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05. えっ、冒険者? 

 おれの腕にもたれて寝ているパールに、ソードが気づいたようだ……


 パールを起こそうとする。

 あわてて大丈夫だと、頭を軽く横に振って止めた。


 ソードが、チラチラこっちを見てくるな……

 心地よい重さで、なぜだかだれにも邪魔されたくないと思ってしまう。


 ガタンッ!


 野営ポイントに着いたか。


 ああ、目を覚ましてしまった……

 

 

 馬車を降りたらまた、(トイレ)にひとり走って行く。

 もう、馬車のトイレを使わせてやりたい……


 ソードはパールがいるので、今回一般的な野営の夕食にするが大丈夫か確認してきた。


「ああ、久しぶり一般の野営スタイルだな。ある意味、新鮮で楽しみだ」

「わかりました。ガント、一般的な夕食はパンに干し肉、あとはお湯ですかね」

「そうだな。まだ一日目だから、お湯だな」

「フフッ。それから……パールの分は、今日は用意しませんよ。様子を見るので、邪魔しないでくださいね。いいですか、二人とも」

「ソード、パールは大丈夫だぞ?」

「ガント。それならそれで、早く確認したほうが良いでしょう? そうですよね、ライ」

「ああ……」


 パールが林から戻ってきた。

 すぐガントのところへ行く。

 野営場所の整え方や暗黙のルールなんかを教えてもらっているのか……


 ガントはこの道中に自分の親族が住んでいる村があるから、いままで定期的な薬草の買い付けには自らすすんで来ていた。

 実はソードの親族が住んでいる村もあるが、基本ソードはおれからあまり離れない。

 おれも少し前までは時間が許す限りピアンタに来ていたが、この頃は仕事……メルの町を本格的に任されたので機会はだいぶ減ってきている。

 パールにいろいろ教えるのにはガントが適任だが、イラつくな……



 夕食は、質素なもんだ。


 パールも似たようなモノを食べていたが、最後にリンゴをみんなに分けてくれていた。


 優しい子だ……


 いつものように、ソードが毒味をする。

 なのになぜか、それもイラッとした。

 せっかくパールがおれにくれたモノを……


 ハアーっ


 おれは、おかしい……


 ソードは夜の火の番のため、みんなより先に御者で休みをとりだす。

 おれたちは馬車の近く火の前で、もう少しだけ話をしてくつろぐことにした。


 そこでガントとパールが、冒険の話しをはじめる。


 な、なにっ?!


 パールが冒険者?


 まさかっ?!


「えっ、ひとりで冒険しているのか?」


 思わずおどろいて声に出して聞いてしまった。


 アストの森でひとり……

 木のウロで、寝泊まりしている?!


 そんなこと、できるのか?

 ソードも御者から聞いていたようで、起きだして話しに入ってきた。


「パールは、なん歳なんですか?」

 

 さすがにソードも気になったのか、珍しく人の年齢を尋ねている。


「わたしですか? あと、一ヶ月ほどで十歳になります」


 なっ、なんだと?


「十歳!! まだ、子どもじゃないか!?」 


 まさか? 信じられない。

 まだ、十歳にもなっていない子がひとり……

 木のウロで、寝泊まりかっ?


 つぎもソードがまた、どうしてその若さで冒険者をしているのか質問している。


 まあ、妥当な質問だな。


 一歳のときに両親を冒険者で亡くし、辺境伯領で働いていた馬番の伯父に預けられる?

 ああ、かわいそうに……


 なにっ?!


 そこの馬小屋で一緒に住む許可をもらいに伯父が辺境伯の屋敷をたずねたら、偶然いた侯爵令嬢が勘違いして冒険者になることを応援した?

 それで辺境伯がパールを屋敷で雇わず、冒険者にしたというのか?


 そんなことで……

 そんなバカな勘違いでパールは伯父と同じところで、安全に働けなくなっただと……

 そのときパールはまだ、赤ん坊だぞ!


 自分の人生を一歳にしてバカな貴族二人に決められて、六歳から冒険者をひとりでしているということなのか?


 考えられない……


 辺境伯は、なにを考えていたんだ……

 一歳の女の子を冒険者にすると、安易な決定を下してしまうとは……

 なんて、ヤツだ……

 信じられん!


「パール。おれの家がメルの町、ダンジョンの近くにあるんだ。何かラメールで困ったことが起きたら、訪ねてこい」


「うわーっ、ありがとうございます! あのぉ〜 ダンジョンの近くって、どんなところですか? 栄えているのかな? やっぱり人は多いのですか?」


「パール、なぜそんなことを聞くのです?」


 ソードはまだ、警戒を解いていないな……


 えっ、なんだって?


 ラメールで、伯父たち家族と一緒に住む?

 伯父たちが宿屋をしたいって?


 ソードはラメールのダンジョン近くなら、宿屋を経営しても客には困らないと教えていた。


 しかし、伯父の家族……かぁ。


「パール、本当に伯父の家族たちと一緒に住む気なのか? それで、うまくやっていけるのか? どうだ」


 返事がない……


 やはり迷っているんだな……

 気持ちは、少しわかる。


 おれたちもそうだった……


 おれの母上は、人族で再婚者。

 子どもが二歳のとき、同じ人族の夫が病気で亡くなってしまう。

 それから子どもとふたり、ギリギリの生活を送っていたそうだ。

 そんなとき、父上と出会う。


 再婚しておれが生まれてからも家族四人、仲はすごく良かった。

 だから義兄が二十二歳で初めて人族で王を引き継いだとき、家族みんなでよろこんだ。

 それからもしばらく、おれたち家族三人は城ではなく離宮で楽しく暮らしていた。

 いつでも義兄に会えて、家族みんな仲も悪くない。

 義兄、七代目王には本当の弟のように可愛がってもらったし、なに不自由もなかったが……


 竜人は、長生きだ。


 義兄の子どもが王になった頃ぐらいから、段々と離宮にいるよりメルの町。

 今の屋敷に三人で暮らすことが多くなってくる。


 家族とは、難しいものだ……


 城の離宮はそのままにしていたから、城にも居場所はあったが、窮屈になってきていた。


 城から離れて暮らしたあのメルの町での生活が、父上と母上にとって一番自由で楽しかったのではないかと思う。


 よく二人は、笑っていたな……


 祖父である五代目王も遊びに来て、メルの洞窟ダンジョンに父上と三人で潜って冒険したり……

 おれも、ホントに楽しかった。


 両親ではないんだ……


 親族の場合、一緒に住むことが最良の方法とは限らないことをおれは知っている。


 パールも伯父の家族に溶け込めるのか、不安なのか……


 こんな小さな子ども。

 それも女の子で、今より小さな六歳のときにだぞ!

 そんな子どもを辺境伯領から王都アストに貴族の決めたことだとはいえ、ひとりで送り出すぐらいだ……


 いろいろ、考えることもあるだろう……なら。


「パールがひとりで住むのなら、どんな家がいいんだ?」

「えっ!? わたし、ひとりなら?」


 パールがおれの目を見て聞いてきたので、うなずいてやる。


 考えだしたな……

 

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