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復習と痛覚無効テスト

 さて、本日はこの世界についての振り返りをしたいと思う。

 今更ではあるが私も三、四度目で授業をサボったし、今生でも授業を受けないとするならば復習くらいはやっておかなければ。ああ、私ってなんて偉いのかしら。

 ………まあいいとして。


 まずは貴族から。


 この王国ヴェルンハイト王国には、公爵家は我が家門アクシスを含め二つある。

 そのもう一つの公爵家というのがアレクシオ家。

 別に警戒対象というわけではないが、そこの御子息くんが一度婚約者候補に上がったそうだ。御子息くんとは同年代でもあるし、0歳から、なんなら−1歳のときからの付き合いらしい。

 それで驚くべきはびっくりするくらいに会ったことがないということだ。簡易的な茶会の席でも、学園内でも遠目に見たことがあるなあくらい。なぜだか容姿すら思い出せない。

 二度目からは第一王子を警戒しすぎて他に目が行ってなかったのもそうなのだが、にしたって一応幼馴染というのに記憶がなさすぎる。

 まあ未来で特に問題があるわけでもないし、放っておいていいと思う。


 他にも注目するべき貴族はあるが取り敢えず今は良いだろう。



 次に魔法。

  この世界における魔法は、大きく二つに分類される。


  一つは 「固有魔法」

 これは高位貴族が先天性に持って生まれることが多く、侯爵以上の固有魔法所持率は脅威の九十八%以上である。前後数年で公爵家にして固有魔法を所持していないのは私だけであるほどだ。

 また、ごく稀に下位貴族や平民の中にも発現する者がいるが、その能力や魔力量は貴族には劣るという。

 固有魔法は火、水、土、闇、光、のような属性とは違い、例えば「針が指に刺さらない能力」や「相手に幻覚を見せることができる」というちょっと特殊なものだ。


 そしてもう一つの 「生活魔法」

 これは魔力さえ所持していれば誰でも発動できる。つまり固有魔法を持っている者は自ずと使えるのである。

 全国民で生活魔法を扱える者、つまるところ魔力を所持している者は三割程である。

 日常生活の利便性を向上させるための魔法であり、火を灯す、物を浮かせる、衣服を乾かすといった単純なものが多く、村に一人いれば重宝されるそうだ。

 ……まあ、裏でこき使ってる可能性もあるため持っていたら必ず幸せになれるわけでもない。生活魔法の難点は自衛の魔法が使えないということ。気弱で貧弱な人が所持していたら周りから搾り取られるだけだろう。


 固有魔法も生活魔法も、両方魔力を消費することで発動できるものである。因みにこの世界には魔法石のようなものは少なくとも私が知る限りでは存在しておらず、誰でも魔法が使える〜みたいな風潮はない。


 魔族、魔物という概念はあるが只今封印され中で、未来が変わらなければ向こう二十年ほどは安泰。

 ただいつ目覚めるかもわからない状況なのでなんとも言えない次第ではある。


 魔法所持非所持の差別はなし。

 理由は神とやらとの邂逅の時のとおりである。単に滅多に使わないからだ。

 むしろ、魔法所持者はその多様性により犯罪が起きたときなどに真っ先に警戒され容疑者候補となる。私が四回目で小さい事件に巻き込まれたとき、魔力所持者じゃないと伝えたらあっさり開放してくれたことがあった。まああの時は私も遠いところにいただけであったし、半聞き込みみたいなものだったからでもあるのだろう。


 それと……学園について。

 この世界の学園は貴族は義務で十六歳から十八歳まで三年間通う。平民は固有魔法所持を最低条件とし、そこから性格や成績や今後の期待など総合的な判断をし許可された場合のみ通うことができる。

 寮がないため、辺境の貴族などは学園の近くに居住を構える貴族の家へ三年間お世話になることが多いらしい。そこで恋愛に進展したなんて話も聞くから、なんだかんだロマンチストなものだ。

 高校というより大学に制度が近いが、其れよりも自由度は高い。

 テストの日にだけ出席し、普段授業に出ない貴族もいるそう。ただ学園は別名「小さな社交界」と呼ばれており、ほとんどの人は自分が受け持つ授業がなかろうと登校している。


 一通りを日本語でメモると、前に買ってもらっておいた鍵付きのメモ帳にロックをした。

 このメモ帳は魔力と鍵、どちらでもロックできるもので、貴族でも「げっ」となるような値段がする。別に払えないわけではない。ただ単に「たかが日記帳やらメモ帳やらにこんな値段支払うの……?」みたいな感覚である。別に貴族感覚で高いというわけではないので、マニアやセキュリティを重視する人は迷いなく買うだろう。

 では大まかな復習も終わったことだし、最後に私の固有魔法の効果と限界値でも見てみるとしよう。


 椅子から立ち上がり、あらかじめ用意しておいた縄やナイフ、そして火と冷水。

 手始めに縄を手に取り天井の穴の部分に縄を通した。天井には正方形数センチ分凹んである、梁のような部分に、椅子で上がって縄を引っ掛けた。

 この梁はゼフィが壺を壊した際、なにか欲しいものがあるかと聞かれた時に作ってもらったものだ。理由は適当に何かをぶら下げて見つめたいと誤魔化しておいた。


 縄を引っ張り強度を確認した後、ぶら下がってみた。

 締まっていうと言う感覚はする。息もできていないだろう。なのに苦しいとか痛いという感じはないし、なんなら精神的な不安なども湧いてこない。

 しばらくぶら下がり、三分が計れる砂時計を確認するともうそろそろで半分砂が落ちる、というところで縄がぶちっと切れた。

 これがおそらくあの神が言っていた「故意に自殺を図った場合に起こる補正」なのだろう。今天界だかどっかで「マジでやってるじゃん……」と呆れてるのが目に見える。

 とりあえず縄は持ってきた火で燃やした。椅子も元に戻し、証拠隠滅完了。

 ……と、思われたのだが首に縄の跡残っていた。幸い冷水で冷やすと段々と色は引いていった。子供の体重故にあまり重さがかからなかったのが幸いしたのだろう。それか神とやらが補正でも入れてくれてるのか、数分冷やしただけで完全に跡は消えた。

 不思議なものだ。


 次にナイフ。下に元の世界でいう下敷きなようなものを敷き、傍に温水で濡らした雑巾を置いて橈骨(とうこつ)動脈にナイフを刺した。前世でここなら血が吹き出さないとかってのをなにかで見た。

 刺してみたがやはり痛みは感じない。ただ血が流れてるなあという漠然とした生暖かさは感じる。数秒放っておくと、急に開けておいた窓からりんごが入ってきた。そして大理石の上にきれいに着地した。

 ……何事?

 次の瞬間、ドアをノックする音が聞こえ、返事をするまもなくドアが開けられた。


「ねえさーまー!あっそぼ……どうしたの、それ?」


 入ってきたのはゼフィロス。まあこの屋敷の使用人も両親も、返事を聞く前にドアを開けるような人ではないのでなんとなく察してはいた。

 ゼフィは私の手首にナイフが刺さっているのを見ると、急に部屋を飛び出していった。と思えばものの数秒で戻りてきて、風魔法で連れてきたのであろう専属医が宙に浮いていた。


「ほら! ねえさん! 怪我してる、治して!」


「ゼフィロス様! 先に私の足を地につけていただく……ギャアアアヴィオラ様は何をしているんですかあああああ!?」


 私を見た途端急に専属医が目の色を変えたのでつい鼻で笑ってしまった。よし、では誤魔化すとしよう。


「何って、見て分からない? りんごを剥いているのよ」


「なぜご自分で!? しかも思いっきり刺さっていらっしゃいますよねそれ!!?」


「いや、なんかちょうどナイフとりんごを洗うための水があったものだからつい……挑戦してみたくなっちゃって」


「あわわわわ、取り敢えず止血を……」


 多分この万有引力を無視し私の部屋にやってきたりんごくんは神がこう誤魔化すために持ってきてくれたものだろう。これはいいな。現行犯でなければ絶対にバレない。

 だがまあこの神の手助けも上限があるだろうし、いつか会えたら聞いておこう。


「ヴィー!」


 ゼフィが両親に伝えたのか、母親がどどーんとやってきた。後ろで父親が「待って……クレア、早い……」と情けない声を出しながら向かってくるのが聞こえる。うちの父親、こういうところなんだよな……魔法を極めたがゆえに体力カス。


「ヴィー、大丈夫? 大丈夫なの?」


「大丈夫です。多分」


「普通なら今頃大量失血で気絶してるくらいには大丈夫じゃありませんよ!?」


 私の横で止血をしていた医者からツッコミが入った。大量失血。未来では出血性ショックと呼ばれているものだろう。確かそのショック、気持ちの問題じゃなかった気が……何だっけかな、調べたことないからわかんないや。


「ヴィーは、ヴィーは助かるんですか……?」


「ねえさま死ぬ……?」


「命に別状はないのでそこは安心してください! 絶対大丈夫です!!」


「よかったぁぁ」


「うっ……うわああぁぁぁん」


 私の横でへなへなと座り込むお母様と、私の足元でぐずりだしたゼフィ。よほど心配してくれたのだろう。いい人たちだよ本当に。


「ヴィオ、ラ……無、事か……」


 めちゃくちゃ息切れしながらドアの前に立っているお父様。格好つかないなあ、我が父親ながら。


「大丈夫ですよ。…………多分今アドレナリン放出しすぎて痛みを感じてませんが大丈夫ですよ」


 別に固有魔法があることを隠したい訳では無いが、言っても面倒くさいだろうなとそう応えると、全員が首を傾げた。


「あどれなりん」


「なんだそれは……?」


 医者と父に言われはっとした。

 アドレナリンという概念、この時代にまだないな。ああそうだ、ここは気絶で誤魔化そう。

 目を閉じ体を重力に任せると、すぐに本当の眠気がやってきた。脳内ではともかく、体がこれだけ負荷をかけられたのだからこの眠気にも納得がいく。

 その考えが最後に浮かび、私は眠りについた。

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