表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

後日談

 コラボ撮影から数日後の話。かのん視点。

 私は今日もメイク室にいる。当たり前の日常過ぎて何も話すことがない。

 ただひとつだけ違うのは、私のスマホケースがピンクから透明に変わっていること。そして本体とケースの間に尊敬する人とのツーショット写真が挟まれている。


 あっという間だったなぁ……


 つづりさんに何度も何度も『ありがとう』と『また絶対に会おうね』を繰り返し抱き締め合いながら伝えたのが昨日のことのようだ。結局ユズさんはその日徹夜をして動画編集やら雑務をこなしたらしい。まぁ、私には関係ないけど。


 あれから数日。彼女の勤める建設会社に申し込みはあっただろうか。私の事務所当てにメールは届いていないのでまだ手ごたえはないのだろう。ただ。きっと成功する。絶対成功する。根拠のない自信なんてするものじゃないが私の感覚は当たるのだ。そう信じさせてほしい。


 だって……


 スマホの写真フォルダから二年前のスクリーンショットを探し出す。その画像にはまだメイクに慣れていない私が映ったロリータ娘としての初投稿動画とコメント欄。そこにはたったひとつの言葉。


『ファンになりました。かのんさんを推させてください』


 当時の私はYouTubeの活動に迷走に迷走を重ね限界を感じ、ロリータ衣装の爆食い企画も半ばやけくそだった。もしこれが当たらなかったら引退しよう。そう決心した覚悟の動画だった。

 でもこのコメントを発見したとき体の中に稲妻が走った。やっぱり私の選択は間違えていなかった……と。


 男鹿谷(おがや)綴莉(つづり)さん。私があなたにどれだけ感謝しているか想像もつかないでしよう。感謝どころではありません。私の今の人生を導き出してくれた恩人です。あのコメントから数年が経ち、Xであなたの名前を見つけたときは心底驚きました。ローマ字でしたが『TUZURI OGAYA』なんてそうそういらっしゃる名前ではありませんよね。もちろん日頃の恩もありますが、見事なルックスに惹かれたのも事実です。だって魅力的なんだもん。この言葉は次に会えたときに言えたらいいな。


「ちょっとちょっとちょっと、かのんさん大変です!」


 私が思い出に浸っていると慌ただしくユズさんがノックも無しに入室してきた。……彼には落ち着きという言葉がないのだろうか。私はひとつ溜息をつくと椅子を半回転させ、彼を見上げるように目線を合わせた。


「はいはい、今日は何なの?」

「男鹿谷建設さんと動画撮影をした日! かのんさんコンビニ前で車降りましたよね? そのときナンパしてた男を撃退したんですか!? 今ネットですごく話題になってます!」


 あー……あったな、そんなこと。些細なこと過ぎて忘れてたわ。ユズさんは該当のニュース画面を私に突き出してきた。そこにはこう見出しが書かれていた。


『ロリータインフルエンサー、迷惑行為男を撃退! 長身美女を守った結果か? その正体に迫る!』


「わーお、随分な書かれ方だこと。うちの親からも連絡来るね、これは」

「何悠長なこと言っているんですか。今のところネットの声は賛否の賛が多いようですが一大事ですよ!」

「なんで? 批判的な意見がないならそれに越したことないじゃない」

「だから! かのんさんのイメージが……」


 はいはい、うるさいうるさい。ここまでキャンキャン喚かれると子犬の方がマシだと思えるわ。

 私は椅子から立ち上がると縦ロールにセットされた髪の毛を解き、机上にあるウエットティッシュでメイクを全て拭い落した。ユズさんは私の予想外の行動に立ち尽くすしかないようでなすがままだ。ネイリストさんが整えてくれた付け爪を外しながら彼に問いかける。


「ねぇ、イメージってそんなに大事かな。私はね、売れるためならどんなこともするし、もちろんやろうと思ってた。それは今でも変わらない。だけどこうやって私が大事にしているパートナーに心配されるほど私はヤワじゃない。私は私でこれからの人生を決めていく。ま、これはつづりさんに教えられたことなんだけどさ」

「……僕は同じ大学のよしみで今までかのんさんのそばについていました。俳優として芽が出ず燻っているところに拾われた御恩は忘れません」

「そうそう。どれだけ私が暴言吐こうが暴力振るおうがついてきてくれるもんね」

「もう慣れましたから。でもかのんさんがやりたいことをやるのは一向に構いませんが、もし世間が評価してくれなかったら……」


 私は彼の言葉を最後まで聞かなかった。メイクを落としたことで体がウズウズしていたから。




―――ないものねだりは無駄。するだけ損。なんで自分が持つ武器で戦わないの?


 あの呪いが脳内を掠める。ふん、今に見てなさい。




「そうね、そのときは……」


 己のウエストを限界までしならせ、ストラップシューズに包まれた左足を支点に右足を高く突き上げる。たくさんのレースであしらわれたリボンドレスの裾がふわりと揺れた。声色は変えない。





「この武器で相手を蹴散らしてやるわ」




 ドボロリ!~乙女土木作業員と男前ロリータ~ 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とても良かったです! お互いがお互いの憧れというかヒーロー的な存在っていいですよね! 最後は自分のありのままの姿を見せていくのがかっこよかったです。とても勇気の出るお話でした! ありがとうございました…
わあああ、ありがとうございますありがとうございます! 二人が互いに推し合っている姿がどこまでも微笑ましくて尊かったです。 自分の好きなことを隠さずに、自分らしく生きていくことにした二人がとっても眩しく…
かのんちゃんかああああああああっくいいいいいいいいいいいい!!!!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ