02. 信頼できる側近
偉大な初代王について考えていると声がかかる。
「ライ、なに難しい顔をして考えているんだ? もうすぐピアンタに着くぞ」
「ああ、そうだな……」
「薬草の買い付けなんて、ホントは王太子のおまえがしなくてもいいんだぞ?」
「フッ、わかっているさ。だが、こんな自由に他の国へ来れることは、いまのあいだだけだろ? それにピアンタのアストの森には、いろいろ伝説があるからな……おまえも、気になるんじゃないのか?」
ニヤッと笑ってそう告げる。
「フッ、まあな……」
やはり、すぐ返事が戻ってきた。
「アストの森を探検して帰りたいが、おまえピアンタに来たところだよな? 今回貴重な薬草も手に入ることだし、まあすぐ戻った方が無難だろう」
「別に、二往復ぐらいは大したことではないが……実はちょっと、昔の連れに会ってこようと思っていてなっ。前回寄れなかったんだよ、 いいか?」
「んっ、大丈夫だ。いいぞ。薬師のところに着いたらそのまま行ってこい。あそこは安全だ心配ない」
「フゥ、わかった。そうさせてもらうよ。宿屋はいつものところだよな?」
「そうだ。明日は朝一番でラメールへ戻るつもりでいるから、そのつもりでいろよ」
「ああ、了解だ」
おれより百歳年上の特別な側近。
王太子のあいだ特別な側近たちには、冒険者のようにタメ口で話してもよいことにして、名前もライアンではなくライと呼ばせている。
時がくれば難しくなってくるからな。
それまでは自由に、できればずっとこのまま……
友のような関係がいい。
その方がおれも楽だし、幸せだ。
こいつとの出会いは、運命を感じた。
竜人族の血を受け継ぎ、初代の王と一緒に国を超えた先祖を持つ者。
二十年前、はじめは冒険者として出会ったんだが……
会ってすぐ、跪かれた。
竜人の血が、そうさせたと言っていたな。
あいつが二百八十歳。
おれが百八十歳のときだった。
自分の王だと心が震えて、跪かずにはいられなかったと、あとから話してくれる。
そんなことがあるのかと思うが、あるんだ。
血が騒ぐ……
おれも実は、こいつはおれのモノだと強く感じた。
そいつの名は、ガントリー。
偉大な側近の子孫、直系だ。
王族にはいままで男子がひとりずつしか生まれていない。
だが側近の竜人の血筋は、初代の側近から三代目として生まれた女子が兄妹を産み、その娘も兄妹を産んだことで比較的増えていった。
その側近三代目と四代目の子どものツガイによって、ラメール王国にもともといたドワーフ一族が大量に王の味方についてくれることとなる。
王都ゴタの海岸やダンジョンがあるメルの町やメルの洞窟、それらを掌握し開拓して整えてくれたドワーフ一族や、メルの森やその周辺を守っていたエルフ一族の者たちと側近の子どもたちがツガイとなり婚姻できたことが、ラメール王国の基礎を作っていく上で大きな役割を果たしてくれたからだ。
そして偶然二代目王のツガイ王妃も、大きな部族のエルフ一族だったことで、メルの森と王都ゴタにある城内。
表と裏を王妃がエルフ一族を使い、とりまとめられたこともラメール王国が早く一つにまとまった大きな要因だろう。
初代王は国を作って三百年で王太子に王座を譲る。
それから亡くなるまでの約七百年間、初代王は街づくりをドワーフ族やエルフ族を中心に整えていき時間を費やしたそうだ。
そのあと二代目や三代目の王もそれを見習い、後に続く。
ラメールの街はいまも、王都ゴタの海岸とメルの洞窟はドワーフ一族が中心にまとめているし、エルフ一族はメルの森とその周辺や城内、表と裏を従者となって、とりまとめてくれている。
ありがたいことだ。
ガタンッ!
んっ?! 馬車が止まった、着いたようだな……
ガントもなにか同じように考えていたのか?
ちょっと難しい顔をして話しだす。
「しかし、ピアンタには薬草がそこらじゅうに生えているのに、どうしてラメールにはないのかね。不思議だよな」
おれも知りたい……
「ああ、ホントに……その理由がわかればな」
ピアンタ王国には、そこら中に生えている薬草が、ラメール王国には、決まったところ以外生えてこない。
ピアンタ王国は品質を上げるため、ダンジョンやその近く魔力の比較的多い薬草や肉厚な薬草しか買い取らないほど薬草が多い。
平民もわきまえていて、そこら辺に生えている薬草は雑草扱いに近いようだ。
これがラメール王国に少しでも生えていたら……
もっとポーション作りが楽で、価格も下げれるのだがな。
いまはピアンタ王国からの買い付けで、なんとかなっているが……
国同士の仲が悪くなったり、ピアンタの王の考え方が変わると、わが国の薬草事情に影響してしまう。
この薬草問題がこれから先、ラメール王国の重要課題になるだろう。
それはおのずと、おれの課題となっていく……
側近のガントもそれを考えてくれていたのか?
ガントには珍しく難しい顔をして、何かを考えているのが顔に出過ぎ。
わかりすぎだぞ。
フッ、真っ直ぐな男だからな……
ガント。
おれの信頼できる特別な側近、懐刀だ。
ガチャッ!
いままでガントと交代で御者をしていた、もう一人の側近。
そして王立学校からの友が、馬車に入ってきた。
「ライ、お疲れ様です。ピアンタに着きました」
こいつもおれの、信頼できる側近。
大切な友だ。