4-4 スタンピード
「なんでモンスターが街の中にいるのさっ!?」
「まさかもうスタンピードが始まったってことッスか!?」
ジャンナとエリーが戦闘態勢に入りながらも困惑したように叫ぶ。まさにエリーの言うとおり、スタンピードが始まったってことでしょうね。
でもどうやって街の門を突破したのかしら……いえ、そこらを考えるのは後ね。
「危ないっス!」
逃げる途中に転んだのか、尻もちをついた子どもが見えた。モンスターが二人に向かって棍棒を振り上げ、それを庇うように母親が覆いかぶさってる。そこにエリーが割って入り攻撃を受け止めた。
その横っ腹に私の氷魔法が突き刺さり、悲鳴を上げた横っ面をエリーが殴り飛ばす。親子が無事なのを確認すると彼女は一瞬微笑んでから叫んだ。
「早く逃げるッス!」
「あ、ありがとうございます……!!」
視線を逃げていく親子からモンスターたちの方へと向ける。ジャンナが疲労をおして戦ってくれてて、他にも近くにいたらしい探索者たちが戦ってくれてる。他に逃げ遅れた人もいないみたいで、それは幸いね。
「だけど……」
いるのは低階層のモンスターばかりだから何とかなってるけど、それにしたって数が多すぎる。街中だから強力な魔法で一掃できないのが辛いところね。
「ミレイユさん、あそこッス!!」
そうしていると、地面に空いた孔からモンスターたちが這い出してくるのを認め、エリーが指さした。孔は小型のモンスターが何とか一体通れるくらいなんだけど、そこから絶え間なく奇声を上げながら湧き出してる。ちょっと待ってよ、まさか……
「迷宮と繋がってるっていうんじゃないだろうね!?」
「その可能性が高そうよ!」
スタンピードで現れた大量のモンスターが、街中に繋がった孔からあふれ出てる。そう考えるとしっくり来る。そしてそれは、私がこの間施した対策がAIエージェントによってすでに突破されたということ。まずい、まず過ぎるわ。
「とにかく孔を塞ぎましょう! 私は魔法の準備をするから、エリーとジャンナはモンスターの相手を――」
だけど孔を塞ぐためのコードを書こうとしたその時、地面が揺れ始める。小刻みな振動が足裏から伝わってきて、そして――目の前に迷宮のコードが表示された。それはつまり、すぐそばに迷宮の通路が伸びてきたってことで。
「っ……!」
咄嗟に後ろに飛び退くと、私が立っていた場所にも孔が空いた。そこからさっきまで以上のモンスターがあふれ出して津波のような勢いで押し寄せてくる。
やむを得ずコード作成を中断し、ライブラリ魔法と義手のソードで蹴散らすことに専念する。それでも数は一向に減らない。エリーやジャンナもすでに手一杯だし……圧倒的に人手が足りない。騎士団や衛兵連中はまだ来ないの!?
「ちぃっ、キリがないね! って、アイツは――?」
息を切らしながら戦っていたジャンナが不意に何かに気づいて、私も視線を向ける。
そこにはフードを被った男が立っていた。一瞬フェイタリス・コードの奴らかとも思ったけど、トレードマークの黒いフードではなく、いかにも旅人といった風貌だ。腰には剣を携えてるから一般の市民ってわけじゃなさそう。他所の街から来た探索者かしら。
「この際、何だっていいわ! そこの貴方、戦えるなら手伝って!」
素性は分からないけど今はとにかく人手が必要。私がそう叫ぶと、彼はうなずくでもなく走り出した。
モンスターたちの群れに飛び込んだかと思うと、片っ端から剣で斬り伏せていく。まるで暴風のような荒々しさで、だけど洗練された無駄のない動き。相当に高ランクの探索者みたいね。
「なんにせよ、助かるわ……!」
もうしばらく耐えてれば、きっと他の探索者や騎士団たちも来て楽になるはず。そう信じて私たちは戦い続けていた。
その時だ。
「――え?」
モンスターを蹴散らしていた彼が突如として群れの中から離脱した。かと思うと、エリーへと向かっていって――何を思ったか彼女を背後から殴り飛ばしやがった。
「エリー!? ちょっと、アンタ何してくれやがってんのよ!?」
「……ふ、ふふふ……ふはははははははははっっっ!」
私の神経を逆撫でするように突然笑い声を上げ始めた。場違いな哄笑。それがいやに不気味で、私もジャンナも彼をにらみながらも気持ちの悪さを覚えた。
彼がフードを外す。露わになる顔。誰何が明らかになると、知らず私はギリ、と奥歯を噛み締めていた。
「よう、久しぶりだなぁ?」
「クーザリアスっ!」
クーザリアスが気を失ったエリーを抱え上げ、口元をニィ、と歪ませた。
アイツ……! 何とかエリーを助け出したいけど、クーザリアスのとこへ近づこうにもあふれ返ったモンスターが邪魔で中々近づけない。クソッ! 邪魔しないで!
「クー! いったい何やってんだい!?」
「どういうつもりよ……! エリーを何処に連れてくの!?」
「どういうつもりってか? 決まってるだろ――復讐だよ」
私を見下すような眼差しには憎悪と嘲笑がにじみ出していた。モンスターを切り倒した際に浴びた血飛沫が、いっそう彼の狂気を際立たせてる。
「お前が裏切ったせいで……俺のすべてがめちゃくちゃになったんだ。だからお前のこともぐちゃぐちゃにして、そのうえで――お前をもう一度俺の物にしてやるよ」
コイツは何を言ってんの……? メチャクチャの言い分に背筋がゾッとする。どっちかって言えば私の方がアンタにめちゃくちゃにされたし、グランディス・ソードがダメになったのは全部自業自得でしょうが。
「自分の愚かさを棚に上げて人のせいにしないでよ! エリーを離しなさい!」
「やなこった」
私たちを鼻で嘲笑うと、クーザリアスはトン、と軽やかに跳躍してモンスターの群れから脱出した。
「もしこの女を助けたいなら、迷宮の最深部まで来い。そうすれば返してやるよ」
「待ちなさいっ! 待って、待てって言ってんでしょ!」
家の屋根に飛び乗ったクーザリアスは、そう言い残してエリーと一緒に見えなくなっていく。
「エリー……! クーザリアァァァァァスっっっっ!!」
どれだけ怒りを込めようとも、私の手はエリーに届かない。
彼らを呼ぶ声だけが、虚しく騒がしい街へと響き渡るだけだった。
お読み頂き、誠にありがとうございました!
本作を「面白い」「続きが気になる」などと感じて頂けましたらブックマークと、下部の「☆☆☆☆☆」よりご評価頂ければ励みになります!
リアクションだけでもぜひ!
どうぞ宜しくお願い致します<(_ _)>




