27 デート
クロエは、睨みつけるようにクロエのことを見つめるジルベールを見てこの間のオードランのことを思いだし、なんだか嫌な気持ちになった。
「……よし、いいと思いますよ。姉さま、これならさすがにリクール辺境伯子息もイチコロです」
しかし彼はクロエの服装を見て満足げに笑みを浮かべる。
その可愛らしい無邪気な笑みはオードランの悪意ある言葉と腹の立つ言動の数々を洗い流すような清涼感をもっていて、彼の手を引いてぎゅっと体を押し付けた。
「うわっ! ちょ、このっ、離せっ、なんだってんですか」
「……愛嬌のある弟に愛情があふれてしまって……」
「俺は、可愛くありませんっ、まったく嬉しくありませんっ」
するとジルベールは身を固くしてクロエを押しのけようとなんとかもがいているが、そんなものは些細な抵抗であり、久しぶりに抱きしめた弟の体は以前よりも大きくなっていて、成長を感じる。
ぱっと手をはなすと、すぐにバッと離れて息を切らしながらクロエのことを見つめる。
「っ、油断してました。こんな俺の尊厳を破壊するような行為をするとはっ……」
「ただ、抱きしめただけでしょう。あなたは……とてもいい子ですからそのまま育ってくださいね」
「は? …………」
できる限り健やかに育ってほしいと願いを口にすると、ジルベールはものすごく迷惑そうな疑問の声を出したが、それからクロエのことを見つめて口をへの字に曲げて黙り込む。
それから気まずそうな顔をして、おずおずと問いかけた。
「……なにかありました?」
「いいえ。あなたの姉は簡単にへこむような女ではありませんよ」
「そう、ですか。というかそろそろいらっしゃるのではないですか? デートなのでしょう?」
そう問いかけられてクロエは時間を確認して、もうそんな頃かと思いながら言葉を返す。
「そうですね。早めに待っておきましょうか」
「そうしてください。相手を待たせたりなんかしたらせっかくオシャレしたのに台無しです」
そうして二人でクロエの部屋を出てエントランスへと向かう。ことの発端は、ディオンから二人で王城の下町街を見て回ろうという誘いがクロエの元に来たことだった。
彼の方からそんなふうに誘いをかけてくることなど、ほとんどありえないことだろうと思っていたのでとても不思議だったが、これから婚約を控えている二人ならばまったくおかしくない交流だ。
クロエは騎士で城下町に降りても危険はないし、まだ雪も降っていないので移動も容易い。
もちろんかまわないと返信をして、その予定を伝えた。
するとなぜかジルベールが気合いを入れ始めて、デートなのだから相手をドキリとさせる服装をして射止めなければいけないのだと主張し、そういうわけで彼はクロエの装いに口を出していたのだった。
クロエとしてはいつも通りだってディオンは気にしないだろうし、すでにクロエを猛烈に想っていて、これ以上好意を爆発させることはないぐらいなのだから適当にしていたが、別に着飾るのも悪いことではない。
そうしていつもよりも女性らしいお化粧をして、アクセサリーをつけ、気合いを入れた姿でやって来たディオンと対面したのだった。




