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言いたいことは簡潔に

「お母様、お父様。わたくし、第二王子との婚約を解消させていただきたく存じますわ」


「え」


「は」


 翌日、とりあえず第二王子との関係を切らないことには始まらないということで両親に昼食の途中で直談判している。婚約解消したって王家とのつながりが完全に切れる訳では無いが、まあ関わりがより減るならそれに越したことはない。

 因みに、昨日風呂で溺死を試みた。あれ、そろそろやばくないか、と、意識飛びそうな時に侍女がやってきて失敗に終わった。あれが補正なのか……。本当に死なないのなら安心安全に自殺ができる、素晴らしいことだ!

 ……安心安全な自殺って、なんだろう。

 まあおいておいて、そんなことより、お嬢様口調とはこれでいいのだろうか。とりあえず語尾に「ですわ」とか「かしら」とかつけとけばそれっぽくなるよね、多分。そうであってくれなきゃ困る。

 言い忘れていたが、弟は日中遊んでいたようで寝ているため今は居ない。


「きゅ、急にどうした?」


「そうよ、ヴィー。一体どうしちゃったの? 貴女だって婚約に前向きだったじゃない」


 両親に焦るように言われしばし考えた。婚約を結んだ当時の五歳の私がなんて言ったかはしらないが、多分それ前向きってよりどうでもいいとか、まあ政略結婚の相手としてはまともな部類の人だな、って言う感じの前向きなんだろうな……。良くも悪くもクズばっかだからな貴族って。

 その点第二王子は無表情気味ではあったものの性根は崇高で、人間として本当にいい人だった。

 どこぞの第一王子とは違って。

 因みに「ヴィー」というのは私の愛称です。ヴィオラのヴィから取られてます。


「当時、わたくしが婚約に前向きだったかはさておいて」


「さておくの!?」


「少なくとも今は生涯独身を貫き通したいと思っておりまして」


「生涯」


「独身」


 両親がぱちくりと顔を見合わせ、次の瞬間に屋敷に大絶叫が轟いた。まあ、貴族のご令嬢が独身宣言、しかも七歳でなんて驚くよね、しょうがないしょうがない。


 

◇◇◇◇◇



「本当にどうしちゃったんだ? 大丈夫か? お父様の名前言える??」


「ノア・アクシス」


「お母様の名前は?」


「クレア・アクシス」


「記憶喪失等ではなさそうだな……」


「一体どうしちゃったのかしら……」


「どうもこうも結婚したくないだけですわ」


 今の今まででなんとなく察しただろうが、私の両親は私……というより、ヴィオラ・アクシスに結構甘く優しい。親としても貴族としてもかなりの当たり枠である。

 因みに、私が断罪されるときは私と弟が学園に入学したことにより一安心して、地方へとバカンスに行っていた。まあつまるところ王都にある学園の様子がそこまで届いていなかったのだ。今生までは迷惑かけるまいと頼らなかったが、今回は旅行に行く際は止めたほうがいいかもしれないなこれは。


「とりあえず本日第二王子殿下に初めてお会いするのだから、会ってからでも遅くはないわよ、ね?」


「そうだぞ。ほら、第二王子殿下は…………イケメンだぞ?」


 第二王子。性根はいいし上面もいいが、笑顔が表面上すぎるため性格が優しいとも言えず、かといってこの人生五周目の私より頭がいいわけでもなく、色々考えた結果顔のことしか褒められなかったのだろう。

 あぁ哀れな第二王子殿下……。私が優秀すぎるせいで顔しか褒められないだなんて。そう、私が優秀すぎるせいで。……ポジティブ思考は取り敢えず向こうにおいておこう。別に会いたくはないがここは飲み込むか。


「わかりましたわ。では、第二王子殿下とお話した後に再度わたくしの意見をお伝えします」


 笑みを浮かべて言うと両親がほっと息をついた。


「ヴィー、私達もね、貴女に無理に結婚してほしいとは思ってないの。でもやっぱり独身では大変なことも多いし、できれば結婚してほしいというだけなの」


 後ろで父親……お父様も頷いている。本当に優しい両親だ。

 独身の大変さは四回目に家出をした時にこれでもかと言うほど経験した。女性の扱いについて、差別とまではいかなくとも不遇はある。日本のあの感覚に慣れてる私にとって、女というだけで生活に支障をきたされるのは初であり下調べはしたものの色々困惑したものだ。なのでやはりこれは最終手段。……衛生面も気になるし。


「そろそろ第二王子殿下が到着される頃ね。貴女も着替えていらしゃい。今回は親は同席しないから、子ども同士、したい話を気軽にするといいわ」


「わかりましたわ、お母様。ではわたくしはこれにて失礼いたしますわ」


 カーテシをしてダイニングルームを後にした。

 さて、いかがなさろうか。


 ◆◇◇◇◇



「お似合いですよ、お嬢様」


「いっそお似合いになられない服を着ていきたいくらいよ」


 侍女のリゼにこれでもかというほどきれいに仕上げられた。とはいっても凝られたのは服や装飾品のみ。化粧に関しては、前世でだいっきらいだったため「それ顔に塗るくらいなら傷つけたほうがマシよ」と言ったら引き下がった。弁解しておくと、化粧は厚塗りが嫌いというだけで化粧水など、水っぽいものは平気だ。リップは……そこまで正直好きではないが、数時間程度なら我慢できる。


「せっかくの第二王子との初対面なのです。イケメンだという噂もよく耳にしますのに、お嬢様は気にならないんですか?」


「……? それ、第二王子殿下がイケメンと言うけれど私よりイケメンなの?」


「……愚問でございました。お忘れください」


 ナルシスト? なんとでもいえ。こんな中性的ながらも可愛らしい顔だ。高身長ならイケメンだ絶対に。前世を思い出し、ヴィオラ・アクシスを客観的に見れるようになった私が断言する。この国で私より可愛くイケメンな者はいない。

 まあ他国のお貴族様はそんなに見たことないので知らないが。


「お茶もお菓子も控えめでいいわ。一杯飲んだら切り上げるから」


「承知いたしました」


 さて、向かいましょうか。



 ◆◇◇◇◇



「お初にお目にかかります。アクシス公爵家の長女、ヴィオラ・アクシスと申します」


「こちらこそ。私は第二王子、アレクシス・ヴァルシェイドです。本日はお相手いただき、感謝申し上げます」


「恐れ入ります。どうぞよろしくお願いいたしますわ」


 挨拶を交わしたあと、私と第二王子は向かい合うように席についた。

 三度目ともなるとさすがにこの流れにも慣れが生じる。最初の頃は何を話せばいいのかと少し戸惑ったが今ではすっかり儀礼的な会話もこなせるようになった。きっと転生前の記憶を思い出したことも少なからず影響しているのだろう。


「そのドレス、とてもお似合いですね」


 王子は微笑みながらそう言った。緑色の瞳は穏やかであるが、七歳にしてはあまりキラキラしていない目である。

 まったく、社交辞令なのか本心なのか……。まあ本心でしょうね。だってヴィオラはとても美しいから、大抵の服は似合ってしまうもの。


「あらまあ、ありがとうございます。そちらも素敵ですよ」


「はは、お褒めいただき光栄です」


「ふふ、事実を言ったまでですわ」


 毎度毎度、合うたびにこの調子でお互いを軽く持ち上げるだけの会話を繰り返している。そろそろ本題に入りたいところだが、どのタイミングで切り出すべきか……。

 にしても、私はともかく、この王子は何なんだろうか。七歳にしてこの落ち着きと品のある言葉遣い、完璧な礼節。さすが王族と言うべきか、とんでもなく素晴らしい顔面とビジュアルまで持ち合わせている。まあヴィオラには敵わないが。まあとにかく、まったくもって隙がないのだ。

 本当、第一王子とは何もかも真逆だ。

 第一王子は金髪に赤眼。髪は短くさっぱりと切りそろえられ、少し癖っ毛気味で年中はねている。そして言葉遣いは常に砕けている。良く言えば快活、悪く言えば王族らしさ皆無。ただ妙なところで出してくる威圧感は王族のそれである。

 対して第二王子は髪は金髪翠眼で少し長めでさらさら。言葉遣いは貴族相手には敬語、平民にはため口。常に冷たい雰囲気をまとっているが暴君という類のものではない。

 二人のまともな共通点なんて金髪くらいである。あんなやつの弟でなければ喜んで婚約なり結婚なりしたというのに。

 ……いややっぱ私は結婚という行為自体に幻想抱けない人だから別に喜びはしないな。


 さて、社交辞令を言い合うのもなかなか新鮮で楽しいが、早々に本題に入って済ませるか。


「ところで、第二王子殿下」


「何でしょう?」


「この婚約を解消するのって、今からでも間に合いますの?」


 王子の瞳がぱちりと瞬いた。そして、たっぷり時間を開けてから返ってきたのは、たった一言。


「……………………は?」


 思わず吹き出してしまい、慌てて口元を隠す。


「失礼」


「いえ、あ、いや、こちらこそ……」


 化けの皮が剥がれる瞬間というのは、善人でも悪人でも面白いものだ。


「……僕がなにか粗相をしてしまいましたか?」


「いえ、まったく。その年でそれだけの言葉遣い、相手を蔑ろにせず、かといって王族であることを表明した立ち振る舞い、姿勢、言葉選び、表情。少し話しただけですが、あなたがいかように素晴らしい人物かわかりました」


 そう言うと、余計に困惑したような表情を見せた。

 まあ当然の反応であろう。もし私が逆の立場であったら「じゃあなんで婚約解消したいんだよ」ともっとわかりやすく態度に出すであろう。

 やがて、少しお出かけしていた魂が戻ってきたのか、はっとしながら言葉を探す素振りを見せた。


「……え、ああ、ええ、はい、えぇ……ありがとうございます……? …………ではなぜ婚約解消など?」


「生涯独身生活を満喫したいと考えておりますゆえ」


「独身!? ……ああいや失礼。いや、何がどうなったらそういう考えに……いや…………素敵な思想ですね……?」


「無理に肯定しなくてもよろしいと思われますわ、第二王子殿下」


「それも、そうですね……。それで、なぜ独身など?」


「まあ、だって想像してみてくださいよ。自分しかいない広い屋敷。誰にも目をつけられ縛られることもなく、好きな時に好きなことをし、たまにちょっと贅沢をする。素敵だと思いませんこと?」


「……いや、私にはちょっと理解の及ばぬ範疇のようです」


「年相応の素直さでよろしいですわ」


 王子は困惑しつつも微笑みを絶やさない。だが、その笑顔がふと翳った。わざとらしく。

 もう一度言おう。わざとらしく。

 何を言い出すかと思えば、手で口を覆い、目を伏せ、儚そうな雰囲気を出した。


「でも、僕が独身を貫いたら、父上や母上、国民が……困りませんね。兄上がいますから」


 急にスンッと真顔になる第二王子。さっきまでの儚い雰囲気はどこへやら……。


「まあ……そうですね」


 否定する内容でもないので取り敢えず肯定をする。心のなかで「あの第一王子に王が務まるとは思えないが」と付け加えておいた。

 第二王子が私以外の令嬢と結婚し王につく……というのが理想ではあるが、まあ難しいだろう。

 第一王子の外面さえ良くなければな……。そうすれば断罪が楽なのに。


「て、第二王子殿下まで独身を貫く必要はないのです。私と婚約解消をしていただきたいだけで、その後は違うご令嬢と縁を結ぶなりなんなりしてもらって構いませんのよ?」


「えぇ……まあ、そうなのですが。……まあ、それはひとまずおいておいて、一つ伝えねばと思っていたことがあったのを思い出しました。最近、僕の兄である第一王子、レオカディオ・ヴァルシェイドが、貴女と僕の婚約について父上に何かを言っているのを聞いてしまったものでして」


 私は思わず眉をひそめた。

 ていうか、今露骨に話題逸らされたよな。まあ取り敢えず聞こう。


「第一王子殿下が? どうして?」


「私も話が完全に聞こえたわけではないのでそれはわかりません。ただ、伝えるだけ伝えておいたまでです」


「……ご情報感謝いたしますわ」


 第一王子が王位ではなく婚約になにか意見を?

 今までそんな事はなかったはずだ。少なくとも私の知る範疇では。だがこの眼の前にいる七歳の王子が嘘をついているようにも見えない。ただ、もしそうだとしてそれを私にいって、一体何がしたいのやら……。

 ああもう面倒だ。いっそこのまま全てを放り出して山奥にでも逃げたくなる。いや、そうしたらまた反乱だが何だがで死ぬんだろうな。


「とりあえず、私と貴女の婚約解消についてです。第一王子……殿下が何であろうと、貴方との婚約は解消します」


「……そうですか。では、これ以上の話は両家を交えての話になりますでしょうか」


「そうですね。流石に子ども同士で完結していい話ではないでしょうし」


 そう言うと暫くうつむいていた第二王子だったが、少しして顔を上げ笑顔を見せた。


「では、私は今日はこれにて失礼しますね。また後日」


「えぇ、また」


 急に帰る宣言をされ若干驚いたが、まあこれ以上話すこともないしいいかと思って笑顔を返すと、一つお辞儀をして部屋から出ていった。

 今からその両家を交えた話し合いとやらが憂鬱であるが、まあ、しょうがない。頑張ろう。精神的に。

よく小説表現で

「き、急に」

と、一言目がきゅなのにきと表現されていて、多分それが正しいんだろうけどどうしても違和感感じちゃうのでわざと”きゅ”で書きました。誤字ではございません

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