09. 散歩
パールがテントから出てこない。
人にいままで拒否されたことがないからか?
すごくむなしい。
心に穴が空いたような、変な気持ちになる……な。
自分の寝室には行く気になれない。
リビングで軽く休むことにする。
「ライ、大丈夫ですか?」
「そうだぞ、無理するな? パールは優しい子だからすぐに許してくれる。大丈夫だぞ」
「ああ」
何度かソードたちがパールの部屋へ様子を見に行ってくれたが、変化はない。
三人で待つしかないのか……
パール、早く出てきてくれっ!
カチャッ。
パールだ、パールが来た!
「パール! 昨日は配慮がたりませんでした。気を悪くしたなら本当にすみません」
ソードが一番に謝っている。
「パール! すまん! 許してくれ! つい、夢中になって聞いてしまった……」
ガントも謝っている、おれもっ!
「パール。みんな悪気はないんだ……すまない」
「いいえ。わたしも話の途中だったのに……すみません」
パールは少し戸惑ったようだが、すぐ頭を下げみんなにテントへこもったことを謝っていた。
「よかった! 許してくれるのか?」
ガントがもう怒ってないか確認している。
すばやいな……
「はい。別にはじめから怒っていませんし……ちょっと、おどろいてしまって……」
「そうか! ライ! よかったな! 怒ってないみたいだぞ」
ガント! なんで、おれの名をだす!!
「なっ、なんで、おれだけに言うんだ! ソードだって、心配していただろーっ!」
「そうですよ! ガント。あなたのその、デリカシーのなさは、どうにかしないとっ! でも……良かった。パール、出てきてくれてありがとう」
そうだぞ! ソードの言う通りだ!
「そんな……ご迷惑をおかけしました……なんだか、すみません」
パールは恐縮しているようなしぐさをみせている。
それに安心したのか、ガントがパールに話しだす。
「パール、腹が減ってないか? みんなで昨日の残りのスープを食べようなっ!」
「はい、はい。ガントはお腹が空いたのですね。すぐに用意しますから……」
ソードが呆れてこたえていた。
おまえが安心して腹が減ったから朝食を食べたいんだろう?
わかりやすいぞ、ガント!
だがおれも……少し疲れた。
一昨日からあまり寝てないからな。
ソードの用意してくれた朝食を食べ、ガントが御者をしてくれているあいだ、おれとソードは少し休むことにする。
ホッとしたのか?
パールも部屋で休むようだ。
ガントがパールに必ず昼食の時間には出てくるよう、念を押していたので今回は大丈夫だろう。
無事に? 出てきてくれたパールと一緒にみんなで昼食をとり、昼食後は二人で少し昨日のことを確認することにした。
まずは焦らず、金と金貨の両替を申し出る。
変に安くして猜疑心を持たないよう、安心して取り引きしてもらうため、あえて正規のギルドと同じ手数料分の二割増しレートを提示しておく。
金貨の重さより二割増しで金と交換だ。
これが妥当でいいだろう。
「パール。向こうの国には金が、石ころのように転がっていると聞いたのだが、本当か?」
「……はい。ホント……です」
「それを持って帰ってきたのなら、だいぶあるな……」
「そうですね。ですから家を買うのがお金か金なのか分かりませんが、その分としばらくの生活費があればいいんです。わたしのせいで、金の価値を下げるつもりはありません。これからわたしは、千年以上生きていくのですから、急ぎません」
千年以上か……
「ありがとう。そう言ってもらうと助かるよ」
「あのぅ……もしかしてライが、金の両替をしてくれるのですか?」
「ああ、そのつもりだけど」
んっ、伝わってなかったのか?
両替とは別に、家はそのまま金で買えるようにしてやる。
そのほうが二割の両替手数料分、両替して買うより安く家が買えるだろう。
わが国のダンジョンでは、あまり金が取れないからありがたい。
まずはその家の価格と同じぐらいの金を両替するつもりだと伝えでおく。
どんな金かもわからないからな……
ひとまず話しは終わった。
ここからだ……気になっていたことを聞いてみる。
「パール。昨日テントの中からおれたちの呼びかけ、外の音はまったく聞こえてなかったのか?」
「はい、聞こえていませんでした」
「そうか……」
やはりな……
パールはなにやら落ち込んだような顔を一瞬していたが……
なんとも、すごいテントをもらってきたな。
もっと聞きたいが、昨日の今日だ。
今回聞くのはこれぐらいにしておこう……
今日の目的地には朝の出発が早かったからか、思っていたよりもだいぶ早く到着した。
なにやらパールは馬車を降りて御者をしていたソードのところへ行くようだ。
思わずおれもついて外へでる。
なんだ?
ここら辺の地形や薬草のことをソードに聞いているのか?
おれに聞けばいいものを……
「散歩ですか? 魔獣がでるんですよ?」
んっ?
なにっ?! パール、散歩へ行くだと?
一人では危ないだろう。
ソードの言う通り、弱いが魔獣もでるんだぞ!
「大丈夫です。逃げ足は、はやいんで! 少しまわりを見てきたいんですよ」
「いいぞ! おれも一緒について行くから、大丈夫だ」
ガントが起きてきたようで、声を上げる。
おまえがついて行くだと?!
パール、ガントと二人で行く気なのか?
「えっ、いいよ! ひとりで行くから!」
パールがガントを拒んでいる?
フッ、そうかぁ……
ガントはイヤなのかぁ〜。
なら、おれは?
なぜ、おれを誘わない……
パールひとりはダメだ、危険すぎる!
二人も……
「ダメだ! おれも、行く!」
「「「えっ?」」」
言ってしまった……
「ふーっ、しょうがありませんね……みんなで行きましょう」
「えーっ! そんな〜 みんなで行くことないよ! ちょっと、散歩するだけなんだから!」
パールが困ったような顔をしている。
これは見なかったことにした。
「パール、あきらめてください。みんなで行きますよ」
ソードの言葉であきらめたようだ。
四人で森林の中を歩くことになってしまった……
「あっ、すごい! すごく緑の濃いヨウモギ草がある!」
「どれだ?」
ガントが尋ねている。
パールの機嫌は?
緑色の濃い草の場所までサッと行くと、ズボンのポケットに手を入れ、何か短い棒を出したぞ。
それがスルスル伸びて、長めの魔法スティックのようになった。
そんなモノを出して、どうするんだ?
ああ、あれがヨウモギ草か。
近くで見ると、たしかに濃い緑色をしているな。
その薬草にパールがスティックで軽く触れる。
どこにいった……
薬草が消えてなくなったぞ?!
「「「おーーっ!!」」」
思わず、ガントたちと声をあげてしまう。
パールはそんなおれたちにはお構いなしだ。
ステックの先を薬草に、チョン、チョン、チョンと次々触れていく。
そのたび自然と声がもれる……
「「「おっ、おっ、おーっ!」」」
これは、すごいぞ!
思わずガントが声をかけていた。
「パール。そのステックは、もらったモノか?」
「そうだよ。だから、使ってみたかったんだ……」
なるほど……な。
それで、散歩なのか……