 私を誇らしく思って褒めてくれたことは? 同じ立場に立って尊重してくれたことは? 彼のように優しく私を愛してくれたことは? 一度でもありましたか?」
トリスタンはまったくクロエの主張など聞きもせずにただ要求して、ただ自分の意見を押し付けて、まったくクロエのことなど考えていないと先程長々と示してくれた。
反論はできないだろう。
「彼らは、まずは一方が与えて、それを返す形で愛情をはぐくんでいる。なのに自分はなにもせずに他人が持っている物だけをうらやんで比べて、自分もそうされて当たり前だなんてとんだ傲慢ですよ。トリスタン、いい加減にしてほしいのは私の方です」
そうしてきっぱりというと彼は静かに拳を握って小刻みに震わせた。
これまでもそれほど仲がいいというわけでもなかったが、それなりにやってきたつもりでいた。
しかし、これはもう致命的であり、修復の仕様がない決裂だった。
けれども彼はそう思わなかったのか、それから大きくため息なのか深呼吸なのかわからないような息を吐いてクロエの方を見据える。
「っ、そ、そんな俺を追い詰めたようなことを言ったって、結局俺の意見をお、お前は呑むべきだよな? だって俺たちは婚約者でお前は俺の━━━━」
「ええ?」
クロエは彼の言葉をさえぎって、疑問の声をあげてそれから席を立った。
まだ馬車は屋敷につかない。でももう、この場にいるのはどうしようもなくくだらないことで、遠慮したい状況である。
「今の話があったうえで、私があなたを愛する可能性がまだあると?」
「は?」
「だって……ねぇ、ははっ、比較的に見てあなたは私にとって、愛するに値しない、と示しましたよ」
言ってから馬車の扉を開けた。
風が吹き込んで、馬車の中の淀んだ空気を吹き流してくれるようで心地がいい。
こんな小競り合いなどまったくもってくだらない。
クロエはそう思って、振り返りながら笑っていった。
「もういいです。結論は出たのですから、あなたに心残りなど一片もありませんよ。さようなら、トリスタン」
そうして馬車から飛び降りた。彼の驚いた顔が最後に見えてその間抜けな顔で少しスカッとして、それから魔法を使ってふわりと着地する。
クロエの魔法は風の魔法で、騎士として振るうにも十二分に強力だ。
そしてあんな小さな馬車の中に収まるような小さな女ではない。あんな人とともにいるぐらいならば飛び降りて、一人で歩くのが自分らしさという物だろう。




