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28 卑屈


 ジルベールに「行ってらっしゃい」と見送られてクロエは屋敷を出る。


 ディオンとともに馬車に乗ると彼は、いつもよりも近い距離で向かい合っている状況にすぐに赤くなってあがり症の男性のように黙り込んだ。


 なのでクロエは静かに立ち上がって彼の隣に座る。少し狭かったけれど、まっすぐに顔を見つめられているよりはましだろうと思ってのことだった。


「……あなたから誘ったのに、ずいぶん静かですわ。わたくしは今日を楽しみにしていたのに」


 そうして窓の外を見つめて言った。


 恰好を見れば気合いを入れてきたと思われることは避けられないので逆手にとって彼に言ってみた。


「す、すみません。ここまで考えてきた話題は最高に美しいクロエ様に会った途端にすべて忘れました」

「そう、今度から紙にでもメモしておいた方がいいわね」

「あ、った、たしかに。……じ、次回があったらそうします。今は、そのクロエ様の珍しい衣装を脳に刻みつけるので忙しくて! 楽しみにしていてくださっていたとかまったく思いもよらなくてっ」

「あら、だってデートなのでしょう? 間違っていますか?」


 彼の言葉にクロエは確認するように返した。


 状況的にはそうでも、なにかのっぴきならない理由があってそうではない可能性もあると思ったからだった。


 しかし彼は隣で言葉に詰まって、戸惑っている様子だ。


 顔を見ることができなくても、すぐ隣にいるとその息づかいなんかで考えていることは案外わかるものだった。


 数秒の間をおいて、ディオンはごくりと息を呑む。そしてやっと言った。


「間違ってません。……今日は、付き合ってくれて本当にありがとう。これは俺のただのわがままで、クロエにとっては意味のないものになるかもしれないけど、俺はすごく嬉しくて」

「どうして意味がないと決めつけるのかしら? ……意味ならあるでしょう。あなたと二人で楽しんだ思い出ができるならそれがすべてよ」


 行き過ぎた卑屈なことを言う彼に、いつもこんな調子だっただろうかとクロエは少し首を傾げた。


 クロエのことを猛烈に持ち上げることはあったが、自分との時間すら無駄なことだというような人だったとは思えない。


 ……なにかあったのかしら。


 こうして王都にやってきてもうしばらくたつ。


 クロエのようにこちらでなにかか問題に当たったり落ち込むようなことがあったのかもしれない。


 誰だってそういうふうに落ち込んでいるときもある。もちろんクロエも突然ジルベールに抱き着きたい時だってある。


 そういう時に無理に話を聞いてもいいことはないだろう。


 遊んで気分が上がってきたら自発的に話すかもしれない。それまで待てばいいのだと考えて「今日はどんなお店に寄るつもりですか?」と問いかけたのだった。




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