4-12 さようなら
コンソール画面から魔法を実行して氷塊を生成。そいつを戦ってくれてた三人の隙間からクーザリアスにぶつけて弾き飛ばした。
ゴロゴロと大きな体躯が氷塊と一緒に壁へと転がっていくんだけど、戦闘の最中だったにもかかわらず、ぶつかる直前に彼は氷塊を剣で受け止めてた。正気は失ってるはずなのに、ホント戦闘に関しては天才的なのよね。
「ミレイユさん?」
「終わったわ」
「へ? え? うそ?」
私が端的に告げると、三人が慌てて辺りを見回した。そしてすっかり元通りに戻った天井や壁に最悪の結末が回避できたと理解したみたいで、三人とも息を吐き出した。メルディアの目にはうっすら涙もにじんでる。ずっと怖かったわよね。だけどもう安心していいわ。
「しかし、いったいどうやったんだ、嬢ちゃん?」
「それはナイショ……って言いたいとこだけど、後で詳しく教えてあげる」
「そうだな。今は――」
ガイアスが下ろした盾を再び構えた。
私たちの前には息を荒げながらこちらへ向かってくるクーザリアスがいた。目は赤く輝き、エリーを含め他の四人には目もくれずにただ私だけをにらみ続けていた。
「……ホンットにしつこいわね。執念深い男は嫌われるってのに」
「私にも戦わせてほしいッス。ずっと蚊帳の外で退屈だったんスよ」
メルディアが軽口をたたきながら剣を構え、エリーもやる気まんまんで拳を握った。だけどその拳に手を重ね、私は一人前に進み出た。
「私にやらせて」
「一人で、か?」
ガイアスの確認にうなずいた。
これは私が始末つけなきゃいけない……いえ、違うわね。私が決着を「つけたい」の。
「……分かった。ただし、危ないと判断したら割って入るからな」
「ありがと」
ガイアスに礼を告げ、心配そうに見つめるエリーにも「大丈夫」と笑ってからクーザリアスと私は二人で対峙した。
「ミレイユゥ……テメェのせいで俺ぁ何もかも無くしちまった……」
目は正気を失ってるのに、口から出てくるのは私への逆恨みばかり。だけどクーザリアスの口元は嬉しそうに笑ってた。
「だからテメェだけは俺のモンなんだ……他の誰にも渡さ、ねぇ……」
「どの口が言うのかしら」
自分から裏切っといて。
私が鼻で笑いとばす。けど彼は口を歪めながら同じことを繰り返し、戦闘前に打った魔法薬物と同じものを再び自分の首元に突き刺した。
「あ…あぁ……」
ため息があふれ、快感にだらしなく顔が歪む。すると彼の体はさらに歪に変化していった。
浅黒かった肌がさらに黒く、不格好に筋肉が盛り上がって体が肥大化する。口元が突き出し、頭からは角。もはや人間としての姿形を失った。
「人間が……モンスターになった……?」
「いえ、これも魔法の一種ね」
彼の体を注視すれば、コンソールにコードが表示された。だから魔物化も解除はできるのだろうけど、そうしたところでどこまで元の身体に戻るか。
「……哀れね」
「■■■■――っっっ!!」
私のつぶやきを否定するようにモンスターとなったクーザリアスが咆哮を上げた。
そうして私たちの戦いが始まった。
「オォ■■ッッッ!」
彼が剣を振り上げると、一瞬で距離を詰めてきた。強烈な一撃が放たれる。それを後ろに回避すれば轟音と共に地面が弾け、礫が弾丸みたいに弾け飛んでくる。それらを義手で防ぎ、私も大量の魔法で反撃した。
私にも伝わるほどの魔法の熱が撒き散らされ、巻き上がった爆煙が彼の視界を塞ぐ。だけど彼は剣を一振りしてそれを吹き飛ばすと、傷だらけの体ですぐに私に迫ってきた。
「さすがっ……!」
強化した私にも、無駄のない動きでついてきて攻撃を繰り出してくる。
すかさずデバフ魔法を実行し、動きを鈍らせる。一瞬彼の体が沈み、それでも再び咆哮を上げて地面を蹴って私との距離を開かせない。
鋭く、力強い攻撃が無数に振るわれる。私も義手の剣で応じるものの、次第に防御だけで精一杯になっていった。
(ああ、そうよね)
体がモンスターとなり正気も失っても、失われていないものもある。
一撃を受ける度に思い出す。モンスターを斬り伏せ、屠り続けた美しく鋭い剣技。仲間になった時からずっと見続け、憧れさえ抱いたクーザリアスの剣は彼の中に残り続けていた。
(ずっと剣だけは努力してたものね)
成功を重ね、増長し、私を見下し始めても剣だけは努力を止めなかった。私をパーティに招き入れてくれた歓迎会の後も、初めて体を重ねた後も。「剣は正直だからな」。そう言って必ず剣を振るってた。だからだろう。私が彼を愛した理由の一つは、まだ確かにそこにあった。
「ミレェイユゥ……ミレイユ、ミレイユ、ミレイユ、ミレイユゥゥゥゥ!!」
獣じみた声で私の名前を連呼してくる。
彼の剣を受け止めながら私はさらに魔法を重ねる。氷の刃に彼の腕が、脚が斬り裂かれて血が吹き出す。それでもなお筋肉が膨れ上がり、一撃一撃の重みが増していく。
「お前はぁ……俺から……離れるな。俺はお前を、お前をずっと愛してた……!」
「……バカね」
私を捨てたのは貴方。離れたのは私じゃなくて貴方の方じゃない。自業自得よ。今更すがってきたって、受け止めてなんてあげられないわ。
なのに――彼への嘲りと、それ以外の気持ちが私を苛んでいる。
「ホントに……バカよね――」
だけど、終わりにしなきゃ。
そうつぶやいて彼との間で魔法を炸裂させる。衝撃で互いに弾き飛ばされ、時間の空白が生まれた。
「ミィレイユゥゥゥゥゥゥッッッッッ!!」
雄叫びと共に、クーザリアスが地面を再び蹴った。
私も、先程よりも魔力を込めた魔法の一撃を放つ。氷塊がぶつかり、けれども彼はそれを剣でいなした。
その衝撃で横に弾かれ、だけど強烈な脚力で踏みとどまる。そうして乾坤一擲の一撃を、私がソードを構えるよりも速く振り下ろした。
「が、あ、ぁ……」
腕が舞った。左手の義手が音を立てて転がっていく。
そして、剣を振り下ろした彼の体から血がこぼれ落ちた。
同様に振り下ろした姿勢の私の右手には魔法でできた剣が握られてる。その剣が、彼の体を深く貫いていた。
仰向けに彼の体が倒れていく。面影も無くなった巨体が地面に横たわり、血溜まりが広がった。
「み、れい、ゆ……」
途切れ途切れの声。半ば閉じた赤いその目に、けれどすでに狂気はなくって、涙をにじませながら私を見つめていた。
「私も貴方を恨んでた」傍らに私はしゃがんだ。「どうして私を捨てるのかって。どうして私を殺すのかって。恨みは今も完全には消えてない。だけどね、もうどうだっていいの」
痛みは私の中に残り続けてる。忘れたって消えやしない。最後はろくでもなかったけど、右も左も分からない探索者になりたての私に声を掛けてくれた、あの嬉しさもまた残り続けてる。
それでも。
「あの時失った以上に大切なものを私は見つけたの。その中に、貴方はいない」
「そう、か……」
「だから……さようなら、クー」
最後に懐かしい愛称で彼を呼ぶと、モンスター化しても分かる、あの頃と変わらないやんちゃな笑顔をクーは浮かべた。
それきり、彼は眠った。
「ミレイユさん……」
「大丈夫よ」
エリーの声に、感情を悟られないように振り向かず短い返事をする。
少し黙ったまま彼の穏やかな顔を見つめ、それからコンソール画面を開いて、クーザリアスに掛かっている魔法のコードをいじっていく。すると、肌の色や体の大きさは戻らないものの、顔だけはなんとか人間のそれに戻すことができた。
「彼の遺体を、お願い」
震える声を抑えてガイアスたちにそう伝えると、私は迷宮に地上への道を作り上げ、一人先に登っていく。
地上に出ると日は沈み、雨が降っていた。シトシトと静かに雨粒が落ちていて、それに打たれると私はこらえきれず、幼子みたいに一人声を上げて泣いたのだった。
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