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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第4部 アドミニストレータ

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4-3 凶行




「ホンットーに私が特別な人間ッスか? ミレイユさんの期待しすぎじゃないッスか?」


 禁書庫から帰る道すがら、エリーはずっと似たことを繰り返してた。

 魔素循環システムを管理する「ユグドラシル」。そこに入る特別な資格を持った人間っていうのがエリーなんじゃないかってことで、私も司書さんも意見は一致したわけだけど。


「だって……私なんて魔法の腕も未熟だし、家柄だって何代も前から平民の平々凡々な家系ッスよ? 特別なことなんて何も無いのに……」

「特異点だらけの人間がよく言うわよ」


 当の本人がこの調子である。エリーが平凡ってぇんなら、世の中は奇跡の大洪水だわ。本が読めた時点で答えは出てるのよ。


「いいじゃない? アンタは将来起きる秩序の崩壊を止めるためにやってきたんでしょ? ならそれに繋がる特別な力があって何が困るのよ?」

「それでも怖いんスよ……もし私がその『特別』じゃなかったらどうするんスか?」

「そん時はそん時よ。別に損をするわけじゃないんだから『特別な力があってラッキー♪』くらいに思っときなさい」


 他の誰にもできないことが自分にはできる。それは生きる上での大きなアドバンテージ。その分、責任も生じるなんていう輩もいるけど、そんなの知ったこっちゃないのよ。

 やるもやらないも決定権は自分。他人じゃない。だから、世界を救いたいならそれを活かせばいいし、そうじゃないならこのままどっか遠くへ行って、世界が終わるまで平和に暮らしてもいいわ。


「ミレイユさんはそれでいいんスか……?」

「別に良いわ。他人に強要される人生なんてまっぴらゴメンだし、エリーにも押し付けたくはないもの」


 そう言うとエリーは立ち止まって少しうつむき、目を閉じた。

 眉間にしわを寄せて思い悩んでる様子ではある。けどしばらくして目を開けると、彼女は腹を決めたみたいだった。


「私は……私のいた世界の人たちを救いたいッス。もし本当に私が特別で、その資格が役に立つならそれを活かしたいッス」

「なら決まりね」私は微笑んだ。「私も、今までどおり全力で手伝うわ。

 さて……となると次はどうやって『ユグドラシル』に至るかって話になるけど……」


 E・Eでも制御できないって状態だと、「ユグドラシル」に入って上位権限で修正するのがベストよね。でも今は、鍵はあっても使う場所が分からない状態。……やっぱりまた最下層に行って、E・Eとコンタクトをとらなきゃいけないかしら。


「み、れい、ゆ……」


 そんな会話をエリーとしてると、どこからか微かに私を呼ぶ声がした。今にも掻き消えてしまいそうなか細い声。立ち止まって耳を澄ませ、声の方向へと振り返る。


「ジャンナ?」


 すると、路地の暗がりからジャンナが姿を現した。だけど顔には痣があって、顔色も酷く悪い。手は脇腹を押さえてて、そしてその指の隙間からは赤い血がポタポタと落ちていた。


「良かった……アンタは無事、なんだ、ね――」

「ジャンナ!?」


 私の姿を認めた途端、ジャンナが崩れ落ちた。慌てて駆け寄って路地に座らせて傷を確認する。真っ赤に染まった服は鋭利な刃物で切られた跡があって、傷も結構深そう。

 急ぎコンソールを開いて回復魔法を実行。怪我をした箇所で仄かに白く光り、歪んでいた彼女の顔が穏やかになっていった。良かった、間に合ったみたいね。


「大丈夫? 動けるかしら?」

「……ああ、楽になったよ。ありがと、ミレイユ。だけどこんな魔法まで使えるようになってるなんて……ふふ、やっぱりアタシらが馬鹿だったってことだね」


 ジャンナは気まずそうに目を伏せた。彼女は謝ってくれたし、もうそこまでわだかまりもないんだけど、まだ気にしてるみたい。


「それよりどうしたのよ、ジャンナ? 何があったの……?」


 戦闘に関しては、間違いなくジャンナは優秀だ。そんな彼女が重傷を負うなんて、中々想像できないんだけど。

 尋ねるとジャンナはハッとして慌てて立ち上がった。けどすぐにふらついて、彼女の体をエリーが支えた。


「ほら、まだ座って。傷は治ってもその分体力は消耗するんだから」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんだ! クーを見なかったかい!?」

「クーザリアス? いえ、見なかったけどどうしたの?」


 あまりにも必死なジャンナに、思わず私もたじろいだ。彼女のケガといい、少なくとも何か良からぬことが起きたみたいだけど。


「……アイツ、いよいよおかしくなっちまったみたいなんだ」ジャンナは頭を抱えた。「アンタを殺すってばっか急に言い始めて、目も血走って、マジでやばかった……」

「実際にあの男は私を一回殺してるけど?」

「冗談言ってる場合じゃないんだよ! 私だって最初はジョークで言ってるのかと思ったけど、うわ言みたいにそれしか言わなくて……さすがにこれはまずいって思ってアタシとダレスで止めようとしたらアイツ……ためらいなくダレスを殺しちまった」

「……嘘でしょ?」


 思わずエリーと顔を見合わせる。彼女も信じられないって顔で、だけどジャンナが嘘を言ってるようにも思えない。


「嘘でもこんなこと言うもんか! アタシのケガもクーに斬られたんだ……何とか逃げ出せたけど、アイツの言葉を鵜呑みにするなら……次に狙われるのはミレイユ、アンタだと思ってずっと探してたんだよ」


 クーが、ダレスを殺した……ジャンナが教えてくれた凶行に、私も正直動揺を隠せない。頭の中がグルグルとしてくる。

 グランディス・ソードが空中分解寸前だって噂は私も耳にしてた。それも自業自得だし、同情する余地はない。だけど私を除いた三人は探索者になりたての頃からの仲間だし、たとえ上手くいってないって言ってもそんな簡単に殺すなんて。


「お願いだよ、ミレイユ」立ち呆けてる私に、ジャンナがすがった。「今すぐ逃げとくれ。クーはアタシが何としても止めて、罪を償わせるから。エリーって言ったね? そこの娘も、アンタの店のもう一人の娘も危ない。今のアイツは……アンタを殺すためなら平気で人質にくらいはしそうな気がする。だからどこか安全な場所へ避難するんだ」

「ちょ、ちょっと待って……」


 ダメだ、考えがまとまらない。ずっしりと重たいものが胸の内にのしかかってきて、息苦しいくらい。もうクーともダレスとも縁を切ったはずなのに、アイツらは私を殺したはずなのに、どうして。

 足元がフラフラとしてくるような感覚。けれど、肩を優しく叩かれて顔を上げると、エリーが心配そうに見つめていた。


「とりあえずお店に戻りましょ。そこで一旦落ち着いた方がいいッス」

「……そうね、その方が良さそうだわ」


 エリーの言うとおり、一度落ち着くための時間が欲しい。

 そう思ってジャンナを含め、みんなで店の方へ歩き始めたんだけど、なんだか前の方が騒がしい。


「何か賑やかッスね……?」

「まさかクーの奴が……!?」


 ジャンナの話だと、正気を失ってるっぽいし、街中で何かやらかした可能性は否定できない。

 身構えていると、あちこちから金切り声が響いて、そして誰もが一目散にこちらへと向かって走り出した。


「な、なんスか? なんスか!?」

「何が起こってるんだい!?」


 明らかな異常。これはただ事じゃないわね。もう、頭を落ち着かせたいってぇのに!

 人の流れと逆行して、喧騒の中心へ向かって私たちも走り出す。

 そしてそこにいたのはクーザリアス――ではなくて、モンスターの群れだった。




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