2-2 魔道具
「わぁ……」
「おおぉぉ……すごいじゃないッスか……!」
エリーと、いつの間にかやってきてたユフィが、袋の中を覗き込んで感嘆の声を漏らした。
袋の中には、金貨がたっぷりと入ってた。良かった、これでまた当分の生活には困らないし、家を買う時に借りたお金もすぐに返済できそう。なにより、研究用の魔法書や魔道具を買い集めることもできるわね。
「おかげさまで今月もたっぷり儲けさせてもらいましたよ」
フリオもホクホク顔でうなずいた。
彼に販売を委託したのは、私が開発した探索者向け便利グッズの数々だ。
照明や食事する時に使うコンロなど、迷宮を探索するうえで必須ともいえるグッズが世の中には多く販売されてる。「グランディス・ソード」時代にはそれらを使用するのはほとんど私だったけど、正直なところずっと不満だった。
コンロは小型とはいえかさばるし、圧縮カバンに入れるにしても魔力を伴ってるから圧縮率は非常に悪い。おまけに数回使ったら魔力切れを起こして単なる荷物になってしまう。
照明具はずっと手に持ってなきゃいけないから急な戦闘時には後手に回ってしまうし、だいたい一回潜る分くらいしか魔力は保たない。いずれも魔力補充はお店に行ってしてもらわないといけないから面倒なのよね。
「魔道具制作者の多くは、ミレイユさんのように迷宮探索に詳しくないですからね。ひと目見た瞬間にこれは売れると思いましたし、これだけ売れるということは多くの探索者が不満に思っていたということでしょう」
なので手始めに、そいつらの欠点を大きく解消した商品を作ったってわけ。
魔道具に施された魔法陣も普通の魔法みたいにコード表示ができたから解析してみると、まぁ無駄の多いこと多いこと。それらを整理して魔力消費を改善させて、さらに私が不満だった点も改善する新しいコードを組み込んだ。
たとえばコンロは、強化魔法や氷魔法の要素を組み込むことで強度を大幅に向上させた。これによってコンロを軽量の素材に変えて折り畳めるコンパクトな作りにできたし、小型魔力石を交換するだけで魔力の補充もできるようにした。
照明具も浮遊魔法を組み込んだことで両手が自由になったし、加えてどちらも魔力石のカートリッジは独自設計。おかげで魔力石の継続的な保守販売による利益も見込めるってわけ。さらに防犯機能もつけてるしね。
「お家でも食事をテーブルの上で温められるから、私もすっごく助かってるんです」
「そうなんです!」フリオが我が意を得たりとばかりに手を叩いた。「評判が探索者だけでなく一般のご家庭にも少しずつ広まってるみたいでして、販売数はずっと右肩上がりなんです! 私も笑いが止まりませんよ。これからもぜひご贔屓にお願いします」
「ウチとしてもぜひフリオとの良好な関係を続けていきたいわ。ところでなんだけど」
「はい」
「他の売上はどうかしら?」
今挙げた商品は、言ってみれば既存品の改良。それはそれで楽しかったのだけど、やっぱり魔道具職人としてはオリジナルの商品も作ってみたいのよ。
てなわけでフリオには私の自信作の販売も委託していた――んだけど。
「どう? 探索者向けほどじゃないにしろ、結構売れたんじゃない?」
「あー……それがですね」
「うん?」
「芳しくない……どころかまったく売れてないです」
私の手から魔道具が滑り落ちて乾いた音を立てた。
そんな馬鹿な……! なんでよッ!? だって――
「夏場の目障りな虫を自動で捕食してくれる『食虫ちゃん』とか、チカン撃退用に大声で叫び続けてくれる『マンドラゴラちゃん』とか、絶対需要あるでしょ!」
「いやぁ、それはそうかもしれませんが……」
「機能はともかく、見た目が気持ち悪いんスよ。裂けた口みたいな、おどろおどろしい花に、この世の終わりを見た人間みたいな顔をした植物の人形とか、キモいを通り過ぎてるんス。逆によくそんなの思いついたなってレベルッスね」
冷静なエリーのコメントに、フリオも遠慮がちながらうなずいた。
そんな……あのデザインが理解らないなんて……!
「あ、でも使ってみると結構便利で私は気に入ってますよ? 生ゴミとかどうしても虫が湧いちゃいますし」
「ユフィ……貴女だけよ、理解ってくれるのは……!」
「気持ち悪い見た目は使ってるうちに慣れますし」
ユフィのコメントに、私は膝から崩れ落ちた。さすがよ、ユフィ。悪気が無いのはその屈託のない笑顔から分かるんだけど、それだけに余計私のハートをえぐってきたわ。
「ご、ゴホン! ま、まぁ世の中のブームは分からないものですし、そのうちミレイユさんのデザインが理解される日もやってきますよ」
「……半端な慰めありがとう」
「それはともかくとしてですね、今日は別のお話もありまして」
フリオが居住まいを正したので、私も気を取り直して椅子に座り直した。
「ご懇意に頂いてる貴族の方との会話中に思いついたのですが、貴族向けの護身用魔道具を開発頂けないかと考えてます」
「護身用魔道具?」
「ええ。貴族の方々はなにかと危険にさらされることがあります。政治的な思惑が絡んだり、あるいは恨みを抱いた人に襲われたりと」
そうね。街と街を移動する時にも野盗に襲われたりする可能性もあるし。そこらは私も身を持って体感しているわ。自然と右手が義手に伸びた。
「ええ。先日も王都の中心街で貴族を狙ったテロ行為がありましたように、ここ最近は特にそういった襲撃事件が増えています。ですので、そういった事件の際に貴族の方でも身を守れるような魔道具があれば売れるのではないかと思いまして。実際にこんなのがあればどうですか、と尋ねてみたところ、感触はかなり良好でした」
「貴族連中が相手なら原価が張っても良さそうだし、利益率も良さそうね」
「はい、安全を確保できるのであれば、十分な対価を払ってくれるでしょうね。ただ、紳士淑女の皆様は見た目も大事にしますので、性能はもちろんのこと、そのうえで小型で目立たず、かつドレスなどに着けても遜色ないデザインにする必要がありますが」
「ならミレイユさんには無理――あだっ!?」
エリーのお尻に氷魔法をぶちこんでやる。余計なことを口走るからよ。ええ、理解ってるわよ、私にデザインのセンスが無いことなんてさ!
床で転げ回ってるエリーを無視して、気を取り直してフリオの提案を考える。
提案自体は悪くない。機能を防御魔法とか単一に絞り込んで、if文で発動の条件を決めれば……うん、小型でもなんとかなりそうね。
「オーケー、引き受けるわ」
「ありがとうございます! では……」
フリオが腰のポーチからペンと紙を取り出すといくつか質問を重ね、私が回答した内容をメモしていく。
「もし上手く話が進んだとして、量産する場合はこれまでの商品と同じように他の工房に製造を委託します?」
「ええ、それで良いわ。だけど、開発元が私だってことは隠しておいてちょうだい」
「別に構いませんが……理由をお聞きしても?」
「貴族に売るんでしょ? アイツらと関わるといろいろと面倒だから」
もう私は侯爵家とは縁を切った身だし、貴族とはできるだけ関わりたくないのよね。痛くもない腹を探られるのも面倒だし、あれこれとちょっかい出されるのもお断り。私はこうしてのーんびり魔法の研究と魔道具の開発ができれば十分なの。
「ミレイユさんほどの腕であれば、大貴族のパトロンを得るのも難しくないと思うんですが……」
「結構よ。お金は十分間に合ってるし。あ、それでユフィ」
「はい、なんでしょう?」
「装飾のデザインは、ユフィにお願いするわ」
私のデザインセンスはお察しのとおりだし、エリーも私の手伝いや開発した魔道具の再現はできるけど、装飾みたいな細かい作業は苦手。対してユフィはこの数ヶ月で魔道具や魔法の知識もだいぶ増えたし、なにより彼女のセンスは抜群。
昔からハンカチの刺繍とかその細やかな装飾の腕は見事なものなのよね。とうてい私には逆立ちしても追いつけないくらい。彼女なら魔道具の機能を損なわず、かつ貴族受けする装飾を考えてくれるはず。
「その、私で良いんですか?」
「ユフィだからこそ頼めるのよ。どう? お願いできるかしら」
「……分かりました! お嬢様のご期待に応えてみせます!」
不安そうな顔をしてたけど、ふん、と握りこぶしを作って快諾してくれた。よし、これで体制はバッチリね。
「では今の話を私の方でまとめておきます。報酬の詳細を含め、後日、正式な契約書を持ってまたお伺いしますね」
「うん、よろしく」
とりあえずの覚書がまとまったところでフリオが立ち上がり、店を出ていく。
と、何かを思い出したのか不意に立ち止まってこちらを振り返った。
「そうそう、これはあくまで噂程度という話なんですが……どうやらミレイユさんの魔道具に、魔道具ギルドが目をつけたかもしれません」
「魔道具ギルド、スか?」
もんどり打ってたエリーがお尻をさすりながら立ち上がる。
魔道具ギルドは、魔道具の製造や販売、職人の育成を管理する組合で、一応ギルド員になれば制作用機器の支援とか、販売委託とかを担ってくれるみたいなんだけど、探索者ギルドと違って魔道具制作にあたって所属義務が無いから私は入ってないのよね。いい噂を聞かないし。
「おっしゃるとおりでして、特に最近は貴族の末弟や彼らと結びつきが強い人間がトップに就任していて横柄に振る舞うことが多いようです。彼らが気に入らなかったり、ギルドに属していない人相手には嫌がらせも行ってるらしくて。実際に彼らに嫌われた工房が潰されたなんて話も一つや二つじゃありません」
「なんスか、それ……とんでもない組織じゃないスか」
「話は分かったわ。そいつらがここにもちょっかい出してくるかもしれないから気をつけろってわけね」
「ええ。他にも、妙な連中が魔道具を買い漁ってるという話がありまして」
「妙な連中? 魔道具ギルドの奴らじゃなくって?」
「彼らが何者かは不明ですが、みなフードを深く被って顔を見せないようにしれるようです。探索者でもなさそうで、その方たちが迷宮探索用の魔道具を買い集めているようです。顔を見られたくない事情は様々ですので、一概に怪しいとも言い切れませんが。彼らがこの店のことも嗅ぎつけてくるかもしれません」
前者はともかく後者は判断が難しいわね。ま、来たら来たで自分の目で判断するしかないか。
「とかくそういった連中は何かとトラブルを招きこむものですので、そちらにも十分ご注意を」
「あら、心配してくれてるの?」
「それはもう。商売人としても個人としてもミレイユさんとは末永くお付き合いを続けていきたいですから」
ではこれで。最後に笑顔で手を振ってからフリオは店を出ていき、私たちもまた彼を笑顔で見送ったのだった。
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