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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第3部 迷宮管理

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3-7 最下層




 急に消えた足元に、黒マントを含めた全員が真っ逆さまに落下していく。どこにも捕まる場所はなくって、人類はまだ生身で空を飛べない。このままじゃ間違いなく全員が潰れたヒキガエル間違いなし。


「そうはさせないってのっ!!」


 ライブラリから風魔法を実行。普段扇風機代わりに使ってるそれに、とにかく魔力を注ぎ込んで暴風を巻き起こす。さらにみんなの体の下に次々と氷ブロックを発生させて少しでも落下速度を軽減させていく。


「いたっ!? 痛い、痛いッス! 痛いッスよ!?」

「死にたくなかったら我慢なさいっ!!」


 私だってメッチャ痛いわよ! でも他に思いつかないんだから仕方ないじゃない!

 あちこちから悲鳴が上がる中、果たして私たちはついに地面へと墜落した。


「……みんな生きてる?」

「……ああ、なんとかな。死ぬほど痛いってことは、死んじゃいないらしいぜ」


 メルディアの呼びかけにゼナスが応じると、それを皮切りに続々と生存報告が上がってくる。良かった。とりあえず最悪の事態は免れたみたい。


「生きてるのは何よりッスけど……ここどこスか?」

「分からないな。相当に深くまで落ちたのは間違いないが……」


 残念がら浮遊照明は上の階層に置き去り。辺りは真っ暗で、ハーマンが火炎魔法で照らしてくれてようやく状況が視認できた。

 落ちてきた第五階層と同じ洞窟っぽい外観で、私たちがいるのはそれなりに広い空間みたい。そして何よりも特徴的なのは――


「すごい……!」


 辺り一面が露出した魔力石で輝いていた。炎の光に反射して、まるで星屑の海に浮かんでるみたいな錯覚さえ覚える。

 私含め、誰もが言葉を失ってる中、ハーマンが懐かしそうに目を細めた。


「この鮮やかな景色には見覚えがあるよ。ここはたぶん最下層で、その中でも最深部一歩手前だね」

「そんなとこまで墜ちてきたのかよ、俺たちは」

「だとすると、地上まで戻るのは相当に大変ってことだけど……どうする?」

「幸いこの辺りは、モンスターも出なかったはずだよ。ひとまず休憩がてら――彼らに洗いざらい喋ってもらうことにしよう」


 黒マントたちを見据えたハーマンの視線。そこには普段見せている情けない様子はなくって、組織の長としての冷徹さが垣間見えて、私は思わず息を呑んだのだった。






 ハーマンの方針どおり、レーションをかじりながら私たちは一時の休息を取った。

 私はみんなを魔法で回復させ終わって、ようやくボソボソとしたスティック状のそれを口に含む。モンスターは出ないとはいえ、匂いに釣られて寄ってくるかもしれないからコンロでの料理は見送り。ああ、やっぱりレーションは改良が必要よね。

 普段の食事の偉大さを分からせてくれたレーションを噛み締め、水で流し込んでしばらく。ハーマンが「さて」と立ち上がった。


「そろそろ彼らに話を聞こうとしようか」


 壁際に転がしていた二人の口から猿轡を取り、顎をつかんで強引に振り向かせる。


「最初に……そうだねぇ、君らの所属について教えてもらおうか。組織の名前、本拠地、構成人数とか、ね」


 だけど黒マント二人はそろって目を閉じて何も語ろうとしない。ま、そりゃそうよね。


「喋ってくれた方が、こっちも野蛮な手を使わなくて良いんだけどねぇ」


 そう言いながら頬を叩いていく。二度、三度と繰り返すも、二人は顔色一つ変えない。ハーマンが魔法で作った炎を顔に近づけていっても、相当熱いはずなのに涼しい顔を崩さない。これは、相当見上げた忠誠心だこと。一筋縄じゃいか無さそう。


「参ったな……これ以上の暴力は望んでないんだ。素直にしゃべってくれない?」

「貴様らに話すことなど何一つない」

「強情だねぇ。しかたない、これだけは使いたくは無かったんだけど」


 みんなも黙っていてくれよ。そう言ってハーマンは一度瞑目し、息を大きく吐いて魔法を詠唱した。

 強張った顔のハーマンの前に小さな魔法陣が浮かび上がって、それが黒い雲みたいなものが黒マントたちの頭にまとわりついていく。アレは……精神魔法か。禁忌とされてるアレをハーマンが使えるのも驚き。でも、それだけ本気ってことね。

 けど魔法陣が二人の頭上で回り始めたところで突然弾け飛んだ。


「っ……!? 耐性魔法かぁ……困ったな」


 ハーマンが苦々しく舌打ちした。向こうも今みたいな最悪なパターンも想定して、黒マントたちに予め精神魔法への耐性魔法をかけてたってわけね。

 しっかしA級探索者でもあるハーマンの魔法の弾くなんて、相当な腕ね。イゴールが掛けたのかしら。

 まあいいわ。対抗するわけじゃないけど――こっちも負けてられないわ。


「ハーマン、今の魔法をもう一度展開してみてくれない?」

「いいけど、何か方法でも?」

「それは秘密。だけど、上手くいけば自白させられると思うわ」


 ハーマンは訝しげにしながらも、もう一度精神魔法を展開してくれた。一度目を閉じて浮かび上がった魔法陣に意識を集中させると、彼の魔法構成もプログラムとしてコンソール画面が表示された。うん、エリー以外の魔法でもちゃんと見ることはできるみたい。

 精神干渉式に係数を掛けて、抵抗魔法がある場合のif文を追加。私以外には見えないキーボードを叩いていく。そんな私にみんな首を傾げてたけど、ハーマンだけは気づいたみたい。


「ひょっとして……僕の魔法式をいじってるのかい?」

「そゆこと。ハーマンもみんなも、悪いけど黙っててね?」


 他人の構成式にアクセスするなんて、魔法使いからしたら常識外れもいいとこだしね。私の返事にハーマンは驚愕してる間に修正が完了した。さ、これでたぶん耐性魔法もなんとかなるはず。

 果たして、ハーマンがもう一度黒マントたちの頭上で魔法を発動させると、二人の目から焦点が失われていった。よし、成功したみたい。ほら、ハーマン、いつまでも呆けてないでさっさと進める。


「あ、ああ、そうだね。

 それじゃあ改めて。君らの組織の名前と目的を」

「……我らは『フェイタリス・コード』――秩序を破壊するものだ」


 フェイタリス・コード。名前が明らかになったことで、メルディアが喉を鳴らした。

 朧気だった存在がきちんとした輪郭をまとって緊張感が増した気がする。


「世の中の秩序を破壊する? ずいぶんと抽象的だね。秩序とは何を指しているのかな? その秩序を破壊してどうするんだい?」

「世界は王侯貴族と教会から、身分と迷宮の富の専横によって社会的・経済的・精神的支配を受けている。我らはそれら歪みを破壊し、新たな秩序を作り出そうとしている」


 要は、格差社会に反発するテロ組織って考えればいいのかしら? ずいぶん大きな風呂敷を広げたものね。けど実際にこうやって迷宮内部の構造を変化させてることを考えると、その実力は侮れないか。


「結構な思想の持ち主で何よりだ」ハーマンが皮肉げに笑った。「君らのその組織『フェイタリス・コード』の拠点はどこかな? トップは誰だ?」

「分からない」

「分からない? 自分たちの組織なのに?」

「我らは目的を共有しているが、目的を達成するための拠点や手段は共有していない」

「む……なら君らは誰の指示で動いているんだい?」

「『ドクターズ』の指示で我々は動いている」

 

 ゼナスが「医者気取りかよ」と、忌々しそうに吐き捨てた。

 組織形態としては、たぶん現代の世界であったハッキング集団みたいなものね。たぶん「ドクターズ」っていうのが幹部で、それぞれが独立した組織内組織を構成して、自由にやってるって感じかしら。

 そうなると、こいつらが私たちを尾行してたのは――イゴールの指示ね。

 尋ねると、黒マントたちは首を縦に振った。


「なら教えて。イゴールの目的は何? 迷宮で何をしようとしているの? 彼は『実験』と称して迷宮で何かやってるみたいだけど、今の迷宮の異変も彼が引き起こしたものって理解していいのかしら?」

「我々に『ドクターズ』の方々の思惑は知らされていない」

「推測で構わないわ。貴方の考えるイゴールの目的を教えなさい」

「イゴール様は……」


 強く要求すると、黒マントは一度押し黙った。何かに抗っているように口だけを動かして、私たちは息を飲んで続きを待つ。

 やがて、しばしの沈黙を経た後に黒マントは再度口を開いた。


「イゴール様は貴族たちへ深い恨みをお持ちになっている。貴族が持つ権力を引き剥がす。そのために迷宮を掌握し、貴族へと流れる富を遮断しようとしているものと推測する。最近の実験はそのための一つだ。だが――」

「だが?」

「今回のような迷宮の変化は、我々は関知していない」


 関知、してない……ですって? 私を含め、全員に戦慄が走った。

 ちょっと待って。じゃあ今日ここまで私たちが遭遇した異変は、いったいどこの誰が引き起こしてるってぇのよ。

 この黒マントたちが嘘を言ってる? いえ、精神魔法が効いてる以上、それはない。なら、彼らが間違った情報を真実と思い込んでるか、それとも――本当に別の誰かの仕業か。

 もたらされた情報に困惑が広がって、誰もが押し黙った。

 そんな中、メルディアが不意に何かに気づいて辺りを見回して、ポツリと言った。


「……ねぇ、エリーちゃんはどこに行ったの?」


 ……え?





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