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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第4部 アドミニストレータ

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4-13 アドミニストレータ(最終話)




「ミレイユ嬢が参りました」


 先触れの言葉と同時に重厚な扉が開いていく。奥にはハロルド陛下とクラウス王子が並んで座ってて、陛下はいつもどおり柔和な笑みなのに対して、クラウスは仏頂面で膝を組み頬杖を突いて私を見下ろしてた。こないだのことをまだ根に持ってんのかしら? ホント、小さい男ね。


「此度の迷宮の異変、そなたのおかげで被害を抑えられた。誠に大義であった」

「恐れ入ります」

「しばし体調が優れぬと聞いていたが、もう大事はないかの?」


 陛下の質問に私はうなずいて応える。

 何を隠そう、迷宮から戻った私はそのまま寝込んでしまっていた。

 戦ってる間はアドレナリンが噴出してたからか大丈夫だったけど、やっぱり相当な負荷が頭に掛かってたみたいで、ほぼ丸々ベッドの上で眠り続けた。エリーとユフィには相当に心配を掛けたものの、それでも一週間も経てば完全に回復した。

 それくらいで回復したのはユフィの看病ももちろんだけど、エリーが古代の回復魔法をかけ続けてくれたのも大きい。


「良かったッス……!」


 私が起き上がれるようになると、彼女は抱きついて嗚咽を漏らした。聞けば、私が倒れてから彼女は禁書庫に行って、古代魔法を調べてくれたとのこと。それまで白紙で学術的な価値が無いと思われてた本を司書さんが片っ端から持ってきてくれて、その内の一冊をこっそり持ち出し毎日私に掛けてくれたらしかった。

 ちなみに状況が落ち着いた今、エリーは毎日司書さんに引きずられて禁書庫の本を解読する日々を送ってる。おかげで今じゃバカにできない収入源になってるし、エリーにとっても新しい魔法が使えるようになってWin-Winではあると思う。


「それは何よりである。が、無理は禁物じゃぞ?」


 陛下が表情を緩ませながらも釘を刺してくる。心配してくれるのであれば、今日もできればそっとしておいて欲しかったわ。とは言ってもたぶん、王という立場からしても論功行賞のうえで放置はできなかったでしょうし、最大限配慮はしてくれたんだと思う。居並ぶ貴族たちもだいぶ限られてるみたいだしね。

 そう思いながら列席してる貴族たちを眺めると、陛下に一番近いところにアークフェルツ侯爵閣下の姿があった。

 だいたいの貴族たちが私のことを面白くなさそうな顔でにらんでる中、閣下はいつもどおり固く口を結んでこちらを見つめていた。努めて冷静で、ただ私にはどこか嬉しそうにも思えた。


「さて、ならば話を進めようかの。

 ミレイユよ、そなたの力については聞き及んでいる。此度はフェイタリス・コードなる組織の野望を未然に阻止できたが、奴らの実態は王国の情報網を以てしても掴めておらん。今後も同様の事態が起きぬとも限らぬし、迷宮自体も未だ不安定とのこと」


 ハロルド陛下には、E・Eや「ユグドラシル」のことは事前に伝えてはいるけど、公にはしないことにしてもらった。クラウスにもこの場にいない皇后にもだ。迷宮が古代に作られ、人間ではない何者かによって管理されてるなんて知ったら混乱どころの話じゃなくなるもんね。

 なので。


「そこで、だ。迷宮を悪用されぬよう、そして異変が再び起きぬよう、そなたの固有魔法『アドミニストレータ』で今後も王都の迷宮を管理してほしいのだが、どうかの?」

「謹んでお受け致します」

「よろしい。ならばこの場でミレイユ嬢を、国王直轄の『迷宮管理者』として任命する!」


 この話も事前に聞いてて私も了解済みだ。どのみち迷宮は元の状態に戻さないといけないし、迷宮がダメになれば私のお店も仕舞わなきゃいけなくなるしね。

 もっとも――


「できればそなた自身にも爵位を授けたいのだが……」

「ありがたいお話ではありますが、辞退させて頂きたく存じます。私はすでに貴族という立場を捨てた身。これからも王国の一臣民として陛下の恩情を賜りながら静かに暮らして参りたく」


 今の暮らしが気に入ってるんだから、貴族になんて戻るつもりは毛頭ない。そんな私の気持ちも陛下は分かってはいたみたいで、軽く嘆息するものの、それ以上持ちかけてはこなかった。


「しかして褒賞は授けねば我としても立場がない。何か希望はあるかの?」


 問われ、私は少し考え込んだ。まず、お金はあるに越したことはないけどそこまで必要じゃない。目立つのも厄介事を抱え込むようで嫌だし、ならば。


「迷宮管理者としての仕事以外、官僚・貴族からの接触を制限してください。また、可能であれば魔法研究所と、引き続き禁書庫への出入りを許可頂ければ嬉しく存じます」

「ふむ……かねがねそなたは今の生活が気に入ってると申しておったしの。しかしそれだけで良いのか? そなたの功績であればもっと多くを望めるのだぞ?」

「身の丈を過ぎた欲はこの身を滅ぼしますので。私は、魔法や魔道具の研究ができればそれで十分です」


 私としてはダメ元で結構要求したつもりなんだけど、陛下にとっては不足みたい。「ううむ……」とうなりながらも、苦笑いして大きくうなずいてくれた。


「承知した。褒美と言うならば、受け取り手が喜ぶものでなければならないからの。そのいずれも許可しよう。ただし、研究の成果が出た暁には我に報告してほしい」


 それくらいは問題ない。むしろ、研究成果はバシバシ公開するべきっていうのが私の持論だしね。そういえばこの世界に特許みたいな仕組みってあるのかしらね? 無かったら成果の報酬も交渉しなきゃ。

 かくして、私としては十分満足できる謁見となったのだった。




 その後も正式な諸々の手続きなんかで度々王城に出向いたり、ハーマンからも呼び出されてランクアップの手続きをしたりと、何かと忙しい毎日を過ごして気がつけば一ヶ月が経ち、ようやく落ち着いた日常が戻ってきたのがここ数日。

 店のカウンターに座り、キセルをくわえてコンソール画面のコードをポチポチいじる。雲が流れたのか穏やかな陽光が微かに差し込んできて、薄暗かった店の中も明るく暖かになった。私の気持ちも何処か明るくなって、つい鼻歌まで口ずさんじゃってるとユフィがカップを持ってやってきた。


「どうぞ、コーヒーをお持ちしました」

「ありがと、ユフィ」


 礼を言うとユフィは柔らかく微笑んで頭を下げて隣に座り、そして誰もいない店内を見回した。

 窓の外では、エリーがいつもと同じように子どもたちの相手をしている。彼女独自の古代魔法を使って私が教えた簡単な蒸気機関を動かすと、集まった子どもたちから歓声が上げった。うん、魔法ってのはやっぱりこういう平和で楽しい使い方が良いわよね。


「今度、おもちゃの魔道具でも作ってみようかしら?」

「いいですね。きっと喜びますし、魔道具づくりに興味を持つ子も増えるかもしれませんよ。かつてのお嬢様みたいに」


 そうなったら私も嬉しいわね。ちょっとした冗談のつもりだったけど、本気でやってみるのもいいかも。どうせお金には困ってないしね。

 そんな他愛のない話をしながらユフィと一緒に外のエリーたちを眺めていたけど、改めてコンソールに視線を移す。


「まだ迷宮の修正作業はお忙しそうですね」

「そうでもないわ。急いで修正しないといけないところは終わったしね」


 ぐちゃぐちゃになってた迷宮のコードも、ここ数日はゆっくり時間を取れたおかげで、だいぶ整理できてきた。停止させてたAIエージェントの機能も、権限をかなり制限して復帰させたから、修正速度もだいぶ早くなってる。

 そのAIエージェントのせいで機能不全に陥ってたE・Eはすっかり機能回復して、定期的に迷宮内部の様子を監視してもらってるところ。ユグドラシルでだいぶ知識を叩き込まれた私ではあるけど、まだまだ身についてないから至らないところだらけ。そこを彼女にサポートもしてもらってるけど、ホント優秀でずいぶんと仕事が楽だわ。この分だと、もう後一、二週間もすれば全階層を元に戻すことができそうかしら。


「無理はなさらないでくださいね。それでは私は夕飯の準備に戻ります」


 穏やかな笑みで私の話を聞いてくれてたユフィが、立ち上がって奥のキッチンへ戻ろうとする。と、店のドアが開いてベルの軽やかな音が鳴り響いた。


「ミレイユさん、ユフィさーん! お客さんッスよー!」


 エリーの元気な声に視線をコンソールからずらせば、フリオがニコニコしながら「お邪魔しますね」と手を振っていた。


「いらっしゃい。そういえば、状況報告は今日だったかしら? すっかり忘れてたわ」

「ええ、それもあるんですが……報告の後にユフィさんをお借りしようと思いまして」


 フリオがウインクすると、ユフィは顔を赤らめて伏せた。脈はあると思ってたけど、いつの間にかこの二人もいい関係になっちゃってたのよね。エリーとそろってニヨニヨしながら二人を見つめた。


「後じゃなくて今からでもデートに行っちゃいなさいよ」

「いえ、今日の目的は仕事ですから。彼女との時間はその後でたっぷり頂きますので」


 茶目っ気たっぷりに笑いながらもフリオは首を横に振った。ホント、仕事に関しては真面目よね。だからこそユフィも想いを寄せたってところもあるんだろうけど。

 なら、さっさと仕事を終わらせて二人の時間を取ってあげないとね。

 早速フリオから委託製造してる工場の状況と売上予測、上がってきたクレームについて報告を受け、それから対策案とかを小一時間話し合っていく。

 やがて充実した話し合いを終え、仕事モードから優しい顔に切り替えたフリオは、ユフィの手を取って街の方へと向かっていった。


「羨ましいッスねぇ……」


 そんな幸せそうな二人の後ろ姿を見送りながら、エリーがちょっとだけ寂しそうにつぶやいた。あら、エリーも誰かと懇意になりたいのかしら?


「そりゃそうッスよ! これでもまだ二十歳なんスから。ミレイユさんの方はどうなんスか? そういう気持ち無いんスか?」

「私はそういうのはまだいいわ」


 男運は無さそうだし。日本でも悪くない関係になった男性もいたけど、いまいち発展しなかったしね。

 それに。


「私は、今の生活が幸せなの」


 空を見上げる。青空に微かに伸びる薄い雲。穏やかで風も心地良い。

 エリーと子どもたちの笑い声を聞きながら魔道具をいじり、ユフィの入れてくれたコーヒーの香りを楽しむ。まさに理想的な生活だ。


「あ。そういえばユフィさんデート行っちゃいましたけど……晩御飯どうします?」

「たまにはユフィもお休みさせてあげましょ。たまには私たち二人で、レストランでディナーなんてどう?」

「良いッスね! この間、良さげなレストラン見つけたんスよ。どうッスか?」

「じゃあ今日はそこにしましょ。酒も飲んで、ユフィにもお土産持って帰りましょう」


 私の居場所はここにある。生まれながらの場所でもなく、決められた人生でもなくって、自分の力でつかみ取ったこの場所こそが私の幸せだ。

 エリーと今晩の食事を話しながら、私は改めてそう強く思ったのだった。




 王都の空にはどこまでも青空が広がっていた。街からは賑わいの声が響き渡り、先日の騒動など忘れ去られたように、変わらない日常の風景がそこにあった。

 フリオとユフィが幸せそうに街を歩く。だがふとフリオは立ち止まり空を見上げた。


「どうかしました?」

「いえ、なにかガラスが割れたような音が聞こえた気がしたのですが……気の所為だったようです」


 気を取り直して二人は大通りのカフェへと向かっていく。仲睦まじく話す二人には、先程の異音のことなどすでに頭から消えていた。

 けれど頭上に広がる青空には、確かに「ノイズ」が生じていた。

 ピシリ、と世界がひび割れる。ヒビが軋む音と共に広がり、程なく消え去った。

 直後、迷宮の最深部で「世界」を監視していたE・Eがゆっくりと目を開く。そして何もない天井を見上げると、感情の無い声で静かにつぶやいた。


「――エラーを検知しました」




 完




お読み頂き、誠にありがとうございました!

これにて完結。ミレイユたちの戦いにお付き合い頂き、誠にありがとうございました<(_ _)>

お読み頂いたことで大変励みになりました。本当に感謝感謝でございます<(_ _)><(_ _)>


完結はしましたが、本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ嬉しい限り(*´ω`*)

リアクションだけでもぜひ宜しくお願い致します<(_ _)>


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