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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第3部 迷宮管理

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3-13 王国議会Ⅱ




「ミレイユ・アークフィルツ……いや、失礼、すでに家名は捨てたのだったかな? いやはや、侯爵の心中お察しする――おっと、話が逸れたな」


 アークフィルツ侯爵閣下をわざわざ当てこすってみせる。侯爵からはジロリとにらまれるけど、伯爵はわざとらしそうに肩をすくめてみせただけ。余計な話は良いから、さっさと進めなさいよ。


「コホン、聞けば異変が起きているとかいう迷宮から脱出の際に、そこのミレイユ嬢が迷宮内に新たな道を作ったというじゃないか」

「……ええ、そうですが、それが何か?」

「いやなに、迷宮の異変をフェイタリス(なにがし)のせいにしていたが、実は――異変を引き起こしたのがミレイユ嬢である可能性はないのかな、と思ってな」

「なっ……!」


 あまりの暴論に、私もハーマンも思わず絶句した。けど、そんな私たちなんてお構い無しに他の貴族たちも追従して声を上げていく。


「ほう! それは私も耳にしましたぞ! 迷宮の壁に触れると形が変わるのだとか!」

「貴族でありながら魔法の才も無いと評判ですからな。怪しげな術に手を出しても不思議ではありませんのう」

「はっはっは! 身内が異変の黒幕とは、口が裂けても言えんでしょうからな!」


 会議場が大きな笑いに包まれる。嘲りが浴びせられ、ハーマンが大声で反論するけどもはや誰も聞いちゃいない。

 まったく、どこから情報が漏れたのやら。たぶんフェイタリス・コードの連中でしょうね。こうして迷宮の異変を私たちに押し付けることで貴族連中も議論を有耶無耶にできて、フェイタリス・コードも追求を免れる。まさにWin-Winってやつかしら。

 けど――もうそれはどうだっていいわ。静かに立ち上がる。そして聞えよがしに大きく拍手をして差し上げた。

 私のその仕草に、連中の笑い声が次第に小さくなっていく。やがて私の拍手だけが会議場へと響いていった。


「……ミレイユ嬢。いったい何の真似だね?」

「いえいえ、皆様方が織りなす茶番の素晴らしさに感動して、思わず拍手が出てしまっただけでございます」


 たおやかに微笑んでそう皮肉ってやると、ホフマン伯爵の顔色が変わった。


「貴様、不敬だぞ!」

「そうだ! 君はすでに貴族ではないのだ! まして王の御前で勝手に頭を上げるなど、敬意を欠くにも程がある!!」

「申し訳ありませんわ。皆様に示す敬意など、婚約破棄された際にぜーんぶ置いてきてしまいましたので」


 忘れちゃいないわよ。私が顔に傷を負い腕を無くした時、アンタらみんな私を嘲笑してたのを。誰一人心配もせずにね。

 そうでなくても、もう私の価値観はこの世界とかけ離れてしまっている。この世界の平民ならお貴族様が相手ってだけで逆らおうって気もなくなるんだろうけど、何もしない、ただ人を嘲笑うしか能が無い奴に敬意を払う気なんて私にはこれっぽっちも無いの。

 ハーマンの顔を見ながら扉を指差して帰宅を促す。当然ハーマンは戸惑うけど、お構い無しに私は扉に向かって歩き始めた。


「待ちたまえ! どこへ行く!?」

「どこって、帰るんですわ。これ以上お話したところで無駄なようですので。しかしハーマンも大変ですわね。このような身分だけ立派で、頭が空っぽの連中の相手をしないといけないなんて」

「ミレイユ嬢! 侯爵の元娘だからと大目に見てきたが言葉が過ぎるぞ!!」

「あら失礼。ついつい本当の事を言ってしまいましたわ。ごめんあそばせ」


 敬意には敬意を、悪意には悪意を。命がけでこっちが情報持ってきたってのに、散々に言ってくれたからね。これくらい言わせてもらってもバチは当たんないわ。


「待て」


 扉に向かって歩き始めると、不意に呼び止められた。父の、アークフィルツ侯爵閣下の声だ。久々に聞いたその声に思わず足が止まった。


(参ったわね……)


 この場で親子の会話なんて起こりうるはずがないのに、心を揺さぶられてる私がいる。それでも息を吸ってその感情を振り払い、お淑やかな笑みを貼り付け振り返った。


「なんでございましょう、侯爵閣下」

「我らに対する不敬には目を瞑ろう。しかし伯爵が述べたとおり、迷宮を封鎖すれば無視できない経済的損失が生じる。それは王国として到底容認できない」

「それはこちらも理解しておりますわ。ですがこの会はその結論ありきなのでしょう?」

「そのようなことはない」

「ですが実際にそうなっておりますわ。ともあれ、権力はそちらの方が強いのですから、こうしてわざわざ私たちを呼びつけず自由になさってください。そうすればお互い無駄な時間を過ごさずに済むでしょう?」

「探索者ギルドの要求でこの場は開かれたと聞いているが?」

「私たちは陛下へ意見具申を申し入れました。それが何故かこのような晒し者にされておりますが」


 私の言葉に閣下がジロリとにらむと、伯爵と取り巻きたちが慌てて目を逸らした。

 陛下は眉間にしわを寄せて目をつむり、ジッと耳を傾けてらっしゃる。この騒動をどう感じられてるのかしらね。


「……ともかくも、私たちを侮辱して建設的な議論をするつもりがないのであれば、どうぞご自由に。その結果、探索者の多くが死に、そう遠くない未来に探索者も、そして彼らを相手にする職人も商人も離れていなくなるでしょうけど」


 近視眼的な利益だけいくらでも追求してれば良いわ。私もこれで相当にらまれるでしょうけど、いざとなったら他国に逃げましょうか。フェイタリス・コードの連中も王都の迷宮だけで活動してるわけじゃないでしょうしね。

 ハーマンをもう一度促して退室しようと扉へ進む。

 けれど、門兵たちが槍を交差させて私たちの行く手を阻んだ。


「勝手な退室は許されていない」

「……だそうですので閣下、許可を」

「申し訳ないがそれは――」

「できるわけなかろうがっ!!」


 侯爵閣下の言葉を遮って、ホフマン伯爵たちが立ち上がった。


「たかが平民風情が我らを侮辱しおって! 不敬罪でその態度を反省させてやろうぞ! ひっ捕らえろ!!」

「待て、伯爵」

「止めなさるな、侯爵閣下! 不問に処せば我らが軽く見られますぞ!」


 彼に賛同した多くの貴族たちが騒ぎ立てる。侯爵閣下の声もその熱気にかき消されて届かなくなっていく。

 命令された兵士たちが私たちへ近づいていく。そう、なら――仕方ないわね。

 伸ばされた兵士の手を払いのけ、「下がってなさい」と忠告。だけど命令に忠実なのか、なおも私を捕えようとしてくる。

 なのでコンソールを展開し、魔法の氷塊をぶつけて弾き飛ばしていく。そして――


「先に手を出したのは貴方たち。なら――同じことされても文句は言えないわよね」


 指が、走る。魔力が奔流となって私から流れ、魔法陣が膨張していく。


「な、んだと……」


 そうして十数メートルはある議会場の天井まで届く巨大な魔法陣を作り上げた。それをやかましい貴族連中へと傾けると、一斉に慄きのざわめきが広がっていく。


「馬鹿な……アークフィルツ家の次女は、魔法の才も無い凡庸では無かったのか……」

「魔法師団長でもこれほどの魔法は使えぬぞ……!」


 気持ちとしてはコイツらごと議会場を吹き飛ばしてやりたいところだけど、そこまでやるのは本望ではない。面倒だし。なので少しコードを書き換える。

 魔法陣を扉へと向ける。議会場の空気が冷ややかなものに変わり、パキリ、という小さな音をきっかけに氷塊が成長し、やがて数メートルもある巨大なものを作り上げた。

 それを扉へとぶつける。凄まじい衝突音と共に重厚な扉が一瞬で吹き飛ばされ、貫通した壁からは外の新鮮な空気が吹き込んできた。


「さて、ずいぶんと風通しも良くなったことですし――」


 振り返って間抜け面を眺めていく。陛下と侯爵閣下こそ平成さを崩して無かったけど、他の連中はみな大扉を見て呆けてるだけだ。そんな中でクラウス殿下だけが口元に笑みを浮かべてたけど……今さらそんな興味津々な目で見たってこっちは眼中に無いのよ。


「というわけで、今度こそ失礼致しますわ。苦情は当魔道具店でお待ちしております」

「待ってほしい、ミレイユ嬢」


 けれど予想してなかった声が届く。それまで黙って聞いていた陛下が突然口を開かれ、私は驚いて振り向いた。

 陛下は穏やかな顔を浮かべていらしたけど、私と目が合うと柔らかく微笑みグルリと貴族たちを見回した。


「双方の主張は承知した。そのうえで告げる――当分の間、王都の迷宮は立入禁止とする」

「陛下! それでは……!」

「今は陛下が話されておられるのです。誰が遮って良いと申しましたか?」


 それは貴族たちも予想外だったみたい。一斉に陛下へと振り向いて異を唱えようとしたけど、それも王妃様が冷たい視線と言葉でピシャリと黙らせた。

 噂じゃ貴族たちの言いなりだって聞いてたけど、まさか陛下が私たちの主張を認めてくださるなんてね。


「私たちの主張を認めて頂き大変ありがたいのですが……本当によろしいのですか?」

「構わぬよ。探索者たちが生み出す富のおかげで我らは暮らしておる。彼らの命を最優先にするのは当然のことじゃからの」


 そう言いながらも、陛下は少し厳しい面持ちを浮かべて「ただし」と続けた。


「低層部分には未だ異変は見られてないのであろう? その階層までは封鎖しないことを私からは要求したい。もちろん、異変が低階層部分まで及んだ際はそこもただちに封鎖する。これでどうかね?」

「ご決断、恐れ入ります」

「事が事である。解決には王国としても協力は惜しまない。『フェイタリス・コード』と言ったか、かの組織への調査にも。一刻も早い迷宮の復旧に協力するよう魔道具ギルド、商業ギルドにも通達し、問題解決に向けて共に取り組もうではないか。

 ――みなも、良いな?」


 陛下が貴族たちを見回して確認なさると、父であるアークフィルツ侯爵が真っ先に立ち上がって頭を下げた。それを見て、呆気に取られてた他の貴族たちも一斉に頭を下げた。

 ……驚いたわね。陛下がここまで主導的にご決断をなさるなんて。貴族の傀儡だって噂は何だったのかしら。

 私も目を見張りながら様子を眺めていると、陛下が不意に私の方を見て柔らかく微笑んだ。あ、何か嫌な予感……

 果たして陛下は、私の名前を呼んだ。


「さて、ミレイユ嬢――この後、少し時間はあるかね?」







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