のどかな朝に
ディアーンは目を覚ました。
檻の中、手錠、足枷。
ちょっとやそっとじゃ壊せそうにない。
別に壊そうという気もないが。
「ふぁー……」
大きくアクビをしながら全身を伸ばす。
別に起きたところで何もすることはない。
この四畳半ほどの檻の中で1日を過ごすだけ。
さて、もうひと眠りでもしようかとしたところで、
「あれ、今日は早起きだね」
檻の向こうから声がした。
「ご飯だよ」
両手で握ったお盆の上には湯気を立てた器が見える。
それを檻の下に設けられた猫用ドアみたいなところから渡された。
器用なもんだ。
「アンタが来て1週間くらい経つけど、もう慣れた?」
慣れるも何もここに来て1週間、大してこの檻から出ていない。
ディアーンは手錠のついたまま、食べづらそうにスプーンを進ませた。
ポトフとコッペパン。美味い。
「いつまで檻の中なんだろうね。早く出たいでしょ?」
配膳が終わったならさっさと去ればいいのに。
「……別に」
もぐもぐさせながらディアーンは答えた。
「嘘だぁ。だって暇でしょ?こんなところにずっといたって」
余計なお世話だ。
「アンタって本当に変わってるよね」
そんな戯言を聞き流しながら黙々と食べ進め、ものの数分で朝食は終わる。ディアーンは食べ終わった器を、お盆ごと猫ドアに返した。
「美味しかった?」
まるで自分が作ったみたいに言う。
「私が鍋を混ぜたの。ぐるぐるって」
大ぶりに鍋をかき混ぜるジェスチャーをしながら、
「まだ包丁はダメだってさ」
まだというか……そりゃそうだろう。
じゃあ、またお昼ね。と言ってディアーンの食べた食器を持って出て行った。
その背中にディアーンは感心を覚えながら再びベッドに横になる。
目を閉じた。
微かに遠くの方で鳥の鳴き声が聞こえる。
のどかだ。
ディアーンは大きく深呼吸をして、今度こそ二度寝をしようとしたところで、
「出な」
その声と共に檻のドアが開いた。
2メートルはあるだろうか。縦にもデカいが横にもデカい大男。
真紅の髪を後ろで束ね、同じくらい真紅の髭に葉巻を燻らせている。
まるで赤い熊だ。
長く続く廊下、階段。男の一歩は大きく、おいていかれないようディアーンは早足でついていく。しばらく歩いたのち、両開きのドアの前に着いた。
「入れ」
ここに来るまでまで一度も口を開かず、一度も振り返らなかった大男はディアーンの顔も見ずに言った。
言われるがままドアを開ける。
何から何まで手錠が邪魔くさい。それだけが不便だ。
部屋はかなり広かった。ロ型の机の左側に2人、右に2人と空席がひとつ。そして1番奥の上座に1人。
皆一斉にディアーンの方を向いた。
「連れてきたぜ」
大男のセリフに、
「ありがとう、ブリランテ」
上座の男が言った。
オレンジ色の髪。
見慣れない顔がいくつも並ぶ中でこの男は知っていた。自分がここへくる原因になった人物。
アルス。
初対面時にそう名乗っていた。
大男が唯一の空席に腰を落ち着かせるのを見届けたアルスは、
「さて、」
と話を切り出した。
「君の量刑について、この1週間我々は喧々諤々の論争を重ねた。そして多数決の結果、」
そして少しの間の後、
「君の死刑が可決された」
はっきりとした口調で言った。