4-8 最深部の決戦
「テメェの相手は俺だよ、ミレイユ」
喜びに顔を歪め、クーザリアスはイゴールから受け取った物を自身の腕に突き刺した。
すると彼の白かった肌が薄っすらと浅黒く変化した。浮き出た血管が脈動したかと思うと筋肉が隆起して体が一回り大きくなる。真っ赤に染まった瞳が喜びに満ちあふれていた。ちょっとちょっと、何よそれ。
「アァ……イイ気分だ。みなぎってきた――ぜぇっっっっ!!」
「速いっ……!?」
瞬間移動したみたいにクーザリアスの体が目の前に現れ、私は慌ててのけぞって一撃をかわした。そのまま地面を転がって顔を上げれば、すでに二撃目が振り下ろされようとしていた。
間に合わない。直感して義手を変形させ、中のソードでなんとか受け止める。けど。
「重、いっ……!」
なんて馬鹿力なのよ。身体強化の魔法掛けてるぇってのに、耐えきれずジリジリと押し切られそうになる。
「おらよっ!!」
「ぐっ……!」
そこに彼の蹴りが繰り出されて私の腹にめり込む。咄嗟にガードしたけど、体ごとふっ飛ばされてそのまま壁に叩きつけられた。
「ミレイユさんっ!?」
「だい、じょうぶ……!」
幸いダメージはそこまでじゃない。けど……明らかにクーザリアスの身体能力はアップしてるし、そもそものベース能力が貧弱な私だと、単なる身体強化魔法だけじゃ太刀打ちできなさそう。
「どうしたぁ? もう終わりかぁ? まだまだテメェへの恨みはこんなもんじゃねぇぞ?」
クーザリアスがニタニタとしながら「かかってこいよ」とばかりに指先を曲げて挑発してくる。コイツが邪魔をしてくれたおかげで、イゴールが大量のモンスター召喚に成功して、メルディアたちはそっちの対処で手一杯。コイツとイゴールの相手は私一人でやらなきゃダメそうね。
視界の隅で迷宮のコードを確認すれば、リアルタイムで書き換わっていってる。幸いこの場所に変化はないけど、上の階層は酷いことになってるかも。ひょっとすると、また街に出口が繋がって大惨事になってる可能性だってある。
「まったく……相手してる暇は無いってのに」
けどいいわ。やったろうじゃない。こちとら伊達にブラックな企業で長年エンジニアやってたんじゃないんだから。
強化の魔法を改めて私自身にかける。瞬間、体はいっそう軽く、けれど猛烈な頭痛が襲ってきてふらつくのを踏みとどまる。
そして、今度は私から仕掛けていった。
「ベースのコードをオープン。対象を指定して、新たな変数を用意。ループ文で回数を大きく設定。内部に規定の関数呼び出しを記述して――」
集中してる時の癖でブツブツと口に出しながらコードを記載し、風と氷の刃を二人に向かって繰り出していく。
「はっ! ンな攻撃――っ!?」
初撃はあっさり二人にかわされる。だけど魔法と同時に突撃し、義手のソードをクーザリアスめがけて一閃した。
剣と剣が交差する。けど、さっき私がされたようにそのまま力任せに押し込んで蹴り飛ばした。
そのまま矛先をイゴールに変更。鼻から血が垂れるのを感じながら迫っていった。
「……」
イゴールは無言で剣を抜きつつ、高速詠唱で魔法を放ってくる。私の魔法とぶつかり合って激しい閃光が撒き散らされ、それでも互いに引かない。
剣と剣がぶつかり、けれどそれも一瞬。すぐに私たちは離れ、魔法で攻撃し合う。その最中でも私はコンソール画面を見つめていた。
「迷宮コードをオープン。モンスターの出現率を強制的にゼロに書き換え。出現済みの対象を消去して――」
飛んでくる魔法を回避しながら実行し、メルディアたちが戦っていたモンスターが消え、けれどすぐにまた新たなモンスターが現れる。そこにまたクーザリアスが剣を振り下ろし、それを受け流して逃げながら魔法で応戦していく。
「器用なことだな」
「忙しいSEにはマルチタスクが必須技能なのよ」
とは言ってもここまで忙しないことも無かったけどね!
軽口は叩きながら、だけど状況は未だに圧倒的に不利。クーザリアスに連携なんて気持ちはこれっぽちもないけど、冷静なイゴールがアイツに合わせる形で攻撃してくるもんだから捌ききれない。
浅い傷が少しずつ増えていく。なのに強化魔法の重ねがけのせいで頭痛は加速度的に増していく。
そして――終わりは唐突に来た。
息が切れ、目が霞む。脚から急に力が抜け、気づけばイゴールの魔法が私のすぐ目の前に、さらに後ろからはクーザリアスの刺突が迫っていた。
(あ……)
死んだ。そう直感した。かつて、ドラゴンを前にした時と同じように圧倒的な死の気配が私にまとわりついてくる。
二度目の人生も、ここで終わるのだ。前と同じく地中の奥底で。
(結局こうなる運命ってわけね……)
あり得た未来に、結構抗えたとは思う。だけど結末は同じ。死ぬ直前には走馬灯が見えるとは言うけれど、そのとおり私の脳裏に鮮やかな記憶が一斉にあふれ出た。
クーザリアスの支配から抜け出して、お店を作って。フリオから金貨を受け取ってみんなでニヤニヤして。魔道具とにらめっこし、コンソールのコードをにらみつけて。
そうしたこれまでの日々の最後に出てきたのは――エリーとユフィの笑顔だった。
(負けて……たまるかってのよっ!!)
私自身を奮い立たせる。ここで負けたらすべてが一巻の終わり。仲間たちはモンスターに押しつぶされ、迷宮は崩壊して後はエリーの時代と同じ未来が待っている。家族の笑顔を見ることは叶わない。そんな未来――受け入れられようはずがない。
一歩、踏み込む。イゴールの魔法が頬から肩を鋭くえぐっていった。遅れてきたクーザリアスの剣が脇を貫いて、稲妻のような激痛が走る。
「……ミレイユさんっ!」
赤い血がこぼれ落ちる。クーザリアスがほくそ笑んだ。そして――私もほくそ笑んだ。
コイツの笑顔に生身の拳を叩きつけた。肉と骨にそれがめり込み、勝ち誇った顔が醜く歪んで吹き飛んでいく。
そのまま強かに地面を蹴る。イゴールの口元が微かに動いて魔法を唱えようとした。
それと同時に、私もまた三度目の身体強化魔法を実行した。
途端に景色の流れがゆっくりに変わる。知覚できる範囲が増大し、イゴールの指一本一本の動きさえはっきりと捉え、心臓の鼓動が耳に届く。
そうして私はイゴールの懐に潜り込んだ。この場の誰よりも速く疾走り、彼の顔が無感情な仮面の下で動くのを感じた。
「喰らいなさいっ!!」
そしてその土手っ腹に魔法をぶち込んでやった。
激しく閃光が撒き散らされる。身の安全なんて考えず、時間が許す限りの魔力を注ぎ込んだだけの、構成もまともにできてない出来損ないの魔法。だけどもそれが破裂した瞬間に爆風が弾け飛び、凄まじい圧力で私たちを吹き飛ばしたのだった。
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