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五度目と記憶と能力と

女の子の気持ちって難しい……正解がわからん……。


本作主人公、転生前女子高生なんで貴族令嬢らしからぬところがあるかもしれませぬ。

ギャ/ル要素はそこまでないと信じてますが……読む際にはご承知おきくださいませ

 前略。


 本日より自殺に勤しもうと思う。



 先に弁解しておくが私は変態でもなければ変質者でもなく嗜虐趣味者というわけでもない。




 ではなぜこんな結論に至ったのかといえば、それは精神感覚で言えば100年ほど前まで遡る。




 ◇◇◇◇◇




 私の名前はヴィオラ・アクシス。アクシス家の一人娘にして公爵令嬢である。

 双子の弟がいるため継承権はそちらにあるのだが、両親も人が良くほぼ不自由なく過ごせていた。

 そんな中、いわゆる”それっぽい問題”が起こったのは私が15の頃……王都の国立学園に入学してしばらくした頃だ。


 私には五歳の頃から婚約者がいた。この国の王族の第二王子である。親同士が決めた婚約者であり双方の意見が取り入れられたものではなかったが、私は別にそれを苦に感じていなかった。

 それは向こう方も同じだったようで七歳の頃に初めて顔合わせしたときも、こちらに対する嫌悪の様子や嫌な感じは皆無であった。まあ、社交辞令は多く飛び交っていたが。


 友人関係も順調だった。貴族という部分もあってやはり身分の壁をそうやすやすと超えてこない部分もあったがそれでも心のおける友人はいたし、向こうも私を慕ってくれていたという確信がある。


 婚約者にも友人にも問題はない。ではなぜ問題が起こったのかといえば、それは私の婚約者である第二王子……ではなく、その彼の実兄、ゴミク……ではなく第一王子が、ちょっと脳に問題がある方だったためである。


 それはもうすごかった。国王陛下も奥様も手が付けられないほどの問題児。授業はサボり、婚約者は作らず、礼儀作法に関して自分にも相手にも無頓着、平民を見下す発言、シンプル理不尽、夜遊びもそこそこ激しい……らしい。第一王子に関するこの手の噂は五万とありどれが事実で嘘なのか誰にも判別がつかない。


 こんな問題児であるのに廃嫡されなかった理由は二つある。

 一つ目、とにっかく彼は上面が良かったことだ。貴族へ、ではない。平民への上面がとてつもなく良かったのだ。

 たまに城下へおりて平民と喋り、立場を感じさせなく自分たちのことを気にかけてくださる第一王子だと思わせておきながらも、自分は王族であるというアピールも忘れず甘く見られないようにもしていた。そして裏では平民の悪口を言う。クズである。育った環境が良く両親も優しく弟も真っ当なのになぜ第一王子だけああなのか。

 そして理由二つ目、頭が良い。授業をサボってるとは思えないほどの頭脳。何故かいつも定期テストで五番以内にランクインしているという不可解さ。

 一度茶会の席で、

「いつも五番以内という素晴らしい成績を残しておられますが、どのように勉強をなさっているので?」

 と聞いたことがある。そうしたらなんて返ってきたか。

「一度本を読めばすぐ理解できるだろう? あんな模範解答を暗記して書くだけの、自分の意見を求められない問題の何が難しいというのだ」

 こうである。それができねえから苦労してんじゃこの生ゴミが、野菜の皮と一緒にゴミ捨て場に行ってこい。言わずに表面上冷静を保った私を褒めてほしい。

 こういうわけで廃嫡とまではいかなかったのである。法に背いたわけでもないためしょうがない部分はあるだろう。だが、廃嫡はされなかったが王太子になることもなく、第一王子殿下のままであった。

 正直あんなのに国王になってほしくないから王太子の位を授けない国王夫妻には一定の好感度がある。が、彼が王にならないとなると彼の弟……つまるところ私の婚約者が王になるしかなくなる。そうなれば私も釣られて王妃になってしまう。それだけは無理、絶対嫌だ、偉い立場はいいが一番上は勘弁してくれ。という思考回路であったし、第二王子も特に王になりたいという意思はなかったため、王国は王太子不在期間がとてつもなく長かった。

 第一王子の上面だけを見ている平民からすれば、なぜ国王が彼を王太子にしないのか疑問に感じていたことだろう。


 ……と、まあ彼への愚痴はこれくらいにしよう。これ以上続けたら長々と積もった恨み言が次から次へと出てきてしまう。

 ではなぜ私が自殺だなんて物騒なことを言い始めたのか。まず先に前置きしておくと、私は時間超越者兼転生者だ。


 まずはその起こった問題について話そうか。何が起こったかといえば、端的に言ってしまえば私が濡れ衣を着せられた、である。


 平民は第一王子を、だがしかし貴族は第二王子を王にと押していた。そんな状況に危機を感じたのか、第一王子の野郎はまさかの私を標的にしたのだ。とんでもなくはた迷惑である。

 ともあれ、それで身に覚えのない罪状をつらつらと述べられ、第一王子が学園を卒業する前には私は死刑になるのだ。そしてその婚約者にも問題があるのではないかと無理やり結びつけて第二王子を奈落に落とす――という作戦らしい。それは私が死んだ後に行われているであろうことなので結末は知らない。

 因みに、私と第一王子は二歳差だ。第一王子が学園を卒業する前ということはつまり、私は学園入学して一度も進級できずに死ぬのだ。クソである。


 ――これが、一回目のこと。


 死刑執行により死んだ直後、私は何故か五歳になっていた。記憶はそのままであり、私が若くなったというよりは世界の時間が巻き戻ったような感覚だった。

 なぜそうなったのか、理由はよくわからなかったがチャンスだと思い、とりあえず第二王子との婚約を断れないかと両親に相談した。が、流石に王家からの申し入れを断るにもいかずに失敗。ただ、人生二周目だったこともあり神童だなんだの騒がれた。「人望ある今世なら……!」と期待し胡座をかいた私が馬鹿だったようで、一回目と同じく濡れ衣で死亡した。


 三回目はとにかく第二王子との婚約を断った。駄々をこね、第二王子と婚約することで公爵家にでる不利益をプレゼンし、なんとか婚約は断れた。

 が、アクシス公爵家は王族に次ぐ権力を持つ家系。王族である第一王子と全く無縁でいることはできず、結局またもや罪を着せられ死亡した。

 獄中で死刑待機中に聞いた話によると、王子の得意分野でずっと一位を取り続けてた逆恨みらしい。まさかここで人生三周目のチート知識が仇になるとは思わなかった。


「今度こそもう真面目にやろう! 一瞬も気を抜かずに!!」と意気込み望んだ四回目。

 結論、家出をした。

 十二の頃に家出をし、とにかく生き残ること一心で王都を離れ、十五歳あたりになった頃に持ち前の知識で店を経営しながら暮らしていた。

 結果、初めて二十歳を超すまで生きられたのだが、二五の時に第一王子の本性が国民に暴露され、反乱に巻き込まれて死んだ。とんでもねえとばっちりである。まじざけんなよ第一王子。


 そして迎える五周目……の前に、知らない空間で知らない人に出会った。その推定不審者は、私を哀れなものを見る目で見ていた。


「何度生き返っても三十さえ迎えられずに死ぬなんて……哀れだねえ、君」


「いや、あのここどこです? それとどちら様でございましょうか」


 真っ白な空間。眼の前には面布をつけた髪の長い人型の推定男。それが四度目の死を迎えた時に私が最初に見たものであった。いつもなら死んですぐベッドの天井が見え、再び人生が始まるものだから少し驚いた。


「僕は一応神様みたいなものさ。時空管理者って言ったほうがしっくり来るかもしれないね。でも、僕は人間じゃない。だから、神様っていう種族で、時空管理者っていう職業をやっている者だって思ってくれればいいよ」


「……はあ、さようでございますか」


 四回死ねば精神的にもくるものがある。今の精神健康状態で色々とがっついて質問することは私にはできなかった。そのため一つだけ、こちらから質問した。


「それで、この不可解な巻き戻りは貴方のせいでしょうか」


「僕のせいかと言われれば、それの答えはNOだ。ヴィオラ・アクシス公爵令嬢。アクシスの意味を知ってるかい?」


 突然家名を出され驚いたが、特に知らなかったため正直に「知らない」といい首を横に振った。

 すると神様は「だろうね」といって説明しだした。


「アクシスには軸って意味があるんだ。世界は君を中心に回っているんだよ。君が他者からの干渉によって死んだとき、家系能力が発動して世界全体の時が戻る。わかった?」


「……? 父や母、先代などからそのような話をされたことは一度も……」


「だろうね、君が初だもの。君は少し特殊でね、前世、って覚えてる?」


「前世? いえ、特には……」


 覚えていない。というより、そもそも前世という概念があったことに驚きを隠せない。


「まあそうだよね、じゃあまず、思い出してご覧よ」


 神様がそう言うと急に空間が光で包まれ、次の瞬間私は前世を思い出した。地球、日本、高校生、スマホ、などなど。ヴィオラ・アクシスとして暮らしていた世界では存在することのない概念を。


「ふぇわぁ」


「……なに? そのふぇわぁって」


「いや、なんかキャパオーバーです」


「あ、そう……」


 よくこんな濃い思い出を忘れられたものだ。自分で自分に感心してしまう。


「で、これで多少は生きやすくなったでしょ? ついでに僕優しいから、なにか一つ能力上げるよ。なんでもいいよ、圧倒的な武力でも、魔法でも、好きな能力を一つ上げる」


 魔法。

 その言葉を聞いてピクリと肩が震えた。

 アクシスとしての私が生存する世界にも魔法はあった。そして、魔王だとか魔物だとか、そういう物騒なものも一応あった。

 が、少なくとも私が生きてた頃は封印されてるかなんだかで、日常で見かけることはまずなかった。


 あの世界で魔法というものは、高位貴族と、稀に下位貴族や平民がもって生まれることのある固有魔法と、国民の三割ほどが使える生活魔法の主に二つに分けられる。正直なところ、先ほど神様が言っていた家系能力だなんて私は知らない。

 まあおいておいて、つまるところ、あの世界では大抵の人が何かしらの魔法が使える。

 魔法による差別などは存在しなかった。多少相手を見下すような発言があったりはしたが、それで継承者が云々などの問題はなかった。いくら強い魔法でも、使う相手である魔物が封印されていていないのだからあの世界では魔法所持の有無は大して重要ではないというわけである。私も固有魔法はもっていなかったが、特に邪険にされることもなく第二王子と婚約していたし。

 ……今思えば、第一王子には固有魔法を持っていない私が弱く見えたのだろう。それで標的にされた可能性も……。はあ、考えるのはやめよう。


 とにかく、折角のチャンスだ、なにかもらっておいたほうがいいだろう。が、私はそもそも生きることを放棄したい。必死に生きようともがいても、結局四回も死んだ。正直これ以上生きていくのは疲れる。

 ……でもなあ、死にたくはないんだよなあ。


「どう? 決まった?」


 神様から声をかけられ、もう一度真面目に考える。二度と死ぬのは勘弁だ。かといて生きるのも面倒だ。生きようともがけば藻掻くほど死に近づいていってしまっている気がしてならない。こういうとき、人はどうするのだっけか。生きるのが辛くなったとき……日本人は――


「! ……自殺」


「え」


「神様、固有魔法、痛覚無効がほしいです!」


「うん? それはいいんだけど……ん?? 待って待って待って待って、その前になんて言った??」


「固有魔法」


「の前」


「神様」


「の前!」


「……自殺?」


「そうだよそれだよ! なんだい? せっかく生き返れるのに死ぬ気!?」


「いえ、死ぬ気なんてありません。ここは手法を変えてみようと思いまして。『押して駄目なら引いてみろ』みたいに『生きるが無理なら死を目指せ』という具合でございます。それに、私の故郷の日本は自殺大国と呼ばれておりましてね、多分。もし日本人ならこういうときどうするかを考えた私なりの結果です」


「……僕に人間、特に日本人の感性は理解できないみたいだ」


「令和女子高生の言うことなんて言葉を理解するのではなく言葉の感覚を理解するもんなんですよ。というわけで痛覚無効いっちょう」


「あー、もうわかったよ! けど、本当に死ぬのは禁止。君が故意に自殺を図った場合、本当に死ぬ数十秒前で首吊用の縄が切れるとか、下にクッションになる木が生えてたとか何かしら補正いれるから!!」


「因みに川に身投げしたらそれはどうなるんです?」


「急に川の流れが変わるんじゃない?」


「えぇ、神様っぽい」


 そんなこんなで固有魔法を手にした。魔法の才能からっきしに加え、日本にはそりゃ魔法なんぞなかったもので多少憧れがあった私としては嬉しい。


「だいたいねえ、君はもうちょい頑張ったらどうだい? どうせ生き返るだろうしいいやって諦めてるのが目に見えてるんだよ」


「ああバレました?」


 一生懸命もがいてる、とはいったが少し違う。最初の頃、生き返ってすぐは「もうあんな思いしたくない」と必死になるのだが、どうも十歳あたりを過ぎたときから「どうせもう一回あるだろうしいいや」と急に冷めるのだ。正直自業自得な気もするが、そもそもの話、第一王子がまともなら健やかに生きていけるだろうので私は悪くないと思う。


「これ、貴方と話した記憶は残るんです?」


「消してもいいけど、消したいの?」


「いえ、あったほうが都合がいいです」


 なんで五回目で急に固有魔法が……。なんて呑気に悩んでる暇があったら死なないことを目指したいし。


「じゃあ、いってらっしゃい。次は寿命で死んだ時に会えることを祈るよ」


「神様からの祈りゲット。感謝です。いってきまーす」


「あ、まって」


「?」


呼び止められ振り返ると、神様は少し真面目そうな顔をしてこう言った。


「人の名前とかマナーとかの一般教養の記憶は消えない。けど日本人としての君の魂が本格的に表に出た以上、あの世界での常識は忘れていると思う。例えば――嫌悪されてる髪色目色の人がいるとか」


「……ほお、なるほど。確かに覚えがありませんね。肝に銘じます。では、改めて行ってきます」


「うん、行ってらっしゃい」



 ◇◇◇◇◇



 こういう具合でなんやかんやあり、目覚めたら私は七歳の頃の肉体に戻っていた。

 なぜ五歳じゃないのだろうかはおいておくとして、まあ、冒頭に戻るのである。

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