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アドミン魔法使い ~死んだはずの異世界に帰還した元令嬢。現代でプログラマになった私は魔法を修正して人生をやり直します~  作者: しんとうさとる
第2部 新生活と迷宮

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2-3 フードの男




 フリオが去って、店にはまたのーんびりした時間が訪れた。

 場所が場所だけにこの店自体を訪れる客なんてほとんどいない。せいぜい近所の人たちが暇つぶしに冷やかしにくるだけ。ま、それはそれで重要なことではあるけどね。

 なので店番はエリーに任せつつ、私は半地下の工房へ。さっきフリオと結んだ護身用魔道具の構想をノートに書き殴って具体化させてみると、少しだけ形になってきた。


「ちょっと試してみようかしら……ってあれ?」


 試作用の素材をいつも置いてる場所に手を伸ばすけれど、触れるのは散らかった魔法書ばかり。あら、切らしちゃったかしら。

 店の方にまだ残ってたかな、と階段を昇っていく。すると出かける準備をしていたユフィと遭遇した。あら、どこにおでかけ?


「先ほど頂いた魔道具の装飾アイデアを考えたいと思いまして。少し練習用の素材を買いに行こうとしてました。あ、もちろん頂いてるお給料から出しますから!」

「別に自腹切らなくていいわよ」


 仕事に必要なものを自腹で買わせるほどブラックじゃないつもりよ。開発に必要な経費は、その分売価に転嫁すればいいんだから。そう伝えるとユフィがキョトンとした顔をした。


「よろしいのですか?」

「もちろんよ。あ、なら私も一緒に行っていいかしら。ちょうど私も端材を知り合いの工房に貰いに行こうと思ってたのよ。ついでにお昼ごはんも買って帰りましょう」

「お? 二人ともご飯買いに行くんスか?」店からエリーの声が聞こえた。「ンなら私の分もよろしくッス。思いっきり肉系が食べたいッスね」

「はいはい。なら引き続き店番をよろしくね」


 ひらひら手を振って、私たちは市場の方へ向かった。

 私たちの店がある王都の北西部は、いわゆる貧困層が多い地区で、それでもお昼ごろになれば市場も賑わっている。たくさん並んだ露店が美味しそうな匂いが巻き散らかしてるけど、某掃除機並みに抜群の吸引力を持つそれらを振り切ってまずは必要なお買い物。

 行きつけのお店でユフィ用の素材を購入し、その足でコンロの製造・販売を委託してる工房に立ち寄っていくつか使い所のない素材を分けてもらう。結構な量になったそれらを抱えてまた市場へと戻ってきたちょうどそのタイミングで、「ぐぅ」とそろってお腹が鳴った。二人して顔を見合わせて、思わず笑い合う。


「どうせだから食べながら帰りましょうか。ユフィは何を食べたい?」


 何気なく尋ねただけなんだけど、ユフィの顔が困惑に変わった。どうしたの?


「いえ、その……今まで好きに自分で選んで買ったことが無いので」


 そういえば、と私も思い至る。

 ユフィは確かまだ少女の頃に身売り同然で家を出たんだった。そんな経済状況の家庭だったから、たかが日常の食事だって好きな物を買えたことはなかったのは想像に難くないし、侯爵家に仕え始めてからもほぼ毎日使用人用の食事ばかりだったはず。好き嫌いなんて選り好みできたはずもない。

 そんな彼女に急に好きな物を選べって言われても、よく分かんないわよね。

 なら。私はユフィの手を強引に引っ張った。


「あ、お、お嬢様?」

「おじさーん! この串二本ちょうだい!」


 美味しそうな匂いを醸し出していた露店のおじさんに声を掛けると、威勢の良い返事がくる。程なくして「お待ち!」と焼き立ての串焼きをもらって、それを一本ユフィに渡した。


「ほら、早く食べましょ?」


 もう侯爵家の人間でもないんだからと、現代日本でそうしていたように歩きながら頬張ると口の中いっぱいにジューシーな味が広がってきた。うん、私のゴーストが囁いてたとおり当たりだわ!

 肉汁の味にとろけてる私を見てか、ユフィも恐る恐る串にかぶりつくと、目を輝かせた。


「美味しい……!」

「でしょ? こういう時は自分の直感を信じて、食べたいって思ったものを選べばいいのよ」


 自分に正直にあればオーケー。それでハズレを引いても、それはそれで笑い話になるんだから深く考える必要はないわ。

 そう言うとユフィが口をモグモグさせながら幸せそうな顔でうなずいた。ん、可愛いわね。

 夢中で頬張ってるユフィを、私も幸せそうに眺めていたんだけど、不意に少し離れたところで馬のいななきが響いた。

 にわかに辺りが騒然とし始める。怒号や悲鳴がそこかしこで聞こえてきて、緩慢だった人の流れが一気にそっちの方へ変わっていく。


「何があったんでしょう……?」

「行ってみましょう」


 串の肉を一気に口に押し込んで、人混みを強引にかき分けていく。なんとか一番前まで辿り着くと、そこには道からはみ出して止まった馬車と、半壊した露店、そして血を流して倒れた子どもがいて、その子に親らしき人が必死に呼びかけていた。


「ちょっと、君。何があったの?」

「ん、ああ。馬車が猛スピードで走っててな。カーブを曲がりきれず馬車道をはみ出して子どもを撥ねたんだ」


 たまたまそばにいた人に尋ねると、そう答えが返ってきた。

 なるほど、そういうことね。私が状況を理解したその時、馬車のドアが空いた。そこから身なりのいい男が降りてくる。格好からしてたぶん貴族ね。親子に近づいていくから子どもの身を案じるのかと思いきや、自分の馬車を確認して肩を震わせた。

 そして。


「貴様! 私の馬車が血で汚れてしまったではないか! どうしてくれる!」

「そんな……! そ、そちらの馬車が道をはみ出したからではないですか……」

「薄汚い平民風情が口答えをするな!」


 あろうことか、親子にがなり立てた。ちょっと、アンタが子どもを撥ねたんでしょ? なのにその言い草はあんまりじゃない? 横暴にも程があるわ。

 周りも親子に同情的な雰囲気は感じるけど、相手が貴族のせいか遠巻きに眺めてるだけで何も言わない。ああ、そういえばそうだったわ。現代日本の生活が長かったせいで忘れてたけど、ここはこういう世界だった。

 王族や貴族が白といえば黒も白となる。たとえどんなに貴族が悪かろうが、圧倒的な立場の差を前にしたら平民は何も言えない世の中だった。昔からその理不尽さには違和感があったけど、それを目の前にすると怒りしか感じないわね。


「ちょっとごめん、ユフィ。荷物持ってて」


 馬車にはねられた子どもも危ない。制止しようとしたユフィを振り切って私は子どものところへ駆け寄った。


「なんだ貴様は! そんなガキなど助ける必要など――」

「ちょっとその臭い口閉じててくれる?」


 吐き捨てて子どもの様子を確認する。良かった、重傷だけどこれなら間に合いそう。表示された回復魔法のコードを少し修正して治療を開始すると、子どもの出血が止まって意識が戻った。もう大丈夫そうね。


「貴様、口の聞き方を知らないようだな……! おい、この女に立場を分からせてやれ!」


だってぇのに、こっちがようやく一息ついたところで、貴族の命令を受けた護衛たちが私と親子を取り囲んできた。まったく。いいわ、付き合ったげようじゃない。

 護衛たちがニヤニヤしながら、つかみあげようと私に腕を伸ばしてきた――んだけど。

 私に届く前に、彼らの腕がまた別の腕に捕まえられた。見上げれば、フードを被った誰かが、私と護衛たちの間に割って入っていた。


「なんだ、貴様は――がっ!?」


 ちゃんと言葉を発する間もなく護衛二人の体がグルンと回転して地面に叩きつけられて動かなくなる。その弾みで助けてくれた人のフードが外れて、その容姿が露わになった。

 私たちを助けてくれたのは、顔の大部分を包帯で覆った黒髪の男性だった。少しくたびれた包帯が風になびいて、男性は何事も無かったかのようにフードを被り直すと貴族の方へと歩き出した。

 クソッタレな貴族はその異様な風貌に圧倒されたみたいで、後ずさっていって馬車にぶつかって尻もちをついた。


「ひぃっ! や、やめろ! それ以上近づくな! わ、私を誰だと思っている!? 私は、私は――」

「ただのクズだろう?」


 フードの彼は低い渋めの声でそう切って捨てた。そして貴族の胸ぐらをつかみあげると拳に強化魔法をまとわせて振り上げたんだけど、その腕を今度は私がつかんで止めた。







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