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20 騎士団



 クロエは王城の隣にある騎士団本部へと顔を出した。


 そこは、宿舎や練習場も備えた大きな施設であり、騎士なら誰しも見習いの頃にはここの宿舎に泊まり込み、師匠について剣を学んだ思い出のある施設である。


 ただクロエの思い出は少々特殊だった。


 クロエの師匠は大雑把でがさつな人であり、放任主義だった。そしてその性格はクロエの好奇心旺盛で奔放な性格と相まって、あんがい自由な見習い生活を送っていた。


 師匠の教えともいえないようなアドバイスを聞いて仕事についていき、なんとか切り抜けられる程度の魔獣と相対していたからよかったものの、あの時の実力では対処できない魔獣は山ほどいたはずだったが、運よく当たらず経験をつめた。


 今思いだすと、いつ死んでいてもおかしくなかったような気がするが、討伐の任務をクリアすることの楽しさはその時に学んだものだ。


 加えてその時のことがあったからこそクロエの今の地位はあるわけで、ペアも組まされずに一人で好きに任務に出かけて、ある程度したら戻ってきて報告をする。


 その討伐だけで貰える報酬は破格の金額でありさらには、証拠品として持って帰ってくる魔石はもちろんのこと、それ以外の魔獣の素材についてもうまく回収できればいい稼ぎになるし、自分で利用することもできる。


 魔法に耐性を持つ毛皮だったり、魔法具との相性がいい素材となる牙や角。


 腕のいい討伐部隊の騎士であれば、魔法使いとのつながりがあってそれらの物を融通して優先的に取ってくる代りに魔法具を作って貰うような取引もするそうだ。


 しかしクロエにはまだそのような魔法使いの友人というものはおらず騎士団の事務官から書類を一枚受け取った。


「確認いただけましたらこちらにサインをお願いいたします」

「はい」


 そこに記載されているのは今回の里帰りで、討伐した魔獣の素材の一覧であり、こちらに送りつけて査定と買い取りも頼んでいたのでそれに関する確認の書類だった。


 自分の伝手で売りさばけばもう少し高い値段がつくのだが、そんな手間をかけるぐらいだったらもう一匹魔獣を倒した方が手っ取り早い。早々にサインをして事務官の男性は確認して笑みを浮かべる。


「はい。これで手続きは完了です。支払いは討伐の報酬とともに支払われるのでよろしくお願いします」

「……ええ。いつもご苦労様です」

「いえいえこちらこそ」


 そんなふうに事務的な会話をして、クロエは事務方たちが詰めている部屋から出て、やっとこれでやるべきことも終わったと大きく伸びをしつつひと息つく。


 きちんと討伐の仕事をしているとしても、こうして本部に顔を出して手続きをしなければ、意味はない。


 お金にもならないし、ただの趣味で魔獣を討伐して回っているわけではないのだ。


 今回も割といい稼ぎになったし、今日はこの後の予定も特にない。帰り際にジュリーにお土産を買って帰ろうか。そんなことを考えながら歩き出した。


 しかしそれにしてもまだ時間がある、誰か知り合いと会うことができないだろうかと少し練習場に寄ってからかえることにした。



「おう、セシュリエ上級騎士! お前、戻ってきてたのか、はははっ、調子はどうだ? 腕はなまっていないか?」


 するとそこには想定していなかった相手がおり、彼はクロエを見つけると気さくにそばによって、笑みを浮かべながら背中をバンバンと叩く。


「っ、し、師匠。相変わらず暑苦しいですね。やめてください、もう」

「なんだお前、やせたか? 相変わらず細っこいな、もっとでかく図太くなれ! お前は一人なんだへし折れても誰も助けに来ないぞ」


 笑いながら女性の体形について言及するというすさまじい貴族らしからぬがさつさを見せる彼はロドルフ。


 彼はクロエの思い出の中に何度も登場する師匠であり、現在は討伐部隊の部隊長を任されている猛者だ。


 クロエはさすがに彼には敵わないけれど、それでも素直にこの人の言葉をうんうんと聞くつもりもなく、その手から逃れて、少し距離を開けて言葉を返す。


「図太い頑丈さばかりが強さではないのでしょう。あなたが私に教えてくれたのではありませんか」

「そうだったか? いやぁ、若くて活発な弟子が、あんまりに儚く見えるものだからなついつい口をはさみたくなる」

「私が儚く見えるのならば、世の女性の多くは病弱にでも見えるのでしょうね」

「はははっ、まったくその通りだ!」


 彼の言葉に若干イラつきつつも皮肉で返すが彼からすれば、どうやら愛らしく小さく細い令嬢は病弱に見えているらしい。


 ただそうだとしても、クロエ以外にこんなことを言ったら相当嫌な顔をされるに違いない。


 一生懸命にその体型を維持している子もいるのだから、気軽に触れるのは身内であってもご法度だ。娘や親戚への態度を間違えてなければいいのだがとクロエは頭を抱えたくなった。





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