急募:お説教の回避方法
広場に戻ると私のメイドが公開処刑されていた。
んなことある??
どこぞのラノベのタイトルかしら。
まあそれはとうとなんで起こられてるかについてはなんとなく察しが付く。
どれここは私がせっせと解決してしまおうではないか。元凶私だし。
というわけで低身長をうまく利用して人混みを抜け、アクシスの家紋が刺繍されている、リゼを怒っていた衛兵のズボンの裾をつまんだ。
「なにやっているの?」
「っこいつがヴィオラお嬢様を見失っ……ヴィオラお嬢様!?」
全く、驚きはごもっともだけどそんな幽霊を見たみたいな顔をされたらこっちだって悲しきよ。いたずらでもしてやろうかしら。
「私の美少女メイドリゼたんになにをやっているのかと聞いたのよ」
「りぜた……こ、こいつがお嬢様を見失ったため罰を」
「私がメイド如きまともに撒けない主人だと思っているの!?」
「えぇっ!? そ、そういうわけではなく……」
「ないならなによ!」
「えぇ、えぇっと……えっと………………ちょっと待ってください考えるんで!!」
考えるんかい!!
「このアホッ! すいませんお嬢様!! こいつも悪気はないんです!!」
変なことを口走った衛兵くんの頭を一殴りしながら、彼の上司が謝ってきた。
「別にいいのよ。ただ、あなた達がやることは、わたくしのメイドを責めるのではなく、彼女を撒いた私の素早さと技術を褒めることなの! お分かり!?」
「はっ! その御年で大人一人撒くとは素晴らしい判断力と運動能力です!! 感服いたしました!!」
「ふん、分かればいいのよ」
さて、場は収まったが視線が痛いな。顔も割れてしまったし、次来るときは顔を隠さなくては。
にしても、大人一人ねえ。撒いたのがリゼと仮定すると、他にも隠れ護衛さんが居たのかしら。
まったく、過保護で困ったお父様。きっと今頃私が見つかったとの知らせを聞いて踊り狂っているのやも。ああ、想像しただけで面白い。
「帰りましょう。早急に。久しぶりに楽しくて疲れたわ」
「はっ! どうぞこちらに」
先程の先輩衛兵くんに声を掛けると、近くに用意されていた馬車に案内された。
ああ、楽しみで疲れるというこのなんとも言えぬ気分の良い疲労感よ……。地球社会人時代も前世達でもここ最近でも味わえなかった、この、いつもとは違う満足度のある疲労感……!
気分転換で外に出たのは良策だったわね。今から来週の約束が楽しみだわ。
……向こうが来てくれるかわからないけれど。
◇◇◇◇◇
馬車で移動すること数十分。我が家に到着した。
さあ親が怖いぞと思いながらも、意気揚々と扉を開けた。
「ただいー……」
「ヴィオラお嬢様。ご当主様がお呼びです。お帰りなさいませ」
「あ、ウン……」
あれかな、お父様に「何よりも先に……挨拶よりも先に、とりあえず私がヴィオラを読んでいたことを伝えろ」とでも言われたのかな。そうじゃなきゃありえませんものね。私の言葉を遮るのだなんて。
ていうかまじもんの"帰って2秒で呼び出し"じゃないですか。いやだ何このリアリティホラー。
「着替えたら行くとお父様に伝えて」
「かしこまりました。……その、なるべく、早めにお願い致します……」
執事さんが顔をキュッ……とさせながら私に懇願してきた。
「あ、うん……なんかごめん」
ほぼ条件反射で言葉が出た。
◆◇◇◇◇
さて、服を破る勢いで着替えて、廊下ダッシュなんてお母様に見られたら発狂されそうなものをしつつ、計15分かけてやって来た執務室前。
平民に紛れるための簡素な服だったから着替えはすぐ終わったのだけれども、私の部屋から執務室までが遠かった。それなのに歩いていこうとするリゼを振り払って、階段を飛び降りながら来てやった。リゼは叫んでた。その叫び声に釣られて何人かが近づいてくる気配がした。私は見てみぬフリをした。
じゃあねリゼ……私の代わりに事情聴取と説教を存分に受けてくれ給え……。君の犠牲は……うん、今日いっぱいは忘れないよう努力するよ……。
さて、そんなわけで一人でやってきたはいいのだが、ここで難題。
ドアノブに手が届かない。
バリアフリーってご存じないのかしら。しかも、ここ珍しくホワイト貴族一家の癖して、そのくせしてバリアフリーないんですか。ありえなさすぎる、クソじゃねえか。
いやまあバリアフリーの概念自体この世界にないんだけど。
背伸びをしてぎり届く位置。にしてもありえない。いくら子供とは言え、地球人時代、七歳ともなれば家中のドアは、すべて難なく開けられていた。一体なぜ……。
そこでぴーんと、気付いた。このドアノブ……異常に高い位置にあるのだ。ドアを設計する時、高身長のお父様とお母様を基準に作ったのだろうか。いや、にしたって高すぎるだろう。
執務室は仕事の場、もしかすると意図的に子供一人では開けられない高さにドアノブを設置したのやも。
はあ、にしても困ったなあ、このままじゃ執務室に入れそうにない。しゃうがないなあ、全くもう、うふふ、しょうがないしょうがない、ここは一旦出直して――
「ヴィオラお嬢様、お待ちしておりました。ドアをノックしていただければよかったものを」
くるりと、ちょうど方向転換の準備をしようとしていたところで、先程の執事が扉を開けた。
私は舌打ちした。
「お嬢様!?」
大丈夫、お父様にか聞かれない。多分。
「ヴィオラ、こちらへ」
部屋の奥の机に手を置き、開いたドアから爽やかな風を受けるお父様を見て、私は一つ思った。
この人ほんとにアラサーなのかなあ……。