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15. 樹海の神秘  

 マヌカが真剣な顔で話しだす。


「シークレット……それが無難でしょう。おまかせください。しかし、思っている以上に重要人物ですね……わが国において、非常に大切なお方です」

「ああ、そうなるな……」


 その日は基地に泊まって、これからの対策を立てていく。

 

 ガントはすべてしゃべってしまったことに、少し罪悪感を抱いているようだった。


 ポツリと小声で……


「おれは、おしゃべりになるのか……」


 ソードと聞いてないふりをしておいた。


 ♢


 朝早くパールとの待ち合わせ場所、宿屋の食堂へ戻ってくる。

 

「おはようございます! みなさん、いつも早いですね」


 かわいい笑顔で、パールがやってきた。


「ああ、いつもの時間。四時半に起きたからな」


 後ろめたさのためか、ガントが言わないでいい情報と、うそをおり混ぜて答えている。


 珍しい……


 よほど、おしゃべりと言われたことがこたえているのか……


 おれのために言われたことだ。

 少しかわいそうだが、思いがけずガントの弱点を見つけることがてきたな。


 ガントは思っていた以上に身内や善人、子どもにも弱い。


 そんなことを考えていると、問題の兄妹がやってくる。


 よかった。


 エントのケガは大丈夫なようだ。

 あの子がパールと仲良くなった妹のコウジュか。


 コウジュとパールが話しているあいだに、目でエントがあいさつしてきた。


 これでもう、マヌカが話を皆に伝えていることがわかる。

 いまはパールの前だからな。

 エントはおれを王太子として扱うことをやめたようだ。

 コウジュは研修前だから、おれのことを知らないのか……


「シッソー水は重いでしょ。馬車前にお父さんとお母さんが運んでくれているんだよ。パール、あっちへ行こう!」


 パールとコウジュはおれたちにひと声かけて、頼んでいた荷物を見に馬車へ行ってしまった。

 その後をガントがいそいそついて行く。


 ソードも気づいたようだ。


「ライ。ガントはパールに後ろめたくてどうしていいのか、わからないのかも知れませんね」

「フッ。あいつは気づいていないが、そのようだな。ちょうどいい。四人のときはパールの担当にしたら良いだろう」

「それで構わないのですか?」

「ああ。パールには、だれかをつけないと心配だ……本来ならば影よりも護衛が良いんだが……」

「そうですね。どんな魔道具を持って帰ってきたのかわかりませんから、実際のところ影をつけるのは昨日のガントより難しいかもしれませんしね」


 ソードの言葉におれもうなずく。


「そうだな。ちゃんとパールにも意識してもらって、おれのように護衛騎士をつけるのが望ましいが……」

「あとは、伯父たちの警護です。パールはツガイ候補でもありますから伯父たちを人質に取られたり、あの薬師様のように言い含められてピアンタに囲われては大変ですからね」


 ソードに言葉に、グッと……

 心? 心臓? が少しだけ縮まった!?


「ハァーッ。まだ子どもだからな。ピアンタにパールのことが知られると伯父を使って丸めこめると思うかもしれないな。それに九歳だが、一応おれのツガイ候補でもある」

「あと一ヵ月ほどで十歳です。人族は十五で成人ですから、あっという間におとなですよ。すぐに大きくなるでしょう」

「そうか……」


 少し早いが馬車までおれとソードも向かい、そのまま出発することにした。


 今日も基地に行くことになっているからな……


 馬車前ではパールとコウジュが楽しそうに話しをしている。

 そのすきにガントがやってきて、今日基地にエントと両親の三人が報告に来ると知らせてきた。

 やはりまだ、コウジュには秘密なのか?

 

 馬車に乗るとソードはパールに、コウジュたちからもらった荷物の確認と整理を勧める。

 パールはうれしそうに自分の部屋へ確認しに行く。


 しばらくして、おすそ分けだと大量の果物を持ってやってきた。

 ソードが受け取り、持ってきた果物を見て苦笑いしだす。


 なるほどな……


 季節を無視した数種類の果物。


 ガントも休憩で馬車に入ってきた。

 

「これは……すごい果物だな……」


 やはり、ガントでも気がついたようだ。

 コウジュの家族は、パールを特別枠に入れたな……


 この機会に少し、ラメール王国の秘密を教えてみるのもいいだろう。

 

 ソードに合図を送る。

 

「パールは、もう気づいていますか? あの樹海のことです」


 ソードが意味ありげにパールへ尋ねる。


「やっぱり! あの樹海はなにか、普通と違うのですか?」

「そう思われますか? わからないのです……でも普通の森林ではありません。こうやって季節に関係なく、果物や花が咲いていますからね」


 ここで、一押し……


「でもこれは、ラメール王国の秘密。ピアンタは知らないんだ」


 真剣に告げておく。


「えっ、でもそんなことっておかしくない? ラメールの近く、国境にピアンタの人いましたよね?」

「それでも知らないのさ! 地形の問題があるからな」


 ガントが説明しだす。


「パールと国境近くを一緒に走っていただろう? 道はそんなに広くないし、最後はまっすぐだったのを覚えているか?」


 国境近くをガントとパール、二人で御者に乗っていたときのことだな……


「あの道は、パールが馬車に戻ってからもずっとまっすぐで、国境を超えてもしばらくまっすぐなんだ。そして宿屋の近くぐらいから樹海側に曲がりだし、そこが樹海の南西の端にあたる」


 パールは何か考えているのか、おとなしく黙って聞いていた。

 ガントがそのあとも王都までの道を説明する。


「道は国境近くの宿屋を超えて次の宿屋ぐらいまで樹海の端に沿って北の方へ向かい、だいたいまっすぐ伸びている。そのあとは南西の方角、道は王都へ向かって曲がり進んでいき樹海からは離れることになるんだ」

「なるほどね……」


 樹海の角がラメール側にあるということなんだが……納得したのか?


 ひと言付け加えておく。


「樹海の神秘なのさ」


 少しはパールがラメール王国に興味を持ってくれたらいいが……


 んっ、笑った?


 ソードが続いて。


「パール、これは秘密ですよ」


 今度は何やら考えている顔?


 ガントがすかさず。


 何も心配いらない、おれたちは味方だから信用してくれとパールに伝えていたが……ガント……



 次の宿屋には当初の予定よりも早く出た分、着くのもはやい。


 今回昼食は途中で済ませた。

 パールにはここで解散と伝える。


 明日は馬車前、六時集合だ。

 

 部屋に入るといつものように、宿屋の者から歓迎のあいさつを受け、すぐ基地へ向かう。


 もうエントたち親子は基地に着いているはずだ。


 コウジュはいないが残りの家族の者たちからパールのことを一度確認して、しっかり口止めだな。


 コウジュもあと十年ほどで、立派な一族の担い手になるだろう。

 

 ありがたい。


 楽しみだ……


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