21 役目
「男性騎士ならばみんな同じことを思っているに違いない、そうだろ? セレスタン騎士」
するとロドルフは今まで練習場で話をしていた相手である、セレスタンへと視線を向けて同意を求めた。
彼の後ろには二人の見習いがおり、クロエの方を不安げに見つめている。
「え、私にそのような話を振られても困ります。ともかく、ご無事でお目にかかれてなによりです。クロエ殿」
「ええ、セレスタンも。ところで師匠も交えてこんな場所で何をしていたのですか?」
早々に話を切り替えて、見習い二人の方へと視線を向けると、セレスタンは後ろの二人を振り返って、彼らの肩に手を置いた。
「……ああ、それは。この二人の成長について報告をしていたのですよ。二人とも才能があってよく努力のできるよい子たちです」
「そうだな。が、しかし今一歩、動きが硬くて実践的な判断が遅い……最近は王城付近できな臭い魔獣の出現もある、討伐部隊に所属する訳ではなくとも対人戦においても魔法を使うものへの対処の慣れは必須事項だ」
セレスタンの言葉を受けて、ロドルフも頭を切り替えて顎に手を当てて難しい顔をした。
「ええ、そうですね。……ですが私は基本的な剣術を教えるのは得意ですが、どうしても実践的なことは教えられないのです」
セレスタンは困ったような笑みを浮かべて補足する。
その言葉にクロエは、それでも人に物を教えられるということはすごいことだと思う。
しかし、生まれ持った資質によって社会での立場というものには差がついてしまう。
クロエは上級貴族の家系に生まれて、素晴らしい魔法を持っていて、それを手足のように自由に操ることができるが、下級貴族の出の彼はそうではない。
試験に合格できるラインに達した時点でクロエはその才能を見込まれて上級騎士の地位を与えられたのにも関わらず、彼はずっとクロエが見習いとして入る前から平の騎士のままだ。
けれども、強大な魔獣には敵わなくとも、弟子を多くとってたくさんの子供に剣術を教えて育てる。その中には魔法を持つ子供もいて、彼に教えられて魔獣を狩れるようになったり、人を守ることができるようになる。
そんな彼とクロエ、二人のどちらが優れているかなんて社会的な立場だけでは比べられるものではないし。比べてはいけないものだとすら思う。
「仕方がないから、俺が直接仕込んでやろうかという話をしていたんだが……セレスタンがなかなか首を縦に振らなくてな!」
「いえ、ですから、実地での練習についての許可をという話をしていたではありませんか。貴殿にこの子たちを預ければ死人が出ます」
彼らは今までしていた話の続きを話し始めて、なんだか段々とヒートアップしているように見えた。
「む? いやいや見てみろ、セシュリエ上級騎士は立派に育っているじゃないか」
「それとこれとは話が別です。クロエ殿は非常に稀で、それこそ頑丈なだけではない強さを持ち合わせていた神童で、だからこそ生きているだけです」
話はクロエにまで飛び火して、見習いの二人の処遇が、なんだか危うげだ。
……それにしても神童なんていわれると恥ずかしいですが……たしかに運良く生き残るだけの才能があっただけで、師匠は手加減もしませんし、修行だと森に連れて行って事故が起こる可能性は普通にありますね。
「それなら」
考えつつも声をかけた。
「私も相手をしましょうか? もちろん実地をやってもいいと思いますが、後進の育成はとても重要なことですし、手を貸せることがあるなら協力したいです」
「クロエ殿……そんな、上級騎士であるあなたに私の弟子の実践相手になってもらうなど、部隊長ならまだしも……」
「まだしもってどういうことだ、俺も十分に強いんだが」
「それに、セレスタン。ほかの方にも声をかけて実践の協力者になってほしいと頼むのも手だと思います」
「無視か、俺のことは」
「全員ではないかもしれませんが、あなたがそうして後進の育成を担ってくれているからこそ自分のやりたいことに集中できているのです。だから、そのぐらい協力したいと考えている人は多いと思いますよ。……師匠は向いていないのですから見習いを鼓舞する程度にしてくださいね」
しょんぼりしつつも口をはさむ彼に、クロエは適当に返しつつ、セレスタンに言った。
それに、人に比べて及ばない部分があるとするならば頼ればいい。
多くの人はきっと、自分できることで支えてくれる人からのそういう願いを無視するほど恩知らずではないと思うから。
「…………弟子にそう言われちゃ、仕方ないな」
「……そう、ですね。……たしかにそうかもしれません。それに、この子たちを育てる役割をそんなふうに捉えてくれている人がいるというだけでなんだか救われるような気持ちです、クロエ殿」
「大袈裟ですよ、じゃあ、さっそく少し体を動かしますかね」
そうしてクロエは見習い二人の手合わせの相手になることにしたのだった。