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35 反撃



 クロエは、最初にエルヴィールの話に乗ってたのしげにしていたパラディール公爵家の隣に領地を構えるジェローム侯爵に視線を向ける。


「ゴホンッ、お言葉をさえぎるようで失礼とは存じますが、私はこのまま口を閉ざしていることはできません。オードラン第二王子殿下、貴殿の言葉は看過でいない大問題だ!」

「なんだ、突然無礼にも━━━━」

「無礼なことなど承知で言わせてもらおう。遠く故郷を離れ、必死にやっている女性に対してぬくぬくと自宅に住まい両親に庇護されている貴殿がそのような言葉を投げかけることなど恥でしかない」


 きっぱりと言い切る彼の言葉に、頷いて同意する人が多くいる。


 しかしオードランはそのくらいでは折れる気はないらしく、彼に怒りを向けて、視線をやったがすぐにその後ベルナールもオードランに言った。


「それに、寄生虫だなんて僕は驚いてしまったよ。とても市場や、政治のことに疎いんだね」

「その通りですわ。冬の間でも安定的に魔法的資源を生み出せる森がけがれているだなんて……恐ろしくてわたくしとても言えませんもの」


 ベルナールの言葉に、アリエルが続く。彼らの領地もそれなりにパラディール公爵家と交流があり、エルヴィールを助けるのは当たり前のことだった。


 そして別の貴族がそれに触発されたように、怒りをあらわにしてオードランを見つめる。


「そうですわっ、どうしてそんなふうに、仰ることができるの? 魔獣は血筋に寄ってくることも匂いに寄ってくることもありませんわ! ただ平等にわたくしたち貴族のもつ魔力を狙っている。もし不自然にやってきたのであればそれには必ず理由がありますもの!」

「そうだな。あまりに配慮のない発言だと思う。私たちだってパラディール公爵家の周辺領地として、中央騎士団を呼ぶまでもない小さな魔獣の狩りで助けてもらっているんだ!」


 拳を握って怒気を向ける人すらいる、この場にいる貴族の全員がオードランに対して否定的な意見を持ち、エルヴィールの絶対的な見方だった。


 パラディール公爵家と物理的な距離が近く事情を深く知っていたり、取引があって得をしている貴族たちばかりで、オードランはそんな場所にまんまと誘い出された。


「なっ、ぼ、僕にそんな口をきいて、いいのですか、お父さまもお母さまも黙って━━━━」


 途端に勢いをなくして、控えめな声で言う彼の言葉をクロエはさえぎって、彼に言った。


「私、証言しますわ。オードラン第二王子殿下がエルヴィールのことを猛烈に侮辱し、その地位から追い落とそうとしていたこと。しかと聞き届けましたもの。害虫などと言い、排除するつもりだとききましたもの」

「そうだ。私だって聞いたぞ」

「もちろんです。この際ですから王族に巣食う害虫はいったい誰なのかをはっきりさせるべきです」

「そんな、僕は……だって皆だってそう思っているはずでっ」

「たしかにパラディール公爵家から遠く自分たちのことにしか興味のない視野の狭い貴族がそのように愚痴を言うこともあるかもしれません、でもあなた様は違うはずでは? この国を統べる王族の立場なのですもの」


 エルヴィールをかばい声をあげる貴族たちは、自分一人の力では、オードランの権威に逆らうことはできない。


 しかし、この場にいる貴族が皆そのつもりだと知ることができれば一人一人の立場は関係がない。


「っ、ぐっ、僕は……」

「王族とは思えないような発言です。エルヴィール王太子妃殿下はこれからの国を支える明るい未来です」

「そうだ。いくら第二王子殿下とはいえ、訂正し謝罪するべき……いえそれだけでは済まされない」


 言葉をさえぎられて、否定の言葉が彼を突き刺す。


 どこを見ても、誰に視線を送ってもオードランをかばうものなどいない。


 その状況に彼は涙をためて、顔を真っ赤にする。


 あんなに酷い言葉でエルヴィールのことを追い詰めていたというのに、自分は事実を言われて誰にも助けてもらえないというだけでぶるぶると震え出した。


「っ、……」


 それでも謝罪をすることなく彼は黙り込み、その態度に更に彼を批判する声であふれていく。


「まったくもって、第二王子としてふさわしくないふるまいだ」

「ありえないですわ。まさか日常的にこんなことを? エルヴィール王太子妃殿下が不憫でなりません」


 汗をかいて、赤くなってそれから彼はうつむいた。


 しかし、その様子にエルヴィールは、小さく笑みを浮かべて毅然とした態度だった。


「……ありがとうございますわ。皆さま。でもそのくらいでわたくしの言葉を聞いてくださる?」


 彼女がそう言うとその場は水を打ったように静まり返って、彼女に従う。


 静かになるとオードランは恐る恐ると顔をあげた。


「オードラン第二王子、彼らの言葉を聞いてわかっていただけたと思いますわ。わたくしはなにも後ろ暗いことはありませんし、あなたの言葉は悪意に満ちたただの誹謗中傷ですのよ」


 優しく正すように言う彼女は、とても品があって余裕たっぷりで惚れ惚れしてしまう。


「その悪意を持つことをわたくしは否定しませんわ。でも、わたくしをはけ口にしていいとは思わないことですね。あなたが国王陛下や王妃殿下を引き合いに出して人を脅すように、わたくしにも人脈がありわたくしの正しさを証明してくださる人がいる」

「っ……」

「言いがかりと文句とくだらない細工でわたくしを追い出せると思ったら大間違いですわ。誰よりも努力をして王太子妃という誉れを手に入れたわたくしをあなたのような方が御せる訳がないのですから。そのくらい、理解してくださいね?」


 エルヴィールはにっこりと笑って、彼の言葉を少しまねて煽るように問いかけた。


 その様子に彼は歯を食いしばって堪えてから、堪えきれずにテーブルの上の食器をなぎ倒して、グラスが散らばっていく。


 エルヴィールの守護騎士はすぐにすぐに動く。


 しかしオードランは乱暴に立ち上がって獣の咆哮のように怒鳴り散らした。


 きっと「後悔させてやる」というような言葉を言っていた気がするが、うまく聞き取れない程取り乱した声で言って、それからドタバタとダイニングホールの中を駆け抜けていく。




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