10. 両替
魔法のスティック?
思わずパールに聞いてしまう。
「これも、登録してあるのか?」
「はい。してあります」
やはりそうか……
「パール。登録してあると、どうなるんでしょう? わたしではこのステックが、使えないと言うことなのでしょうか?」
ソードがアゴに手を当てて、気になることを尋ねている。
たしかにどうなるんだ?
「もらったばかりだから、わからないよ……どうなるんだろうね?」
「パール。おれにちょっと、それを貸してみろよ!」
ガントが試してみると名乗り出た。
パールが目を丸くして。
「えっ! それは……もし、なにかあったらどうするんだよ?」
「少しぐらいなら大丈夫だ。取らないから、貸してくれ」
「えーーっ!」
おどろいているようだが、ソードもガントなら大丈夫だと援護する。
よし、おれも……
「試しに、貸してやってくれないか」
あきらめたのか納得したのか、心配そうにスティックをガントへ差し出している。
パールからステックを受けとるガントは、オモチャをもらった子どものようにうれしそうだ。
んっ、少し顔がヒクついたか?
パールも気がついた?
心配で大丈夫なのかと尋ねているな。
大丈夫だと答えたガントはステックの使い方を聞き、薬草に軽く触れる。
「うわーっ!」
今度はどうした?
叫んでステックを手放し、地面に落としたぞ。
パールが少しあわてて。
「ガント! 大丈夫?」
「あぁ、すごいな……」
どうも、ステックを渡されたときから少しピリピリしていたそうだ。
それを無視して使うと、鋭い痛みが走ったと言う。
「ステックも、重い……」
なるほど。
今度はソードが持ってみたいと、スティックを拾ったパールから受け取っていた。
「うっ! ホントですね、少しピリピリする……それに重い……」
使うことは、やめておくようだ。
やっとおれの順番か……
ソードからステックを受け取る。
クッ!?
「そうだな……パールが気軽に持てる重さではないな。それに、ピリピリくる……」
おれもそのままパールへ返すことにした。
「間違えて持っても、これならすぐに気づくだろう」
登録とは、すごいモノだな……
みんなで納得して馬車まで戻る。
夕食は今日もシルバーウルフのステーキ。
しっかりソードが何かのハーブと漬け込んでいて、それが良い感じになってきていたから今回も期待できるな……
スープもうまい。
「しかしパールは、テーブルマナーをどこで習ったのですか?」
不思議そうに、ソードが聞いている。
そうだ、おれも気になっていた……
「そうだよな? おまえ、キレイに食べるよな?」
ガントも肉を食べ、笑いながら尋ねている。
「えっと〜 辺境伯の侍女さんや食堂で一緒に食べているみんなが、わたしが冒険者になるなら、お貴族様たちとも付き合っていくことになるだろうからと、食事のたびに指導してくれて……」
「それは……たいへんな食事でしたね……」
ソードが目尻を下げ、気の毒そうに声をかけていた。
「はい……とっても……」
少し遠い目をしたパールがこたえている。
「これだけは、すぐに学べるモノではないからな」
気持ちは、わかる。
マナーは身につくまでがたいへんなんだ……
冒険者になるまでの六歳で、こんなことまで身につけたのか?
まだ小さな子どもだぞ。
食事の時間は、窮屈でつらかっただろう……
明日は国境を越える。
超えてしまえば、もう何も心配はない。
安心だ。
そんなことをうまいお茶を飲みながら考えていると、ソードがこれからの予定をパールに説明する。
「明日国境を越えますが、その日は国境すぐの宿屋で宿泊します。そして次の日もう一日走って、今度はラメールの村はずれにあたる宿屋で宿泊し、その次の日の遅くとも昼にはラメール王国の王都ゴタへ到着する予定です」
パールはソードの話をじっと聞いて、軽くうなずく。
「わかりました。じゃあわたしは、ゴタの噴水広場で降ろしてください」
えっ!?
パールをどこで降ろすんだって?
ゴタの噴水広場?
そんなところでパールが馬車から降りる?!
「そんな場所でいいのか?」
思わず聞いてしまった。
頼まれている物の届け先がその近くだと?
城からも近いし治安の良いところではあるが……
そこから馬車で軽く半日、数時間で我が家メルの町へ着く。
パールが王都ゴタを観光して、メルの町にくるころには家と金貨を用意しておくと伝えておいた。
人がこんなに心配して、しんみりしているのに……
なにぃ?!
明日から泊まる宿屋の宿泊費?
そんなの、いるわけないだろ?!
子どもがそんな心配しているのか……
「宿泊費?! そんなモノいらん!」
それに金は持っていても、現金はないはず……
「それよりパール? いまから暮らすしばらくの間の金はあるのか?」
ほほう……
細工師の親方が少し金で両替したと。
それなら金の確認も兼ねて、おれもしてみるか。
金貨を十枚だす。
なんだ?
難しい顔を一瞬したと思ったら……
「んーっ、もう少し細かいお金はありませんか?」
もっと細かい……?
ソードがスッと、小袋をだした。
「銀貨が百枚入っています。それと金貨でどうですか?」
ソードの機転で、パールは笑顔になる。
そうか、もっと細かい金か……
「じゃあ、金貨十一枚分で! 金は、砂金か塊のどちらが良いですかね?」
どちらも見てみたい……
「選べるのか? 両方はダメか?」
パールは軽くうなずくと、腰のカバンから魔法袋を取り出す。
ハッ!?
これが、パールの魔法袋……
時間停止か?
見た目はおれたちの袋と変わらないな……
その中から用意していたのか、二十センチ弱ぐらいの細いバンブの木に入っている砂金と親指と人差し指で輪っかを作ったぐらいの金の塊を二個ずつだしてきた。
「おーっ!」
ガントが声を上げている。
相変わらずだな……
ソードがサッと金の塊を手に取って調べだした。
ガントもすぐバンブの木に入った砂金を手のひらに出して調べだしたぞ。
こういうことは素早いな。
おれもすぐ手にしたいが、少しの我慢だ。
直ちにソードが調べた安全なモノをこちらに渡してくれる。
「ホントに、金だな……」
ガントが声をもらす。
「あぁ、金だ……」
ガントにつられて応えてしまった。
「そうですね……金ですね」
ソードも一緒のようだ。
これは……
「パール。この金はすごくよいモノで、両替ならもらいすぎになる。持って帰ってきた金はすべてこのレベルなのか?」
パールに確認する。
「うん、全部こんな感じかな? あといままでの食事代もかねているから、どうぞ受け取ってください」
パールは大したことではないように告げる。
「おい、パール。これは、すごいぞ! 純度の高い金だ! おまえこれをどれだけ持って帰ってきたんだ……いや、いい……言うなよ! 怖くて聞けん!」
ガント、興奮しているな。
気持ちは、わかるぞ……
「本当に、すごく良いモノです……」
ソードは冷静だ。
「パール。これなら……先程いっていた倍、両替してくれるか?」
「大丈夫ですよ。塊と砂金、どちらが両替のときは良いですか?」
なんだと?
両替分も選べるのか!?
どれだけ持って帰ってきたんだ……
すごいぞパール!