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第5話 歴史の塔

 歴史の塔。


 1956年に新会長就任を祝い建てられた。


 基本は大きな螺旋のスロープでぐるぐると、1階の紀元前から登っていくスタイルで、最上階は現代。

 今も更新され続けているらしい。


 そしてその周囲は広大な草木の生い茂る自然公園となっており、


 この建物を建てた谷下財閥会長はこう語る。


 例えば、東京の街にポツンとこの塔がある。


 それではダメなのです。


 この広場があって、海があって、それでこの塔がある。


 それが大事なのです。


 ──────

 そんな塔の目の前の芝生エリア。


 そこを歩く。


 お年寄りや犬が散歩していたり、ランニングしている人がいたりしてのどかだ。


 奥の展望デッキからは、海が見えるらしい。


「どこまで行くの?」

 少女に尋ねた。


 もうかれこれ10分ぐらい、塔の周りを歩いている。

「もう少し」


 塔を大きく迂回して、ぼくらは芝生エリアを歩く。


 やがて人も少なくなってきて…


 その辺りで少女は立ち止まり、リュックの中を漁る。


 取り出したのは、レジャーシートだ。


 どうやら芝生に敷くらしい。


 レジャーシートを敷いて少女が座る。


 ぼくはどうしたものか、立ち尽くしていると、少女が言った。


「座らないの?」


 座ります。


 ──────

 2人でレジャーシートに座る。


 太陽が眩しく、草の匂いが鼻についた。


「しばらくここで待つ」

 少女はそう言うと、ボーッと、美術館の方を眺め出した。


 なので、ぼくもなんとなくそっちの方を眺める。


「何を待つの?」


「タイミング…」

 少女を静かにそう言う。


 すると、ぼくのことを手持ち無沙汰だと思ったのか(実際そうなのだが)、それとも黙っておけという意味なのか、


 少女がゲーム機をぼくに手渡した。


「何?」


「これ、クリアしといて」


「分かった」

 これは大事なこと…任務に関わることなのか、そうじゃないのか、ぼくには分からなかったが、暇なのも確かだった。


 ぼくはゲームに取り掛かった。


 原始的なシューティングゲームだ。


 中々難しい。


 ぼくがゲームに取り掛かり、30分ぐらい経過しただろうか、少女が言った。


「きた」


「え?」


 少女が立ち上がり、ぼくはそれを座りながら眺める。


 今ゲームから手を離すと、ゲームオーバーだが…


「行くよ」


「了解」


 ゲームはもういいってことね。


 僕と少女は立ち上がり、美術館、ではなく森の方に歩き出す。


 そっち?


 美術館じゃないのか。


 そのまま森の奥へ進む。



 少女が、ひとつの茂みを除けると、


 何と、秘密の入り口が。


 こんなところに入り口があるなんて。


 しかし、少女サイズ。


 小さい。


 ぼくはギリギリ、何とか通る。


 中に入ると、広かった。


「地下通路?」


「そう。美術館に繋がってる」


「なるほど」


 美術館まで歩く。


 少女がいつにもなく早足なので、ぼくも急いで着いていく。


「ストップ」

 急に少女が止まった。


「この上から入る」


「分かった」


「あと、これ。着けておいて」


 少女が何か手渡してくる。


 これは…ヘッドホン?


「ここの音声ガイド」


 音声ガイド?


「通信できるようになってる」


 なるほど。これで会話できるってことか。


「つけた?」

 僕はうなづく。


「では、スタート」


 ─────

 誰もいないことを確認し、中に入る。


『こちらは、1600年代。世界中で大きな変革と進化が見られた時代です。』


 中に入ると、突然ヘッドホンが鳴り出した。


 音声ガイドだ。


 展示に近づくと鳴るようになってるのか。


「聞こえる?」

 少女の声。


「聞こえる」


「まずはここの奥の、1600年代から観る」


「分かった」


 何を見るというのか。

 まさか展示でもあるまいし…


『ヨーロッパでは宗教改革の影響が続き、各国の政治や宗教の枠組みが再編されていきます。』


 音声ガイドが喋る。


 少女はその間もずんずん進む。


 キョロキョロと辺りを見渡して。


 何かを探している?


 だとしたら何を。


 そしてどうしてぼくに言わないのか。


『特にイギリスでは、清教徒革命(イングランド内戦)が起こり、王政と議会の力が大きく争うこととなりました。』


 それとも気のせいなのか。


 少女はただ単に展示を楽しんでいるのかもしれない。


『この革命が後の民主主義の礎を築いたとも言えるでしょう。』


『一方、日本では、戦国時代が終わり、徳川家康が江戸幕府を開いたことで平和の時代、いわゆる江戸時代が始ま』


「次の通路。右に逸れる」

 少女が言った。


「了解」


『これにより日本は、鎖国政策を取り、200年以上にわたり外国との接触を大幅に制限しますが、国内では経済と文化が飛躍的に発展しました。』


 次の通路に来た。

 横の、スタッフ専用のような感じの通路に入る。


『ここに展示されている地図や書簡は、当時の日本と海外の交流がわずかながら存在していたことを示すものです。』


 音声ガイドが見当違いなことを言う。

 こんな場所通るわけないから、バグってんだな。


『当時の文化的な発展として、浮世絵や茶道がこの時期に花開いたことを覚えておいてください。』


「このまま1900年代に入る」


「了解」


 ──────

『1600年代は、世界の各地で異なる社会・文化的発展がありましたが、どれも今日の世界に大きな影響を与えた重要な時代です。


 では、引き続き、歴史の塔をお楽しみください。』



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