08. 質問
パールにズバッと言われておどろいてしまった。
父上のようなのか……
少し、誇らしい……
「ライ。もう、話しても大丈夫だろ?」
ガントがしびれを切らしたようだ。
それだけパールを信用しているのだろう。
いつもの状態に戻るほうが、警護の面でも今とは違いすぎるからな。
おれたちの安全度もだいぶ上がる。
ガントからすると、早くそうしたいのだろう。
軽くうなずくとソードがスッと立ち、テーブルを自分の魔法袋にしまいだす。
ガントも魔法袋から、いつものバリアの魔道具を取り出して、馬車と馬を取り囲むように四隅に置きだした。
その様子を、パールがジッと見ている。
では次はおれだな。
馬車の中へパールを案内していく。
今度はダミーではない、本当の部屋の方へ……
この馬車は、馬車五、六倍ぐらいの広さのリビングと主寝室。
あとベッドを二つずつ置いている部屋が二部屋。
そしてトイレが備わっている。
リビングにパールを通す。
お茶を飲みながら考える。
どうもパールは、おどろき方が少ない……
三人の場合夜は安全確保のため、一人は御者で寝るから今回はガントとソード二人で一部屋使っていると説明して、空いているもう一部屋をパールが使うよう勧める。
あとはソードが各部屋を案内しながら珍しい馬車のトイレの使い方を教えていた。
パールは昨日、自分のせいで狭いところに寝かせてしまい申し訳なかったと謝ってはいたが……
馬車の部屋自体には、そうおどろいていないようだった……
どういうことだ?
まさか……
説明を終えリビングに戻ってくると、ソードが香り豊かないつもより上等なお茶を淹れている。
パールにお茶を淹れながら、うまく話しを誘導しているようだ。
言葉も元の口調に戻っているが、なぜかかえって警戒しているように聞こえるのは、まあしょうがない……ソードだしな。
「パールは向こうに、どれくらいの時間いたのですか?」
「一日です」
「「「一日!?」」」
まさかの、一日か?
「でも、パール。 おまえ、七日も帰って来ないと宿屋のオヤジさんが言ってたぞ?」
ガントがすぐ聞いていた。
ガントおまえ、いつも使っているあの宿屋に昨日も寄ってきたのか……
あそこの食事が妙に気に入っていたからな。
いつのまに……
ふっ、ガントらしい……
「不思議なんだけど、帰ってきたら七日経っていて、おどろいてしまったんだよね」
「どうして七日経っていると、わかったのですか?」
そうだよ……
ソードが疑問に思うのは当たり前だな。
だれから聞いた?
ガントも気づいたのか、うなずいているぞ。
「時間のわかる魔道具を、もらったんです……」
「「「時間のわかる魔道具!?」」」
そんなすごいモノを、もらったのか……
「それは、どっ、どんなものだ!」
ガントがすごい勢いで聞いている。
おい! 目が見開いていてこわいぞ……
まあ、気持ちはわかるがな。
なのにパールは、その魔道具がなんてことないように話している。
なぜ?
「ん〜っ、どこにいても、時間と日にちと方角がわかるモノ……かな?」
「すごい! 見せてくれないか!」
「あーっ、ごめんね。もう、登録してあるから無理なの……」
なんだって?
「登録とは、なんだ?」
おれも、おもわず聞いてしまう。
「んっ? もらったモノは、だいたいその場で登録させられたの。自分専用にして、無くさないように……」
「他にも、もらったのですか?」
ソードもやはり気になったのか、聞いている。
「いろいろもらったけど、登録してあるから……」
「いろいろって、何をもらったんだ?」
ガントもそこが気になったようだ。
「えっ、魔法袋……とか?」
「魔法袋も、登録できるのか?」
気になって、質問が止まらない。
なんということだ……
ああ、すごいぞ!
この調子だと、もっといろいろもらっているな……
ワクワクする。
しかし、パールは違ったようだ……
「そんなに、質問ぜめにしないでっ! 疲れたから、もう部屋で休むよ!」
ああ、しまった!
急ぎすぎた。
怒らせたか……
与えられた部屋に行ってしまう。
「ありゃ〜、怒らせてしまったな! ライやソードにしては、珍しい」
「はい。つい、少し興奮してしまいました」
「おれもだ。時間のわかる魔道具や登録のできる魔法袋なんて聞いたことがなかったからな……」
「まず、おれが謝りがてら様子を見てくるか……」
「そうですね。知り合いのガントが適任でしょう」
まあ、そうだな妥当か……
ガントは頭をポリポリかいて、リビングを出て行った。
バタンッ!
「おい、すごいぞっ! あいつ、テントまでもらっていたんだ!」
「「えっ?!」」
「こっちへ、来てくれ!」
リビングのドアの前で少し興奮して入ってきたガントが、おれたちにテントを見せるため急いで呼びに来た。
はあっ?
ガントに言われるがまま、パールの部屋へ行く。
「何度ノックしても、返事がないからドアを開けたんだ、そしたらこれだ……」
ドアが開けっぱなしになっていて、中が丸見えの状態だった。
ガントはもう一度呼びかける手間をはぶくため、ドアを開けたままにしておれたちのリビングまで来たようだ。
「これは、すごいですね」
「ああ、何度テントに呼びかけても返事がない。それに、中に入ることもできない。テントに触れると少し、痺れが走る……」
ガントが軽く説明していたが、試しにソードもテントの入り口になるところに触れ、確認するとすぐ手を離す……
「ほんとですね……軽く痺れを感じます。害はないようですが、これがパールの話していた登録というモノでしょうか?」
「たぶん、そうだろう。これなら、テントを間違えて入られることがないな」
おれもテントに触れようとしたが、ソードとガントに念のため止められる。
パールが出てくるまで、待つしかない。
「パール? ライだ。出てきてくれないか? 少し話をしよう」
「 ……。」
返事がない……
なぜだか、いるはずのパールから返事がないだけで少し焦ってしまう……
「パール! パール! いるなら、返事してくれ! おれたちが悪かった! パール、顔を見せてくれ!」
「ライ、無理です。きっと、外の音を遮断する機能がついているのでしょう」
「そうだぞ、ライ。あいつは素直だから、これだけライが呼びかけているのに聞こえていたら無視はできないと思うぞ」
「たしかに、ガントの言う通りでしょう。ハァー、それにしてもすごい機能ですね……説明を聞いてみたいですが、今はしょうがありません。ライ、出てくるまでリビングで待ちましょう」
「ああ……」
二人から今日は自分たちが部屋ではなくリビングで待機するから、おれには自分の寝室で少し休むよう勧められる。
だが、そんな気になれない。
無理だ。
パールの顔が今すぐみたい……なぜだか?
落ち着かないんだ……