その四
ミホちゃんがマウンドに立っている。お嬢様がキャッチャーだ。
「この小説さあ、詳しい書き込みが少なすぎるよね」
「メンドくさいもん」
「またかよ!今はどういう状況なのよ?もう読んでる人いないと思うけど、一応説明しなさいよ」
「んー、ソフトボールの大事な試合なんだな。もう高校生だから、インターハイとかじゃないの?」
「インターハイてなんだっけ?」
「知らない」
「調べなさいよ!」
「メンドくさい」
「読者様はもういなくなったと思うけど、仕事で読まざるを得ないスタッフさんに怒られるよ!」
「ソフトボールもインターハイてあるのかな?」
「こっちが聞きたいわよ!何で調べないのよ!」
「メンドくさい。それに、インターハイと断定はしてないじゃん」
「インターハイでなければ何なのよ」
「福井記念GⅢ。ワキモトの弟も出るらしいぞ」
「それはケイリンでしょ!」
この二人は無視しよう。
お嬢様の高校は文武両道、ソフト部も強い。
しかし、今シーズン、リリーフの切り札、抑えのかなめの投手がケガで戦線離脱。代わりはいないか。彼女に匹敵するピッチャー。
お嬢様も心当たりがあれば、と頼まれていたのだ。
お嬢様とミホちゃんは高校が違うだろ?金の力でできないことはないのだ。
お嬢様は剣術になったのでは?母校のピンチだ。昔取った杵柄。掛け持ちくらいするでしょ。
なぜキャッチャーなんだ?ヒユウマの相方はいつも伴チュウタだったじゃん。
それとこれとは違うだろ?思想の自由は日本国憲法で保障されています。
結局何の試合なんだ?オリンピックナショナルチームのスカウトが魔球少女の噂を聞きつけ、お忍びで観に来てるみたいです。
そのくらい大きい試合。これで十分でしょ?
さて、試合は二死満塁。相手チームは最後の攻撃。打たれれば逆転負け。抑えればお嬢様チームの勝ち。というより、もし魔球で抑えたら、スカウトの目に留まり、ミホちゃんがオリンピックに!?
ちょっとは面白くなりました?
第一球。
地を這う速球!
球速も球威も増している。ミホちゃんは、高校生なのだ!
しかし、外角ぎりぎり。判定はボール。
見せ玉なのか?
相手もさすがの選球眼。
四番でエース。
強敵を伏して初めて力士を知る。
仏教の言葉だが、並みの相手を倒したところで強さの証明にはならない。
この強敵四番を魔球で打ち取ったら、ミホちゃんはスカウトの目に、真の力士と映るだろうか?
第二球。
また外角だが
ふわっと、高めに釣り球。
手を出してくれれば儲けもの。
の球だったが
余裕の見逃し。
これでツーボール。ストライクゼロ。
満塁だから、四球でも押し出し1点である。
常識で考えれば、次はストライク。
ストライクを投げざるを得ない。
打者もその気だろう。
カウントを取りに行けば球は甘くなりやすい。
打者はそれを狙って打ち気のはず。
それとも、そこまで見越してのツーボール先行策なのか?
次は第三球。
投げる前にキャッチャーのお嬢様が立ち上がった。
そして、腰を落とす。
が。
外角。
外角どころではない。
ホームベースというよりほとんど左バッターボックスの後ろに構えている。
主審が何か言いたげだが、声には出さない。
呼応するかのように、ミホちゃんがマウンド上で三塁側に移動した。
三塁側ぎりぎりに立っている。
確かに、外角だろうが内角だろうが、ホームベースの一角でもかすめればストライクではあるのだが。
奇襲?
打者は?
球が外角に流れるなら、無理にひっぱるより、一塁側に流し打てば大量得点のチャンスである。
ホームベース寄りぎりぎりに立った。
アウトコースのボール球でも、これで自分のストライクゾーンに入るだろう。
ミホちゃんの狙いは?何をするつもりなのか?
投球動作に入った。
右腕が回転。
しかし
?
投げない?
白球をつかんだまま
身体ごと
左に回転した!
そして
投げた!
思い切り右腕を伸ばし
サイドスロー!
というより
円盤投げに近い!
同時に、お嬢様が更に右に動いた!
打者も思わずホームベース側ににじり寄る。
その背後を白球が走る!
この構えでは球は見えない!視野の外だ!
球はどこだ!?
打者から見れば
球が消えた!?
消える魔球!?
球が見えた!
打者の背後から現れ
ぐっ!
変化球だ!
ホームベースから
更にインコースへ
更に
バットが出た。
振ったというより、身を守った?
見逃す余裕はなかっただろう。
見たことのない物が突進してくれば、反射的に身体が動く。
踏切の猫と同じである。
球はバットに当たり、お嬢様の前に落ちた。
お嬢様がつかんで打者にタッチ。アウト。 試合終了。
ナショナルチームのスカウトが席を立った。
ミホちゃんの方へ歩いて行く。終わり。