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17 値しない



 まぁしかしなんにせよ、ディオンの考えは十分に理解できた。


 簡単に言ってしまうと彼はやっぱりクロエをとても大切に想ってくれていてただの女という記号ではなく、クロエとして愛……というか推している。


 それが何よりうれしくて、彼の言葉を聞いて呆けているカジミールに指先を振ってクロエは魔法を使う。


 クロエの起こした小さな風は魔力を吸収して急な突風になってキラリとした光りをはらみながら膨れ上がり、カジミールの顔面に直撃した。


「ぶっふぁ」


 驚いて彼は、咄嗟に風をさえぎるように手をあげた。


 今まで頑なに人の視線に入らないように気をつけていたその腕……というか袖口の部分は、勢いよく上にあげたことでひょっこりとトランプのカードが顔を出す。


 そしてクロエはすぐにその手を掴んで、袖口の裏側についている小さなポケットからカードを押し出して風に乗せてまき散らす。


「う、なっ……!?」

「そうですね。私はおおむねディオンの言葉に賛成です。あなたは私に自分がふさわしいなんて言いますが、これがふさわしい男のやることですか?」

「は、離せ!!」

「ははっ、そう焦らないでください。カジミール。今更焦ったところでもう取り返しなどつきませんよ」


 手を振り払われたが、風に乗って散らばるトランプはギャラリーたちの手元に届く。


「これって、カードは先程すべて灰に……」

「なんだ、イカサマか」

「まぁ、そんなことを?」


 カジミールは、最後までディオンに負けることはなかったが、その理由は単純な実力の差もあっただろうが決定的に勝敗を分けたのは彼のイカサマである。


 彼はディオンに注目を集めるように煽るやり方をしていたが、そのよく回る口を一生懸命に動かして視線を誘導しながらも、手元では必死でカードを隠してすり替えてせっせといいカードをそろえていた。


 それなりに手慣れてはいたが、正直まだまだ見抜けないほど巧みというわけではない。


 クロエはそれをいつ指摘しようかと思っていたが、こうして勝負がつくまで待ってディオンの言葉を聞けて改めてよかったと思う。


 だからこそ、あの言葉は間違っていないと今度はクロエが示す番だろう。


「あ……ああっ、これは……な、なにかの間違いだ……」

「あら、カジミールあなたにとって潔く負けを認めることこそ美徳なのでしょう? そんな言い訳をするなんて見苦しいわ」

「ク、クロエ嬢……いいのかそんなことを言ってせっかくの機会を棒に振ることに━━━━」

「ねぇ、カジミール。あなたって男らしさだとか序列だとか言っているけれど本当はただ、自分が相手よりも勝っている部分をさも、一番大切なことのように都合よく使って勝ち誇っているだけの陳腐な人ですよね」

「……」


 今度はクロエに脅すようなことを言おうとした彼は、目を見開いて言葉を失う。


 なりふりかまわずクロエを欲しているだけなのに、体面だけは取り繕って、自分が選ばれる努力をするのではなく、人を貶して自分以下だと決めつけて、ふさわしい人間に成り上がろうとしている。


「そんな信念もなにもないようような、くだらない人が私にふさわしいなんてずいぶん安く見積もられたものですね」

「…………」

「……カ、カジミール様」

「ここは、一度謝罪をした方が……」


 黙り込んだカジミールに取り巻きたちも、周りの状況を見て苦しいと判断したのか謝罪を促す。


 ディオンに言い負かされて、更には不正まで発覚した。


 今の彼は、どう見ても見当違いのことを主張しながら他人の大切な人を、姑息な手段を使ってかすめ取ろうとした悪人だ。


「ははっ、言葉も出ませんか。……あなたはしきりにディオンと自分を比べていましたが、先ほどのやり取りで分かったように、あなたとディオンでは私に対する感情が違いすぎます」

「……っ」

「だから、比べるまでもない。比べるのにすら値しない。私があなたを選ぶ可能性などはなから、ほんの少しだってありませんので……私たちの関係を邪魔しないでくださるかしら?」


 そう言ってクロエは最終的に風の魔法を使ってカードを風に乗せて自分の手元に戻した。


 そして丁寧に、カジミールに返してやる。


 彼は精々そうして、カードゲームの勝ち負けで序列を重んじるくだらない社会の中に居続ければいい。


 それをほかの場所に持ち込んだらどうなるか思い知って恥をかいてもう二度と出てこない方がいい。


「っ、クソっ!!」


 怒鳴りつけるように吐き捨てたカジミールはトランプを受け取らずに立ち上がる。


「カジミール様っ」

「待ってください!」


 ずんずんと去っていく彼に、取り巻きたちが必死で追いかける。


 残ったギャラリーはこっそりクロエに「かっこよかったわ」と声をかけたり「ギユメット侯爵家の跡取りがあれじゃあな」と感想を言い合いつつも人ははけていく。


 最終的にディオンに目線を戻すと、彼は口元を抑えて顔を赤くしていた。


 まるで恋する乙女のようだった。


「……どういう感情なのですか」

「ク、クロエ様の華麗な切り返しがあまりに決まりすぎて、俺は泣きそうです」

「もう、っ、ははっ、なにを言っているんですか。あなたは」

「だって、ああ、かっこいい。最高、生きててよかったっ」



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