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サトミの『ホワイトボックス争奪戦』

ちっ。ここまで来る競争では負けましたわね。



それに。この洋館が、わたくしの家よりも大きいのも腹が立ちますわね。



優雅にボートから降りると、複数ある入口から1つを選び前に立つ。


全ての扉に張られているであろう紙を読み始める。『鍵がかかってある部屋にあるホワイトボックスを手に入れろ』。



サトミ「結局、最後の最後まで『鍵』を手に入れて『ゴールに向かう』ってルールでしたわね。ほんとバカの1つ覚えでつまらないですわ」



ドアノブを回し扉を開く。



サトミ「そういえば、わたくしが読んでもらった『ホワイトボックス』の『絵本』では屋敷が舞台でしたわよね?」


サトミ「なのに、洋館になっていますわ」



ふと、そんな事を思い出し、呟きながら洋館の中へと足を踏み入れる。が、その思考が次へ移る事は無かった。



右足ふくらはぎに違和感を覚えるよりも速く、体制を崩して前方へと、つんのめる事になった。



左膝を床にぶつけると同時に手をつき。自分がどうなっているのか頭で整理できる時、ようやく自分の顔が地面すれすれにある事に気がついた。




サトミ「なっ、何?なにが起きましたの?」



手に力を込めて、立ち上がる動作へと移行した時。異変に気付き右足に視線を移す。



サトミ「・・・」



その一瞥だけで、サトミは既に戦闘に巻き込まれている事を悟る。


だから。一瞥と同時に、体に食い込む弾丸を『能力』で防ぐ事ができたのだ。



バチン!左肩から心臓にかけて放たれた弾丸が、体に食い込んだ瞬間に、ウニの様に体からヤリが生えて防御した音だ。


サトミ「左から!」



言葉を放ちながら、ハンマー、オノ、つるはし等を床に向かって『能力』を放つ。



押し出されたサトミの体が、転がるように射程の壁になる通路へと向かう。その最中に『敵』の視認を忘れない。


だが、転がりながらの確認は正確性が劣ってしまうが・・・。



サトミ「くっ、よく見えなかったですわ。でも、あの。あの大きさ」



デカイ、とても大きく見えましたわ・・・。ステージ2のあのデカブツですわ。


わたくしが横に5人並んで歩ける通路・・・その半分の大きさを占める、黒い物体。



サトミ「あのデカブツ、またですの?鬱陶しいですわよッ!?」



思考が結論に辿り着いた所で、ふくらはぎへと視線を移す。穴が空き、血が出ている事を確認すると。


とっさに、止血しようと両手で抑えるが、ドクドクと溢れ出る血が止まる気配は無い。



サトミ「コレ、やばいですわね。『穴』って分かるくらいに大きい『穴』ですわ。弾丸が貫通したようには見えない程に」



サトミ「たしか、シゲが言っていましたわね、銃弾には大きさが色々あるって・・・コレは何ミリくらいの銃弾なのかしら?」


サトミ「ちゃんと話を聞いておくべきでしたわね、ふふっ」



あまりにも血が止まらないせいで、笑ってしまいますわ。・・・どうしましょう。ホントに。


全然思いつきませんわ。あのデカブツも移動しているに決まっていますし、あんまりモタモタしてたら死まで一直線ですわよ。



サトミ「ふーふーふー」



大丈夫、大丈夫。こういう時こそ、深呼吸ですわよ。ふー。大事な事は?この『絵本』の世界はわたくしの為にある可能性が高いですわよ?


成長よ、成長するのよ。わたくしは『成りたい自分』に成る為に、ここまで、ココまで!『我慢したのよッ!』


サトミ「もう『我慢するのは終わりよ』、全部!全部ッ!手に入れて見せる!」



『コレ(能力)も私のモノよ』。



能力を使う。その思考を捨るのですわ、皮膚、筋肉、血液・・・それらを『近接武器』に変形する事ができる。そういうモノと思ってしまえば良いのですわ。


そう、思ってしまえば良い。RQも言っていましたもの。ここは『絵本』の中ですわ、なんでも出来る、なんでも良い!



血にまみれた両手から、皮膚を触れる感覚が、鉄の固さへと変わる。血管を小さな管の鉄パイプとして変形させて繋げていき。


皮膚は伸縮性がある鉄の板を妄想して治していく。穴が空いてしまった肉は、鉄の糸を妄想して何重にも縫う。


穴が空いていた部分が『鉄』が詰め込まれている状態へと変化して、能力を解除すると・・・元通りに成った。



サトミ「完全再生ですわ、ふふっ、楽しくなってきましたわね」


サトミ「接近戦で勝てないから、銃を使ったんでしょうけど?今のわたくしに勝てるとお思い?」





キャバ嬢視点。 どこかの部屋。



キャバ嬢「さっさと出てきなさいな、ウニ嬢さん」


ぶかぁ~っと深くソファに体を預けながら、吊らされてるモニターを見ていた。



リラックスしている状態だと自然と斜め上に視線がいくので、その状態でも見れる位置に工夫している。



画面には、スナイパーライフルを持っている『プローテの視点』が映されていた。


サトミは治療している最中にも移動して、殺害に来ていると考えていたが。最初に狙撃した位置からピクリとも動いていなかった。



キャバ嬢「ん~。思ってた以上に時間かかってたのね。プローテを動かそうかしら?」


キャバ嬢「すぐに出てきて、私のスナイパープローテとバチバチやる予定だったのに、もしかして他のルートから不意打ちで倒そうって魂胆かしら?」



ありえるわ。私のプローテはL字通路の角に配置させてるから~。



キャバ嬢「プローテ、もう1つの通路も確認して」


画面が動くが、誰もいない、なんの変化もない通路を映す。



キャバ嬢「んんんー。つまんない。待ってるだけじゃ、つまらないわ」


攻めよう。そう決めるとパチンと指を鳴らし、隣にいるカンガルーに向かって


キャバ嬢「肉弾戦用のプローテを出しなさい。足も使うヤツよ?ボクサーじゃなくて総合格闘技のプローテよ?」



キャッキャッ!っとマスコットキャラの様な声を出しながら手をポケットに突っ込むと、プローテの首根っこを掴み引きずり出した。



キャバ嬢「あんた、ウザい顔しなかったらちゃんと可愛いじゃない。なによキャッキャッ!って。まぁ私が言わせてるわけだけど」


巨大な体が移動してるとは思えない程、静かに部屋の外へと向かう。ソレに向かって「別ルートからサトミを始末しなさい」



と、相変わらずリラックスしながら指示をする。



キャバ嬢「あんたの腹の中にある『鍵』は私が貰うわよ」


おっと、そうだった。今のこの画面は別ルートの道だったわね。



キャバ嬢「スナイパープローテ、ウニ嬢が入って来た方向の道を向きなさい」


再度、画面が動く。なにも変わらない通路・・・そう思っていたが。



キャバ嬢「な、なんですのッ!?アレは!」


ガバッっと勢いよく立ち上がり、画面を凝視する。



キャバ嬢「アレって、こんなにも・・・真っ黒な球体に見えるなんて・・・」





サトミ視点 プローテとの戦闘開始



慣れてきましたわ。この『移動方法』に。



慣れてきた?実際の彼女はただ、レッドカーペットの上を歩くように優雅なのに?


なんなら気分がとても良いのか両手さえ広げているのに?銃で攻撃してくる相手に撃ってくれと言っているようなものじゃないか。



だから、当たり前の事が。当たり前に起きたのだ。銃声の無い中、銃弾がサトミを襲う。



シュルル・・・。何かが自分に当たった。そういう感覚はあったが今の感覚が、銃弾を凌いだ事だとは気ずく事はなかった。



サトミ「ん?なにか巻き込んだかしら?まぁ良いですわ、このまま、このまま前進してミンチにしてやりますわ」



ミンチ。その言葉が言い過ぎじゃない事を『能力を使用しながら歩いている彼女』を見ている者なら一目瞭然だろう。



今の彼女は『完全な球体がゴロゴロと転がってきているように見えた』。そこに放たれた銃弾は、砂の様に切り刻まれてしまい、風に吹かれて無くなった。



ただ、『能力』を使用しているだけではない。チェーンソーの様に武器を『動かし続けている』。そのせいかシィィィィィーと空気を切る音がずっと続いていいる。



慣れないという言葉は、皮膚から武器を出したうえで、細かく左右上下に動かすという『イメージ』が難しかったからだ。


ずっと、『出して、戻す』この2つしか使ってない故に初めての挑戦だった故だろう。




サトミ「とても良い気分ですわ。もうわたくしに敵は居ませんわ」


サトミ「今のわたくしなら、お父様のようになれる。いえ、もう既に・・・」


サトミ「お父さん、今の私なら・・・あの時の『香月お嬢様』と同じようにお話できる?」


サトミ「私を1人の女性として見てもらえる?私はもう『自立』できる精神を持ってる?」



サトミ「私はもう、自由になった?」



優雅に歩く。スナイパープローテが膝をついて、何発も何発も、球体に向かって撃ち続けるが全てが無駄になっていく。


何事も無いように、歩き続けたサトミは、気持ちよさそうな顔で敵に近づき・・・。



シュルシュルシュル・・・と。シュレッダー音を鳴らし、血を撒き散らしながら『敵をミンチ』にしていった。



サトミ「スーハー」



1つ深呼吸し。



あの時の出来事を思い出す。『香月お嬢様』が来た時、お父さん達は自分の立場を理解しているように立っていた。『お嬢様』は座っていた。


私達の家なのに、身分の違いというヤツを見せつけられた。私は『腹が立った』。私にとって両親は『絶対の神』みたいなモノだったのに。


もっと上がいる事が許せなかった。でも、私も。両親に『香月お嬢様』と同じような扱いを受けたいと思ってしまった。そしたら『自由に成れる』と思ったから。



だから『マネ』をした。でも、目指せるのはお父さんの背中だけだった。だから筋トレも続けたし勉強も頑張った。


『お嬢様』としての言葉使いは・・・んーコレは間違いだらけだったかもしれないけど。


手に入れられそうなモノは、『全部欲しかった』。両親からの眼差しも。香月お嬢様の様な自由も。



サトミ「私が『欲しい』のは。『上を見る事無い人生』よ」



武器を全て戻した。今のサトミに、もう敵なんて存在しないだろう。



天上天下唯我独尊。サトミの誕生の時である。



☆☆



カツカツと足音を立てながら、胸を張って廊下のド真ん中を歩き、角を曲がる。


2階へと続く階段の前に、遠目でも誰かが居る事を目視した。何をしているのか分からないが空中を上下に浮遊しているように見えた。


サトミ「3戦目かしら?すぐに終わらせてあげるわ」



『能力』を発動すると、自信を守るように球体に包まれる。その状態で歩き始めた。



少しづつ、浮遊している存在が誰なのか分かり始めた。そして何をしているのかも。


サトミ「やっぱり、キャバ嬢ね」


RQに用意して貰ったのだろう。ぶら下がり健康器に右手でバーを掴み、左手は右手首を掴んでいた。その状態で懸垂していた事で遠目からは浮遊している様に見えたようだ。



呑気にトレーニングなんかしている相手に、最初から本気でヤル必要は無いわね。


『能力』を解除し、近づいて行く。勝負が始まった瞬間に勝利を収められる距離、射程距離まで近づくとサトミは語りかけた。



サトミ「スナイパーの巨体と、ただただ切り刻まれる為に突進してきた巨体を私にぶつけて来たのはアナタよね?キャバ嬢」


キャバ嬢「ふー。ふー。ちょっと待ってくれない?ウォーミングアップ中なの」



規則正しい呼吸をしながら、バーを掴む手を変えて懸垂を続ける。



サトミ「・・・ハァ?なんで私が貴方を待たなければいけないの?」


言葉通り。サトミは待たなかった。即座に『能力』を発動し、キャバ嬢を切り刻みにかかる。



シュゥゥゥゥゥーと空気を切る音を鳴らしながら前進した。が。



サトミ「??」



目の錯覚か?私の目測を間違えた?射程距離内だったハズなのに・・・。どうして?なんでキャバ嬢を切り刻めてないの?


どんどん、進む。早歩きへと変わり、小走りになり。いつのまにか全力でダッシュしていた。なのに。なのに。



サトミ「懸垂しながら、どうやって後退しているっていうのッ!?」



キャバ嬢は、サトミの『能力』のギリギリの距離を保ちながら、どういう訳か後退し回避していた。


キャバ嬢「おっけい。鬼ごっこ、しよっか?」



ようやくバーから手を離し、地面に足を付けたキャバ嬢は後ろにステップしながら避け始めると同時に、ぶらさがり健康器がバラバラに切り刻まれて粉になっていく。



貴方は後3ステップで突き当り、終わりよ。



1、2、3!その瞬間。天井が巨大な手へと変形し、キャバ嬢を掴んで引っ張り上げた!


ちゅぽん。と、そのまま、水面に吸い込まれるように天井へ沈んで行った。



サトミ「は?」


天井から手が生えた?なんで?コレもキャバ嬢の『能力』?



『魅了』が『成長』したら出来るようになるの?


サトミ「・・・」



おっと。考えている場合じゃない。ステージ2の借りと。ココに入って来た時の借り・・・返さないとね。



サトミは階段まで戻るなんて微塵も考えなかった、その代わりに。


壁に武器を突き刺してウニの様に、上へと向かう。天井は簡単、高速に自身を軸に回転させて、細断し砂にしてしまう。



シュルシュルという音と共に2階へと辿り着くと、驚いた顔をしたキャバ嬢が立っていた。


キャバ嬢「おぉ・・・こわっ!下から球体が出てくるの怖いわ」



そんなセリフを言ってる最中にも、また天井が巨大な手に変形してキャバ嬢を掴み、上へと連れていく。



サトミ「あぁ!もう、うっとおしい」


また追いかける。


サトミ(たしか、4階は無いハズよ。この階より上には行けないハズ。下に逃げられる前に仕留める!)



3階に着くと、またも天井へと連れてかれるキャバ嬢。



サトミ「は?上ぇ~?」


とにかく、追いかけて上へと昇る!上に昇るコツも上達し、シュルシュルという音からシィィィィ・・・という音へと変化していた。



スゥゥゥー。と天井を、砂よりも細かく細断していくと。屋根の上に辿り着く。



キャバ嬢を視認すると、タタタっと背中を向けて走っていた。


サトミ「運動なら得意よ。走りなら絶対に追いつける」



走りながら『能力』を駆使して、さらに加速していく。



サトミ「私の勝ちよ」


勝利宣言し、最後の1歩を踏み出る・・・が。ドポンっと下に落下していくキャバ嬢。



同じ屋根を走っているハズなのに、私は落ちないわけ!?



ダダダっと、そのまま走ってしまうが『能力』で武器を屋根に突き刺し、ビタッっと止まり。屋根を削り下へと落下を始める。



サトミ「いい加減にしなさい!こんな事しても決着なんてつかないでしょう!」



3階へ落下中、キャバ嬢が居ない事を確認すると、さらに下へ。


2階の落下中、1階へと落ちていく姿を確認。



そして1階、廊下に居たのはキャバ嬢と、私の真下にカンガルー。



サトミ「無駄よ」



スゥゥゥゥー。カンガルーをスクラップしていき、華麗に着地する。


スクラップされたカンガルーの血が付着し、わずかに違和感を覚えながら。



サトミ「??」



液体?皮膚っていうか、武器が濡れてる?あぁ、だから皮膚で合ってるか。



サトミ「・・・ッ!?」



とにかくキャバ嬢を。そう思い、走ろうとした時、臭いに気がつく。



サトミ(この臭い・・・ト)



キャバ嬢「無敵かと思われた『能力』にも『欠点』ありってね」


火を付けたジッポライターが、サトミへと投げ込まれる。



ボォウゥゥゥゥ。



サトミ「ーーーーーーーーーー」



サトミの悲鳴が廊下中を響きわたる。


熱いアツイ暑い厚い篤いあつい。痛い居たい遺体板井遺体位タイ射たいいたい。


あまりにも。あまりにも過ぎて。のたうち回る。のたうち回った気がする。


感覚が焼け死んでる?なのに、なんで?こんなに熱い?痛い?って事はまだ、生きてる証?


今の私は生きてる?本当に?じゃあ殺してよ。なんで死ねない?こんなにも、こんなにもなのに!



サトミ「ーーーーーーーーーー」



体を、床擦りつけ。壁に叩きつけ。背中を限界まで反ったり。逆に丸めたり。


頭を抱えたかと思うと、内にある熱を放出するように悲鳴をあげる。その姿を静観し続けるキャバ嬢が呟く。


キャバ嬢「もっと、長い時間、苦しんだ気がする。だけどこんなに、短かったのね。永遠とも思える地獄だったんだけどなー」



ジュゥゥゥゥゥ・・・・。肉の焦げる臭いを撒き散らしながら、炎が小さくなっていく。


炎が消えた後に残されたのは。黒く焦げた死体・・・では無く。『完璧な黒い球体』だった。



武器を高速で動かして、球体にしていた時とは違う。この『球体』そのものが、1つの『武器であり防具』にも見えた。



ドクン。ドクン。と『球体』から音が放たれる。


キャバ嬢「心臓の音。漏れてるじゃん。ふふふ」



笑いを1つ取ると、『球体』となったサトミに向かって話かけた。


キャバ嬢「聞こえてるでしょ?そろそろ決着つけましょうか。待ってるわ。向こうの部屋に来て?」



『球体』から背を向け。歩きだす。



キャバ嬢「カンガルー、アレを」


床から、ゴポゴポと泡がわくと。泳いできたかのようにカンガルーが現れ。ポケットから束を取り出す。


それを受け取ると、廊下にばら撒きながら歩いていった。




☆☆☆



最後の悟り。


意識が少しづつ覚醒しているのが分かる。夢を見ている感覚の中で現実の風景が同時に混ざっているような。そんな状態。


救われた?何があったんだっけ?何かから解き放たれたいと思ってたような。



視界が少しずつクリアになる。同時に思い出す。自分が燃えやされた事を。



サトミ「あぁ、しくじったんだ。また負けた。また、また、また」



床を。壁を。ヒザを殴る。『燃やされる』それが弱点なんて思いつきさえしなかった。


発想の違い?それとも生きて来た年数?戦闘経験?なんだっけ?NPCだっけ?キャバ嬢はこの世界の住人だから最初から知ってたとか?



サトミ「あぁ、なんでもいい。どうでも良い。」



『勝てない』そんな言葉が脳裏に浮かぶ。だけど。口に出したくない。


『勝てない』そう思ってる自分がいる。でも『勝てる可能』を捨てたくない自分もいる。



「決着をつけましょう」そうキャバ嬢が言葉を放った気がする。なんとなく、廊下の先に視線を向ける。



サトミ「あぁ。うそでしょ」



床にばら撒かれているソレを見ると。力無く四つん這いで、ソレの元へと移動し始める。



サトミ「ああ。そういう事。そういう事だったのね」



床に落ちていたのは。『大量の1万円札』だった。


なにを想ったのだろうか?完全に脱力した状態でペタンと座り込んだ。



サトミ「はぁ~」


天井をあおぎ、大きく息を吐いた。



サトミ「ありがとう。ありがとうござます」


感謝の言葉を放ったと思うと、大きく深呼吸を繰り返す。満足すると。



サトミ「よしっ!決着をつけましょうキャバ嬢」


すっ。と立ち上がったサトミの表情は『何も無かった』。戦闘に赴く時の『緊張』や『覚悟』も。


自らの力の『慢心』も『弱点を突かれる恐怖』も。さらに可笑しな事に、靴を脱ぎ、テキトーに放り投げる。


次に、ニーソックスまで脱ぎ始め、またも放り投げると。



サトミ「全ての『価値』を『無価値』にしましょう。この行為にこそ『自由』がある!」


全てを平等に踏み潰しながら、キャバ嬢がいるであろう場所へと向かった。




☆☆☆☆


玉座の間? 最終対決。 サトミvsキャバ嬢



2人は既に対峙していた。


女王様が座るであろうイスに座らず。ひじ掛けの上に、仁王立ちしているキャバ嬢。



それを見上げるように、同じく仁王立ちするサトミ。



少しの沈黙の後、静寂を切り裂いたのはサトミだった。



サトミ「貴方に感謝しますわ、ありがとう」


キャバ嬢「気に入ってくれた?良かったわ」


サトミ「でも。借りは返そうと思うの、だから、コレで終わりにしましょう?どちらが勝っても」


キャバ嬢「えぇ。そうね。私が勝つけど」



イスの後ろに隠れていたカンガルーが姿を見せると、ポケットからプローテが2体現れる。


サトミの左右にプローテが配置につく、既に射程距離だ。


それに対して、サトミは静かだった。まるで何事も無いかのように落ち着いているようにも見える。



キャバ嬢「過程も、結果も。既に無価値なのね」


サトミ「貴方が教えてくれたのよ」


キャバ嬢「ふふっ。そうだ、せっかくだし、音楽かけよっか」



カンガルーがポケットからスマホを取り出し、イントロダクションが流れ始める。



サトミ「私もこの曲好きよ」


キャバ嬢「知ってる。だから開始の合図は」



全てを言い終わる前にサトミが口をはさむ。


サトミ「分かったわ」



ーーー


長かった気がする、この5日間。今思えば、たった5日間。



だけど、私が欲しかったモノは『全部手に入れた』。お父さんと対等に話が出来る『自信』も。


権力という力を持つ者の『姿勢』も、まぁ?コレに関しては言葉遣いや立ち振る舞いをマネしてただけだけどさ。


『能力』を手に入れても、結局の所。使って、使って、使って、たまに考えて、感じて。もっと使って『成長』させるしかない。



トレーニングや、勉強や、コミュニケーションと何も変わらなかった。


そして、最後の最後に悟ったモノと言えば・・・。



全部『無価値』だったって事だ。



思い出せば、初日から答えが出てた。『死んでも意味ない、終わりが無い』。


頑張ってステージをクリアしてよかったけど、別に放棄しても良いって条件だった。『どっちも同じ価値だった』



『全部無価値』それを知る事ができたから・・・。



何かに執着する必要のない『自由』を手に入れる事ができた。



ありがとう。


ーーー



そして今、イントロダクションが終わる。



サトミ「ただの大人に成りにきました♪」

キャバ嬢「ただの大人に成りにきました♪」


2人が手を広げ、全てから解放される。


左右にいるプローテの拳が襲いかかる。同時にサトミの全身の肉が包帯が解けるように、めくれていく。


ソレが切れ味のある武器へと変形し、部屋ごと全てを輪切りにした。



キャバ嬢の血液が記録用カメラに飛び散った事により、これ以上の記録は残されていない。




キャバ嬢vsサトミ  サトミの勝利

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