07. 魔法袋
起きてきたパールは、ソードの淹れたお茶を飲んで普通においしいと言っている。
なんだ?
飲んだことがあるのか?
これは平民には高価な茶葉のはずだが……
ソードをチラッと見ると、ソードもおどろいているようだ。
目に感情がでているぞ。
あとで注意しておこう。
移動中の馬車では、ガントが向こうの国に竜人がいたのか聞きいている。
自分のルーツでもあるからなぁ。
直球すぎるが、ガントだからしょうがない……
「いましたよ」
「いたのか!?」
思いがけず、すぐ答えが返ってきたのでおれまでおどろいた。
これは、ガントだけの問題ではない。
おれも興奮して、つい聞いてしまう。
「パール。どうやって向こうの国へ行ったんだ?」
ガントも真剣にパールの答えを待っている。
「アストの森のダンジョンで急に霧がかかって、気がついたら向こうの国だったんですよ。不思議ですよね」
「そうか。じゃあ、どうやって帰ってきたんだ?」
おもわずまた、聞いてしまう。
「それは向こうで知り合った竜人に迷いの森まで連れて行ってもらって、また同じように帰ってきたんです」
「迷いの森?」
「はい。わたしが来た森のことを向こうの国では竜人たちが『迷いの森』と呼んでいました」
「あーっ、おれも行ってみたい……どうやったらいけるんだ……」
ガントがブツブツつぶやく。
「向こうの国でも迷い人と呼ばれましたけど、数百年に一度現れるかどうかぐらいなのでなかなか会えないらしく、こっちと同じで向こうでも当たり人を五人選ぶのですが、やっぱり王家が迷い人を囲ってしまうからいろいろあって、そう単純なことではないみたいでしたよ」
「大変そうだな……」
「はい大変です」
ガタンッ!
時間切れ、休憩ポイントだ。
パールが林に行ったあいだに、ガントがソードに先ほどの話しを聞かせていた。
ソードは帰ってきたパールにリンゴを一つ渡し、少しだけ不思議な感覚を植え付けている。
昨日はパールからリンゴをもらっているからな……
どこにあったのか? っと……
これで少し考えるようになるだろう。
ガシャッン!
んっ?! これは……
御者のガントが馬車のスピードを上げる。
ソードがガントのところへ確認にいき、シルバーウルフの群れが十数匹でたと報告してきた。
数が多いな……
「しょうがない、退治しておくかっ」
ほっておくと、他の旅人が犠牲になってしまう。
この数を退治したら、しばらくここは安全な道になるだろう。
パールにはおとなしく馬車で待っていてもらい退治に向かう。
「ちょうどいい。ここで、魔法袋と魔剣を使うぞ」
「あいつ、気づくか?」
「気づくようにしてあげましょう。馬車の近くで戦えば目立ちますし、冒険者ですからね。気になるはずです」
「なるほど……」
やはりソードの狙い通り、パールは小窓から覗いていた。
無事にすべて倒し、パールに馬車から出る許可をだす。
風の魔法で血の匂いを飛ばし、解体を素早く済ませていく。
パールは冒険者だが、解体は苦手なようだな……
少し顔を歪めていた。
毛皮をいるか聞いてやると、記念に一枚ほしいと言う…… そうか、記念……
よし、おれも取っておこう。
目的地まで、あと僅かだ。
もう少し大胆に動くとソードが密かに伝えてきた。
パールは目的地に着くとすぐ林へ向かう。
それを待ってましたとばかりに、ソードは魔法袋からテーブルセットのセッティング済みのモノをだしていた。
ガントは薪を魔法袋から取り出し、火をつける。
さあ、パールどうでる?
おれは椅子に座って、優雅に待つ。
ソードたちも少し、ニヤついているな……
戻ってきたぞ!
「パール、食事にしよう! 座ってくれ」
一瞬、目を大きくして数秒立ちすくんだあと、何食わぬ顔でパールは席に着いた。
ソードがおもしろがって、平民には高価なジャムを出してやる。
おかしい……
平民のはずなのに、テーブルマナーがしっかりできている。
それにジャムに飛びつくどころか、パンに違和感があるようだぞ?
なんだ?
自分も食べて、気がついた。
パサついている……
これか?!
パンが少しパサついているのが気になったのか……
購入から時間が経っているからな……
ハッ!?
これに反応したということは、自分の魔法袋と比べたのか?!
そうか、なるほど……
パールは時間停止か悪くても、時間が遅くなる魔法袋を持っているんだな……
ソードもそれにたどり着いたようだ。
珍しい……
今回ソードは、よくおどろいているな。
おっ!
水を飲んだか、これならどうだ?
おれの出した魔法水だぞ。
「おいしい、お水だね」
「そうか……」
気に入ってくれたのか…… フッ。
おれたちに囲まれて、同じテーブルでの食事だ。
緊張するだろうに……
ナイフやフォークを使って一緒に食事していても、違和感がぜんぜんない。
もう、いいだろ。
ソードとガントもうなずいている。
食事のあと、お茶を飲みながら話すことにした。
おかしい、違和感がない。
どう見ても平民以上にみえる……
それにまだ、九歳だろ?
不思議な子だ……
「パール。きみはこれを、知っているかい?」
魔法袋を取り出して尋ねると、パールは長いため息を吐いて……
「フゥーッ。はい、知っています。 魔法袋ですね」
「やっぱり、知っていたか……」
いさぎいいな。
「わたしの持っているモノは、サラマンダーが一匹のモノだそうだ」
意図して少し、貴族的に告げてみる。
城にいるときや貴族の前では、自分のことをわたしと言っているが、いまはずっとおれと言っていたからな。
この雰囲気の中、パールがこれからどうでるか……
うなずいているのか?
意味がわかっているんだな……
そうか、ではまあ、無理だろうが念のため。
余っているなら魔法袋を譲ってほしいと告げる。
ラメール王国ではよく知られているモノだが、貴重で珍しいモノには変わりがない。
コレは使い方を間違えたら、たいへんなことになるからな。
金が必要で手放すときには、一番に声をかけてほしいし、魔法袋は人に知られないよう自分だけで使ってくれと伝えておいた。
「ライは……もう持っているのに、まだ欲しいの?」
不思議そうに聞いてきたので正直に答える。
「欲しいか、欲しくないかと聞かれたら、欲しい。でもそれだけじゃない。この魔法袋が、悪いヤツらの手に渡らないようにしたいんだよ」
「すごいね。考え方が、王様みたい……」
「っ!! そうか、そうなのか……」
突然のパールの言葉に……
おれが、ドキッとしてしまう。