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2 愛情



 と、そんな内容を思い出して、クロエは目の前にいるトリスタンに視線を戻した。


 きっとあのあたりの会話のことだろうと思うけれど、どうしてそれが彼にとってクロエがトリスタンを愛していないということにつながるのかわからなく問いかけた。


「思いだしはしてみたけれど、あなたがなにを言いたいのか私はよくわからないですね」

「……はぁ、どうしてわからないんだ? こうして俺に叱られているというのにもっと必死になって思い出せないのか?」


 トリスタンは大袈裟にため息をついて、クロエを責めるような言葉を使う。


 どう返すべきか考えるのも面倒くさくてクロエは適当に首を振ってこたえた。


「あのな、クロエ。お前のそういうところは多めに見てやっているよ、俺は。でももういよいよ我慢の限界なんだよ」


 トリスタンは理解があるような言葉づかいをしながらも、呆れを含んでいるみたいな言い聞かせる様な声で続ける。


「今回のことは、本当に強くこのままじゃダメだとそう思う出来事だった。反省できないのか?」

「どこをですか」

「はぁ~……」


 クロエの言葉にまた大きなため息をついて、クロエの方こそため息をつきたくなった。


 しかし、そこから彼は切り替えるように厳しい顔をして、手ぶりをつけてクロエに言う。


「わからずやなお前に、仕方ないから一から説明してやるからよく聞けよ」


 聞きたくないけれど、彼の声は小さな馬車の中のどこに居ても聞こえるだろう。聞くしかない。


「まず、アリエル様はベルナール様に今回も心の籠った贈り物をして、ほかの男性陣にそのことを自慢していただろう?」

「そういう場面もありましたね」

「ああそうだ、それなのに俺は君から何一つもらったことがない。一つも自慢できることがなくて俺がどれだけ恥をかいたかわかるか?」

「……」

「お前に俺を想ってやってもらったことなんか一つもない。刺繍も絵画も詩も歌も、一つだってお前からもらったものはない」


 断言する彼に、言われずともクロエは贈っていないのだからわかり切っていると思って口を閉ざす。


「それにあんな場で自分の権力を誇示するようなことをして、恥をかかせたよな? 見たかあの皆の引いた顔。比べてアリエル様はどうだった? 静かに黙ってベルナール様の話をさえぎったりなんかしなかった」

「そうね」

「俺はそれがもう恥ずかしくて恥ずかしくて、俺は友人たちに会う時にどんなふうに慰められるかと考えるとああもう今から、惨めで仕方ない」


 クロエのせいでこんなにも自分は苦しんでいると表情を変えて見せて、アリエルと比較してみろと言う。


 そんな彼の言っていることは間違ってはいないだろう。


 あの時確かに、クロエの意見とその時に口を開いた男性たちの意見は割れていて、彼らにとって気分のいい会話ではなかったと思う。


 そして、波風立てずに自分の主張をせずにつつましくあることが女性の美徳と彼らが思っている以上、まったくもって魅力のない女性だと思われるのも承知済みだ。


「さらに、最後にはアリエル様はベルナール様の庇護下にあり、そうして愛されることこそ女性としての幸せだと示した。男をたてて、愛を伝えて比べてお前はどうだった? 言ってみろ」


 まるで大人が子供に説教をするみたいに、その時の自分を振り替えさせるように彼は指示した。


 そんな彼の言葉にクロエは仕方なく口を開いて答えてやる。


 彼の主張ができる限り早く終わるようにそうした。


「あなたの存在を無視して、一人偉そうにしていました」

「ああそうだ! 分かってるんじゃないか、俺をそうして辱めて、自分が一時話題の人であったという幸運をいつまでも引きずってそうして踏ん反りかえって、なぁ! お前はそれをどう思う? 俺がどう思っているかわかるよな?」

「つらく思っているのですね」

「そのとおりだ! アリエル様はあんなにベルナール様のことを愛していると行動でも言葉でも示しているのに、比べてどうだお前は今までの自分の行いを顧みてどう思う?」


 彼はクロエよりもとても偉くなったような顔をして、今度はクロエが悪かったとクロエに言わせるつもりらしい。


 その言葉は疑問の体を取っていても実質的は質問ではない。


「……」


 答えずにいると彼はつづけた。


「どうして言えない。お前はどう見ても俺のことを大切に思っていなくて俺に恥を書かせて、俺を愛していない。比べてみればわかることだろ? それでいいのか? そんなことをしてお前は許されると本当に思うのかよ?」


 それから彼は「大体、女が騎士なんて」とまるで当たり前のことを言うみたいに続けていってクロエは、窓の外の流れる景色に視線を移して彼の言葉を話半分に聞いていた。


 そしてその時間は今までの様々なことを引き合いに出してずいぶんと長ったらしく続いて、彼の語気は荒くなっていった。




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