16. 大ドクダミの大行進
マヌカが今日も部屋で迎えてくれる。
「お待ちいたしておりました……」
「ご苦労」
「ライ、今日も皆に稽古をつけてきていいか?」
ガントがストレス発散なのか聞いてきた。
「ああ、いいぞ、そのかわりあとでソードから話を聞いて確認しておけよ」
「それは、大丈夫。任せておけ!」
そこ!
そうすぐこたえるところが、ガントだな……
フッ、まあいい。
これからツガイの話もマヌカたちからでてくるだろう。
しばらくガントには身体を動かして、若手を教育しててもらおうか。
ガントは、強い……
戦ってみたいヤツがここには、いくらでもいる。
おれたちは別の部屋で控えているエントの家族に、昨日のパールとの出来事を詳しく聞くことにする。
ハァー、なんとも……
やはり、そうか。
まさか? っと少しは思っていたが、パールはとてつもないヒールが使えるようだ……
上級ポーション並みか?
それ以上?
エントの家族にはもう一度固く口止めをし、皆でパールの優れたヒールに感心していると、またなにやら外が騒がしくなってきた。
なんだ、またどうした珍しい……
どうなっているんだ?
緊急警報?
緊急警報が発令したのか?!
ソードが一歩、おれのそばへ近づく。
「何があったのです?」
「これは……まさか? すぐ、調べます」
マヌカが影を使わず自分から動いた。
それほどのこと?
入れ替わりにガントが部屋へ慌てて入ってくる。
「ライ! 秘密のブドウ畑に、大ドクダミの大行進が現れたぞっ! すぐ応援に若い者たちが向かうそうだ!」
「大ドクダミの大行進ですか?」
ガントの説明にソードが聞き返す。
そこにマヌカも戻ってきて。
「ライアン様、ガントリーの言っていることで間違いありません。三百年に一度ぐらいの間隔でおこる、大ドクダミの大行進のようです」
文献によると、たしか……
「前ぶれもなく、急にくさい匂いがしてワシャワシャ音がしだす。そして匂いのキツイところを探すと大ドクダミが見つかる……と読んだことがあるな」
「それがおこると、どうなるのですか?」
「ソードリー、わたしもはじめての経験で……先代から聞いていた話だと、なにやら気にいった畑に奇妙な踊りをして根付くんだ。それを 一、二時間のうちに抜かないと本格的に根付いてしまい、その畑の栄養をすべて奪ってしまう……だったか……?」
「マヌカ、それでは……ブドウの木の栄養を大ドクダミが奪って、ブドウがすべて枯れてしまうということじゃないですか?」
フゥー。
また大変なことになったな……
「秘密の畑と言うことは、あのおいしいワインだよな……」
「そうだ、ガントリー。大ドクダミは、うまく三分のニぐらい急いで抜いてやると、どこかへ逃げていく。そしてその土地から採れたその年のブドウは、三百年ぶりに一番おいしいブドウになるらしいんだが、今回は……」
「それは大変だぞ!」
「いま若い者たちはここに集まっているのでは? 急いで戻らないと……」
ソードの言葉におれもこたえる。
「マヌカ、わたしたちも行くぞ」
「はい、用意はできています。緊張道路を通りますので一時間かからないで着くかと思いますが、道は悪く揺れます。ご注意ください」
「ああ、わかった……」
いまの特別な道の他にまだ、そんな秘密の道があるのか……
横を見ると、ソードも右の眉が一瞬上がっていた。
ソード……
あとで、注意だな。
ベテランの御者のおかげで、行きよりもだいぶ速い時間で宿屋まで戻ってこれたが、思っていたより揺れたな……
こんなときでも、マヌカは留守番だ。
基地を空にはできない。
若い者が数十人は畑へ向かっているが、間に合うか……
昨日といい、今日といい。
基地の人員配置見直しも必要だろう。
これでは宿屋に危険な何かが急に起こったとき、間に合わない。
緩んでいた基地の環境からすると、良い機会にはなったが……
三百年ぶり、今回は間に合うのか?
マヌカにもよい課題ができたな。
ギリギリまで馬車で向かい、あとは走りだす。
御者に乗っていたガントが、一番に飛び出ていったようだ。
少しおくれて秘密のブドウ畑へ向かう。
向こうのほうでガントの声がする。
「どこだー!? 大ドクダミは、どこにいるーー? みんなーーっ! 大丈夫かーーつ?!」
ハッハ! 相変わらず、大きな声だ。
間に合えばいいが……
「パーール!! またーーっ、おまえかーーっ!?」
なに?
「パールがいるのか? ソード、急ぐぞ!」
「はい、急ぎましょう!」
パール。
名前を聞いただけで、心が弾む……
見つけた!
あれだっ!?
うわっ?! 走ってきた勢いのまま、ガントがパールの両肩をガシッと掴んだ。
「うおっ!」
ガントのすごい声とともに手とからだが離される。
ほーっ、自分で飛んだか?
見事な運動神経だな。
あれだけで済むとは……
おどろいたガントがパールに聞いている。
「いまのはなんだ? 急に手とからだが離されたぞ!」
「あーっ、バリアかな? 急に肩を掴むから……」
バリア?
魔法?
パールは、バリアも使えるのか?
「パール、あなた……バリアの魔法が使えるのですか?」
追いついたソードがおどろいて聞いていた。
えっ、違う? なんと!?
魔道具だと?
ソードも少し目を見開いておどろいているが……
「その話はあとにしましょう。それよりもいまは、大ドクダミです。どこにいるのですか?」
「もういないぞ!」
パールと同じぐらいの歳の男子がこたえる。
こいつは、だれだ?
「そうじゃ! このパール殿が、助けてくれたんじゃ!」
んっ、この村の村長ガメイだな。
「ガメイ! それだけじゃあ、わからないだろ? あんたはいっつも、せっかちだねぇ〜! もっとじっくり話さないとね」
あれは、ガメイの妻ペクメズ……
では、あの男子は孫か?
ペクメズがいろいろ説明してくれたが、まずは大ドクダミが空けた畑の穴を急いですべて埋めていかないといけないようだ。
戻ってきた村の若い者たちで埋めていき、抜いた大ドクダミを集めてまわる。
おれたちは周辺の調査と畑の状況の把握に努めていく。
パールは先にガメイの家へ戻ったようだな。
それがいい。
あまり目立たないほうがいいだろう。
まあ、もう遅い気もするが……
ソードがはじめからいた者に、大ドクダミがでたときの状況を聞いてはいるが、なんせ若い者がすべて基地に集まっていた。
今日ここにいたのは、年寄りと小さな子どもだけ……
ハァーっ、ホントに危なかった。
パールがいなければ、ブドウ畑は全滅だったかもしれないな……
程よいところで、村長ガメイの家へ向かう。
んっ、どうした?
ガメイの家に着くと、何やらパールと家の者たちが話し込んでいるようだ……