4-7 交差しない二人
迷宮のコードをいじって最下層まで最短距離で私たちは到着した。けど、最後はちょーっとだけ派手過ぎたかしらね。まぁ全員無事だしオッケーでしょ。
それよりも。視線を周囲に送れば、壁際に倒れてたエリーを見つけた。口元には血が滲んでるし、手を縛られた状態。殴られた痕があるのは頂けないけど、それでも大きな怪我もないみたいで一安心ね。
それじゃ――彼女を返してもらうとしましょ。
「お望みどおり来てやったわよ、クーザリアス。それに……イゴール」
「予想よりも早い到着で驚いている。迷宮を改変しながら進んできたのかね?」
「ええ、そうよ。どっかの手癖の悪い男が私の家族をさらっていったからね」
私が肯定すると、イゴールが仮面の下で歓喜に震えたのが分かった。
「素晴らしい力だ……! 先日の報告からそのような力があることは示唆されていたが、この目で見ると興奮に耐えない。いったいどうやってその力を――」
「おい、イゴール!」
イゴールとの会話にクーザリアスの野郎が割り込んできた。ちょっと、話の腰を折らないでよ。
ホント、コイツは自分勝手なんだから。クーザリアスをジロリとにらむけど、そんな私の視線なんてお構い無しに私を見て顔を紅潮させ、剣の柄を何度も握ってた。気持ち悪いわね。
「ミレイユは俺のもんだ。ダラダラ喋ってないでさっさと俺に寄越せ。もう――殺して殺して殺してやりたくて仕方ねぇんだ」
「……もう限界、か」
血走って物騒なことを喚くクーザリアスに、イゴールが小さくため息をついた。けど彼はマントの下から何かを取り出すとそれをクーザリアスへと投げ渡した。何かしら?
「これをやるからしばらく黙っていたまえ」
「……ちっ、しかたねぇな」
「後一回が限度だ。人間でいたかったら遵守するんだな」
「分かってるよ」
……麻薬か何かかしらね。クーザリアスのことなんてどうでもいいって言いたいとこだけど、袂を分かったとはいえ知り合いが目の前で破滅するのは止めさせたい。そう思ってクーザリアスに「クスリなら止めときなさい」って声を掛けてみたけど、私の言葉なんて耳に入らないみたいだった。はぁ、もう知らないわよ。
「話の腰が折れた。君とは交渉をしたい」
「交渉、ですって?」
「そうだ。ミレイユ――君も我々の仲間にならないかね?」
「なっ!?」
私より先にエリーが声を上げた。後ろにいるメルディアたちからも驚きと訝しる様子が伝わった。
「もうまもなく魔法陣が完成する。そうすればこの迷宮は私の自由になる。だが、まだ不完全だ。完全に制御できるわけではない。しかし、君がいればより研究が進められる」
なんとなくではあるけれど、たぶんイゴールは本気でそう提案してるんだと思う。言葉は真摯で、私を騙そうとかそういう気持ちは無さそう。一方で後ろではクーザリアスが無言ながらも苛立たしげに脚を揺らしてる。
「おそらく君も完全に自在に迷宮を操ることはできていないのだろう? 二人で力を合わせれば、ここだけでなく世界中の迷宮を掌握することも夢物語ではなくなる」
「……正気かしら?」
「もちろんだとも。私の目標は――貴族への復讐だ。そのために、彼らの資金源になっている迷宮の崩壊を目指しているが、必ずしも崩壊させる必要はない。彼らと対等、あるいはそれ以上の立場に立てればいいのだから」
「ミレイユさん、こいつらの言葉に耳を貸す必要はない」
ガイアスが忠告してくれる。だけどイゴールはさらに言葉を重ねてきた。
「ミレイユ、君も貴族という立場を捨てた身だ。先日も王城に招かれ、彼らの身勝手さを十分に知ったはず。奴らに統治する資格などありはしない。遠慮など不要と思わないかね?」
「……ええ、そうね。それについては同意するわ」
陛下とお話できたのは良かったけど、聴聞会自体は何の実りもなくて実に酷かったわ。
そうでなくっても貴族なんてものと関わりたくはない。物心ついた時から彼らとは水が合わなかったし、婚約破棄されてからの扱いも酷いものだった。恨みはあれど感謝する気持ちなんて、せいぜい労せず生活ができてたことくらいかしら。それさえも死んだような生活だったし。
けどね。
「さあ、どうかね? 私たちと共に新たな秩序を作らないかね?」
「ありがたい提案だけど、プレゼンとしては失敗ね。丁重にお断りさせてもらうわ。
私はね、家族と一緒に魔道具と魔法の研究さえできれば、それでいいの」
現代日本で知った「創る喜び」。私の創った物で誰かが喜んでくれる。それを戻ってきたこの世界でも実現したいだけ。だけどイゴール、コイツはそれを壊そうとしている。別に貴族がどうなろうと構わないけど、彼の目的と私の目的とは相容れない。
「私は何かを創るのが好きなのよ。壊す側より創る側の人間でいたいのよ」
だから私とイゴールは共に歩めない。進む道が絶望的に違うし、お互いに譲れないから交わろうとすれば――
「そう、か……」
彼の声にひどく落胆が混じった。しばしの沈黙の後、彼は大きく息を吐き出すと顔を上げた。そして彼が手を挙げると、控えてた兵士数人が守りを固めるように進み出た。クーザリアスの奴も口を歪ませて立ち上がった。
「交渉は決裂。実に残念だ。君とは良好な関係を築きたかったのだが」
「そこも同意よ。だけど貴方はエリーも必要なんでしょ? 私も彼女が大切で譲る気はない。目的も正反対」
「であれば」
「ええ――敵対するしか道はないわ」
かくして戦いが始まった。
初手はイゴールから。マントの隙間から赤い魔道具の光が覗いたかと思うと、私たちの足元が突然隆起した。それを後退して回避したけど、見れば地面からモンスターが生まれ出ようとしていた。迷宮のコードを開いて横目で見れば、モンスターに関するモジュールが次々と書き換えられていっていた。ちぃっ……!
「迷宮に手を出すのは止めなさい! このままじゃ貴方たちもただじゃ済まないわよ!」
すでに私の視界は「ほころび」とアラートだらけでゾッとする状況なんだけど、当然イゴールには見えないし理解できない。だから私の警告なんて届くはずもない。
「敵対した以上、言葉は意味を成さない。止めたければ、かかってきたまえ」
「言われなくてもそうするわよ!」
ガイアスたちには私兵の相手をしてもらい、私はコードを書き換えてモンスターそのものの存在を「削除」した。するとモンスターが忽然と消え、イゴールからは訝しさの混じった称賛が届けられた。
「モンスターまで自在に操るか……その力を私が使えないのが実に口惜しいな!」
称賛と一緒に、高速詠唱で次々と魔法を私に放ってくる。私もコンソール魔法で撃ち落とし、反撃するけどイゴールには届かない。彼は再びモンスターを作り始め、私も同じくコードにアクセスしようとしたけど、不意に感じた殺気に急ぎ飛び退いた。
私のいた場所で剣戟が空を切る。振り返れば、クーザリアスが見下ろしていた。
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