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我人間也、汝亦人間也

 倒れてから三日が過ぎた。

 起きて直ぐに目に入ったのは家族の顔で、理由を説明する時は「記憶が曖昧で〜」で全部濁した。

 倒れる前に言っておいた「りんごを剥くため」で解釈したのか、それ以上聞いてくることはなかった。


 そして本日は何をするかといえば、特になにもないのである。

 医者から療養を言い渡されはしたが、もうほぼ完治している。

 授業も免除されたし何かやらなければいけないことがあるわけでもない。暇である。


「ひまー、暇……っていったらなんかやらされそうじゃないから暇じゃない、暇じゃな……あ、そうだ。街に行こう!」


 ベッドの上でゴロゴロしていたところを起き上がり、鈴をチリンと鳴らした。


 なぜ急に街かといえば、視察もどきに行きたくなったからである。

 嘘である。

 とにかく暇だから取り敢えず行きたくなっただけだ。視察だの今の社会的状況うんぬんに全くもって興味はない。



 ◇◇◇◇◇



 そしてあれやこれやと準備をされていざ街である。


「人混みだなあ。愚民がいっぱいだ」


「お嬢様、思っても言わない方が良いことも世の中にはあります」


 お付きとしてついてきたメイドのリゼにそう言われ「はーい」と返事し口を閉じた。私のそばにいるのはリゼだけであるが、おそらくどっかに護衛が潜んでいることだろう。

 お父様にリゼと二人だけで行って良いか聞いたときにあまりにも許諾の返事が早すぎた。怪我したばかりの愛娘をメイド二人だけで町に行かせることはないだろうし、まあいるだろう。

 あ、時計おっきい。


「お嬢様、どこか行きたいところはありますか?」


「ないわ」


「ないのですか……?」


「ドレスはいらない。靴も今あるので十分。ご飯は食べたばかり。本を選ぶ気分じゃない。何か遊びたいわけじゃない。そんなとこで、ただ部屋に居たら暇死しそうだったから取り敢えず街に出ただけよ」


「それは……ご贅沢な悩みでございますね……?」


 ところで、本当にすることがないのだ。別にやりたいことも目的もないし。


「というわけで自由行動ねっ。またあとで〜!」


「お嬢様!?」


 人混みの中に紛れ込み、侍女を撒いた。

 ごめんねリゼ。可愛い私に免じて許して。


 ◇◇◇◇◇



 〜30分後〜


 迷った。


 目印は覚えてるがその目印が人混み&低身長の迷子必須タッグで見えない。どの方向から来たかももう分からん。完全なる迷子です。

 この少女体型低身長で人混みは駄目だったか……。


「まったく。私って方向音痴だったっけ? そういえば方向音痴ってなんで音痴なんだろ。歌うのかな」


 随分呑気だなって?

 そうでもない。これでも内心焦っている。


 まあどうとでもなるかと歩いていると、前方からりんごが転がってきた。あら真っ赤で美味しそうな。


「あ……」


「ん?」


 りんごの持ち主だろうか。眼の前にフードを深く被った私と同じくらいの背丈の子が現れた。


「これ君の?」


「あ……はい。拾ってくださりありがとうございます」


「いえいえ」


 子供の声……男の子だろうか。

 彼にりんごを手渡そうとすると、急に突風が吹いた。

 その時に、その子のフードが外れた。


「あっ……!」


「おや? 君もしかして……イケ」


 すると、急に男の子が走り去っていってしまった。

 えぇ……。

 走って追いかけようとすると、近くに居た人に腕を掴まれた。

 特に悪意は感じられない。が、一体何がと思って振り返ると、無言で首を振られた。なんだろう。


「お嬢ちゃん、追いかけようとしたってことは、白髪赤目の呪いを知らないのかい?」


 言ったのは、私の腕を掴んだ老夫婦のおばあさんの方だった。

 周りの人もなにか奇妙なものを見る目でヒソヒソとしていらっしゃる。なんか感じの悪い空気。


 にしても、白髪赤目の呪いとな。ヲタクに異様に好かれてプライバシーがかすっクソになる呪いのことかしら。多分違うな。


「その顔は知らないって感じだねえ」


「えぇ、普通に知りませんが、そもそも呪いとか信じてないので。何を信じるかは自由ですが、他人を侵害してはいけませんよ。私はこれで」


 強く握られてなかった腕は、走り出すとするりとほどけた。

 そのままさっき男の子が向かった方――裏路地に向かっていき、更に奥に進んだところでようやく見覚えのあるフードが見えた。


「お~い少年! 急に逃げないでよ。ロングスカートを履いた女子を走らせるだなんていい度胸じゃないの」


「君……」


「あ、私? 私はヴィヴィ。一応言っておくと偽名だよ。初対面の人に本名名乗るべからず! んで君は?」


「僕と話さないほうがいい。りんごはそこに置いて、早く戻れ」


「えぇ……」


 こいつ女子恐怖症なのかしら。

 さっきちらっと見えたお顔も美形であったし、モテすぎるが所以のちょっと贅沢な悩みでも抱えていらっしゃるのか。

 まあ何も、本人が私と喋りたくないなら強制することもないだろう。ここは挨拶を一つして素直に帰ろうではないか。

 嫌味を添えて。


「はいはいわかったわかった。全く、顔を見るなりそんな事言うなんて、一体どんだけ私のことが嫌いなのかね。あー悲しいなー!」


 ……これ嫌味かな。

 まあともあれ言ってやると、男の子が驚いた顔をした。なんだろ。特に驚くべきことを言った覚えはないんだけど。


「君……さっき僕の顔見なかったのか?」


「いやまあちらっと見えたが」


「……白髪赤目の呪いを知らないの……?」


 さっきも聞いたなそれ。何だよそれ。私の知らないところで通じ合うなんてひどいじゃない!!

 茶番はいいとして。

 そういや赤目は恐怖云々言われるけど白髪の方は神聖というか美少女の象徴、ってのはよく見るなあ。「+×ー=ー」ってことか?


「知らないなら……いいけど」


「んー? まあつまり自分にコンプレがある感じか。なんか駄目なの白髪赤目? ていうかその呪いって何? ていうか君、さっきちらっと見た感じ赤目って言うより青とか灰色って感じだったと思うんだけど」


「だめっていうか……。僕は親も、親戚にも白髪や赤目はいないんだ。もちろん青も灰色も。でも母上は絶対に不貞をしていない。なのに家系にない色素を持ってるから気味悪がられてるんだよ。僕以外でも、極稀にこういう事が起こるらしい。そういう時、白い髪に薄い目の色、そして写真を撮る時とかに目の色が赤目に変わることから『白髪赤目は魔族の子』って言われるんだよ。有名な話じゃないか」


「……ソウナノ??」


 ……どうしよう。ご存じない。わたくしって実は無知だったの……?

 また教育受け直さないといけな…………あ。


 ふと、神との会話を思い出した。


 《人の名前とかマナーとかの一般教養の記憶は消えない。けど日本人としての君の魂が本格的に表に出た以上、あの世界での常識は忘れていると思う。例えば――嫌悪されてる髪色目色の人がいるとか》


 思い出して、理解した。

 ――アルビノか。


 因みに、白髪赤目とアルビノは別の区分である。

 白髪赤目は創作上で普通にあるやつで、アルビノは色素がない。

 というか、これは私も調べるまで勘違いしていたのだが、どうやら「アルビノ=白髪赤目」ではないらしい。アルビノさんの目は、普段は灰色や淡い青など。写真を撮る時――というかフラッシュをたく時や、光の入り方で血管が透けて赤色に見えるらしい。

 髪色の方も、白に限らず淡い金みたいな人もいるって言うし、いやはやアルビノは奥が深い。

 だから、創作で書かれる赤目とアルビノによる赤目は異なる。

 ……と、私は勝手に思っている。


 親戚の不貞の証まで詳しく調べたわけではないだろうから、実際に彼がどっちかはわからないがまあ聞く限りではアルビノだろう。肌も白いし。家系に居ないってことは突然変異によるものか。

 なかなか見れないものだ。じっくりと見たいものだが美形くんに不審者扱いされるのも悲しいし今日は素直に引くとしよう。


「私は帰るわねー! ちょうど一週間後にまた来るから会えたら会いましょー!! ちょっと現在進行系でやらかしてる最中だからあんまり期待しないでー!!」


「ぁっ……ちょっ」


 手を振りながら路地裏を出て、町中の大きい時計を目印にそこまで走っていった。

 目印になるもの覚えておいてよかった。

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