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カローラの花々  作者: 津々皆
芙蓉篇
9/16

のどかな朝に

ディアーンは目を覚ました。


檻の中、手錠、足枷。

ちょっとやそっとじゃ壊せそうにない。

別に壊そうという気もないが。


「ふぁー……」


大きくアクビをしながら全身を伸ばす。

別に起きたところで何もすることはない。

この四畳半ほどの檻の中で1日を過ごすだけ。

さて、もうひと眠りでもしようかとしたところで、


「あれ、今日は早起きだね」


檻の向こうから声がした。


「ご飯だよ」


両手で握ったお盆の上には湯気を立てた器が見える。

それを檻の下に設けられた猫用ドアみたいなところから渡された。

器用なもんだ。


「アンタが来て1週間くらい経つけど、もう慣れた?」


慣れるも何もここに来て1週間、大してこの檻から出ていない。

ディアーンは手錠のついたまま、食べづらそうにスプーンを進ませた。

ポトフとコッペパン。美味い。


「いつまで檻の中なんだろうね。早く出たいでしょ?」


配膳が終わったならさっさと去ればいいのに。


「……別に」


もぐもぐさせながらディアーンは答えた。


「嘘だぁ。だって暇でしょ?こんなところにずっといたって」


余計なお世話だ。


「アンタって本当に変わってるよね」


そんな戯言を聞き流しながら黙々と食べ進め、ものの数分で朝食は終わる。ディアーンは食べ終わった器を、お盆ごと猫ドアに返した。


「美味しかった?」


まるで自分が作ったみたいに言う。


「私が鍋を混ぜたの。ぐるぐるって」


大ぶりに鍋をかき混ぜるジェスチャーをしながら、


「まだ包丁はダメだってさ」


まだというか……そりゃそうだろう。

じゃあ、またお昼ね。と言ってディアーンの食べた食器を持って出て行った。


その背中にディアーンは感心を覚えながら再びベッドに横になる。


目を閉じた。

微かに遠くの方で鳥の鳴き声が聞こえる。


のどかだ。


ディアーンは大きく深呼吸をして、今度こそ二度寝をしようとしたところで、


「出な」


その声と共に檻のドアが開いた。

2メートルはあるだろうか。縦にもデカいが横にもデカい大男。

真紅の髪を後ろで束ね、同じくらい真紅の髭に葉巻を燻らせている。

まるで赤い熊だ。




長く続く廊下、階段。男の一歩は大きく、おいていかれないようディアーンは早足でついていく。しばらく歩いたのち、両開きのドアの前に着いた。


「入れ」


ここに来るまでまで一度も口を開かず、一度も振り返らなかった大男はディアーンの顔も見ずに言った。

言われるがままドアを開ける。

何から何まで手錠が邪魔くさい。それだけが不便だ。

部屋はかなり広かった。ロ型の机の左側に2人、右に2人と空席がひとつ。そして1番奥の上座に1人。

皆一斉にディアーンの方を向いた。


「連れてきたぜ」


大男のセリフに、


「ありがとう、ブリランテ」


上座の男が言った。

オレンジ色の髪。

見慣れない顔がいくつも並ぶ中でこの男は知っていた。自分がここへくる原因になった人物。


アルス。


初対面時にそう名乗っていた。

大男が唯一の空席に腰を落ち着かせるのを見届けたアルスは、


「さて、」


と話を切り出した。


「君の量刑について、この1週間我々は喧々諤々の論争を重ねた。そして多数決の結果、」


そして少しの間の後、


「君の死刑が可決された」


はっきりとした口調で言った。

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