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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第4部 アドミニストレータ

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4-5 優しい決意




 怒りと絶望に打ちひしがれながら、私は一人店へと戻った。

 あふれ出たモンスターは、駆けつけた他の探索者たちと一緒に全滅させた。ギルドへの報告はジャンナに任せ、孔も応急処置的ではあるけど塞いでおいたからとりあえずはなんとかなると思う。

 それよりも私にはやらなければならないことがある。


「いらっしゃいま……あ、お嬢様、おかえりなさいませ」


 店に戻るとユフィが笑顔で出迎えてくれるけど、今はその笑顔に応えてあげられる余裕はない。


「エリーさんはご一緒じゃないんですか?」

「……ごめん、ユフィ。すぐに迷宮に行くわ」


 質問には応えず地下の工房へと降りていき、圧縮カバンに荷物を詰め込んでいく。

 エリーを、助けてあげられなかった。彼女を抱えたクーザリアスの姿が脳裏に浮かんで、耳の中ではアイツの高笑いが未だに響いている。


「っ……!」


 不甲斐なさに怒りが収まない。右拳を作業台に叩きつけ何とか気持ちを落ち着ける。


(大丈夫……目的が私への復讐なら、エリーはまだ無事なはず)


 彼女を殺すつもりならあの場で殺したはずで、そうしなかったのは私を迷宮最深部に呼び出す「エサ」に彼女を使うからだ。

 何故迷宮最深部なのか、それは分からない。だけど……たぶん、イゴールもエリーが特別な人間だってことに気づいてて、彼の思惑とクーザリアスの利害が一致したのかも。

 だけど、いいわ。そっちがその気なら。


(待ってて、エリー。すぐに助け出してあげるから)


 彼女は私の「家族」だ。血は繋がっていなくても紛れもない家族。侯爵家の娘だった時には決して手に入れられなかった大切な存在。それを奪おうとするやつは――


「誰であろうと許さない……!」


 何に手を出したか、思い知らせてやろうじゃない。

 そう誓い、最後の荷物を詰め終えると階段を登っていくと、ユフィがカップとポットを手に待ってくれていた。


「お嬢様、出かける前にお茶はいかがですか? 気持ちが落ち着きますよ」


 ありがとう、ユフィ。でも今はそんな気分じゃないし、一刻を争うの。

 無言で頭を振って彼女のそばを通り過ぎ、カバンを片手にドアに手を掛けた。

 すると背中に、ぽふっとした柔らかい衝撃がのしかかった。


「……お嬢様は昔からお変わりませんね」


 彼女の温もりが布越しに伝わってくる。私の胸の前に回された腕がギュウッと抱き締めてきて、それがユフィのもどかしさを表してるみたいに感じる。


「ここは侯爵家とは違ってお嬢様の『家』です。お嬢様を蔑ろにするものはおりませんし、私はお嬢様のことを僭越ながら家族だと思っております。そして、お嬢様のお力になりたいとも」

「……」

「何もかもを共有してほしい、などとは申しません。ですが……お辛い気持ちを抱えているお嬢様の姿を見ているだけしかできないのは私も辛いのです。なので、どうか教えて下さいませ。いったい、何があったのですか?」


 優しい声に、気持ちが解けていく。昔から不思議とユフィの声は私を癒やしてくれてたっけ。怒りと情けなさが綯い交ぜになって固くなった心が、まるでコーヒーに入れたシュガーのように溶けていった。


「エリーが……さらわれたの」


 気づけば私の瞳から涙がこぼれ落ちていた。

 膝から崩れ落ちて、あふれ出る不安と悲しみをたどたどしい言葉でユフィに説明していく。感情の赴くままに話したからきっと要領を得ない話だったと思うけれど、彼女は「うん、うん」と相槌を打ちながらじっと聞いてくれた。

 やがて話を終えると、ユフィは私を正面からギュッと抱きしめてくれた。


「ありがとうございます。それでお嬢様は、エリーさんを助けに行かれるのですよね?」

「ええ、そうよ」

「でしたら、私からもお願い致します――エリーさんを、宜しくお願い致します」


 ユフィがそう言って頭を下げてきて、思わず私はキョトンとしてしまった。ユフィのことだからてっきり止められるかと思ったんだけど。

 そう言うとユフィは小さく笑って頭を振った。


「エリーさんも私にとって大切な家族ですから。私にはお嬢様を止める権限などありませんし、ご一緒に助けに行けるような力もありません。なので……私はこのお店をお守り致します。お嬢様は憂うことなく、エリーさんを宜しくお願い致します」


 優しい笑みを浮かべたまま、私の背中を押してくれる。

 だけど気づいた。ユフィの手が小さく震えてることに。


(そう……そうよね)


 ユフィも不安だし、怖いわよね。だけどそれを押し殺して私を後押ししてくれてる。

 なら。私は目元を拭ってから彼女の手を取った。


「大丈夫よ、絶対帰ってくるから。エリーと一緒に、ね?」


 そうして私もまた、目一杯の笑顔でユフィに笑いかけたのだった。






 かくして心を軽くした私は一人、迷宮の入口へと向かった。

 人気の無くなった大通りを進み門を抜け、いつもなら活発に往来のある迷宮への道を進んでいく。すると、道の真ん中で一列に並んでる人たちがいた。


「おーい、ミレイユさーん!」

「待っていたぞ」

「やれやれ、ようやくお出ましか」


 メルディアにガイアス、それにゼナス。前に合同調査で一緒に潜った三人が私を待ち受けていた。どうしたのよ、三人とも?


「ジャンナから話を聞いたのよ」

「エリーの嬢ちゃんがさらわれたんだろ? アンタらには助けてもらった借りがあるし、ここらでそいつを返しておこうと思ってな」

「もちろん足手まといになるつもりはない。だから同行させてほしい」

「みんな……」


 三人の申し出に思わず鼻の奥がツンと来る。参ったわね、私ってこんなに涙腺弱かったかしら。

 正直、すごくありがたい申し出。でも……今の迷宮はこないだよりもずっと危険よ?


「それも承知の上だっての」

「それに、ミレイユさん一人で行くよりも四人の方がずっと安全じゃない?」

「ありがと……ならお願いするわ――エリーを助けるのを手伝って」

「――承った。この依頼、必ずや完遂させてみせる」


 ガイアスがスッと小手で覆われた右手を掲げる。それに、パンッと音を立てて私の右手を力強く重ね合わせた。私がニッと笑えば、全員が同じくニッと笑った。ホント、心強い仲間だわ。

 改めて、よろしく頼むわ。そう伝えると、いよいよ私たちは並んで迷宮へと向かっていったのだった。






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