再生不要 オウタの回想4 『空き教室』
入学して1週間がたった、月曜日。
『担任』に呼び出されて、俺は今。職員室にいる。
偶然だろうか?『担任の先生』は義母さんの知り合いでもあり、近所付き合いもある『お姉さん』だった。
義母さんに『支配』されてるような『気分』がより濃くなってしまう。
呼び出された内容は
トキノ。シゲ。サキ。コウタ。サトミ。以下5名を集めてボードゲーム部を設立して欲しい。
部室は1階廊下にある『空き教室』を使って欲しい。との事。
顔写真とクラス。そして部室の鍵を渡される。
え?なんで?俺は自由にクラブを選べないって事?って聞くと。
大事なのは『6人で設立』する事。らしい。
『活動』するかどうかは問題ではないから、とにかく名前だけでも入部させるように勧誘して欲しい・・・との事。
ちなみに、複数のクラブに所属する事が可能だから安心して。とも言われた。
「えー?なんで俺?先生からみんなに言えば良いじゃん」
「さぁ?『校長先生』から名指しで指名されたのよねー、私も意味不明なのよ」
ハァ~。なんか良い様に使われてる気がする。『支配』されてる気分が、また一層に強くなっていく・・・。
それでも、なんでだろう?従ってしまう。やらねーよバーカ!って突っ張る事ができないんだよなー。
火曜日。
最初に勧誘しに行ったのは『トキノ』っていう美少女だ。
写真を見ると、ちょっとギャルっぽい印象で、話かけ易いと思ったからだ。
「君がトキノ?急で悪いんだけど、ボードゲーム部入らない?」
「えー?ボードゲーム部?地味そうだし嫌!ってか君だれ?」
「あーごめんごめん。俺、オウタって言うんだけど、部員募集中っていうか集めろって言われてるっていうか・・・」
「??」首をかしげる。
「あー、とにかく、ボードゲーム部を設立したんだ。名前だけでも貸してくれないかな?」
「名前だけでも・・・?って事は君、私の事知らないの?」
「??」次はオウタが首をかしげた。
「ふーん、知らないのに勧誘したんだあ・・・『名前だけ貸して』・・・ねぇ~」
じろじろと、オウタの全身を観察し始める。
「まぁ?そういう事?」
とオウタは言う。『自分が知らない事』で興味を持たれたらしい。
「良いよ、名前、貸してあげる」
放課後
『トキノ』は勧誘できた。次は男子だ。よし。
見た目判断で話ができそうな、『コウタ』を勧誘しよう。
「オウター」と元気な声で呼んでくる女子の声。
「おうトキノどした?」小走りに来たトキノが傍に来たので返事をする。
「他の子も勧誘するんでしょ?私も見ておきたいなーって思ったんだけど・・・良い?」
ズイっと顔を寄せて聞いてくる。
「お、おう。じゃあ一緒に行くか」
か、可愛いな・・・。ポッっと顔を赤らめて、目を逸らしながら答える。
『コウタ』の写真を見ながら、廊下を移動していると。トキノも写真を確認するため体を密着させてくる。
近っ!って思っていると。
「あの男子が『コウタ』じゃない?」
トキノが指を指した先に、写真に写ってる男子がいた。
「おっ、ほんとだ。よしっ、行こう」
部活に行く生徒や、帰宅部、友達と喋りながら歩く人の、大半が階段を下に降りている中、
『コウタ』が階段を上って行くのが見えた。
「上に行くっぽいねー、どこ行くんだろ?」
「ちょっと気になるなー・・・尾行してみるか!」
ちょっとしたイタズラ心でそんな事を言ってみた。
「オウター・・・いいねっ!」
びしっ!っと親指を立てる。
まぁ別に特別な事はしてないけどさ(笑)コソコソしながら追いかけただけ。
『コウタ』は普通に『図書室』に入って行った。それを確認すると。トキノが、ぼそっと言った。
「ガイシャは『図書室』に入っていきました」
「こちらも確認完了、突入するっ!」
「私はここで待機してます!ご武運を!」
俺達のノリは無茶苦茶だったが。『コウタ』の勧誘はトキノの援護によって成功した。
水曜日
朝の授業が始まる15分前『シゲ』という男子の勧誘の為、絶賛待ち伏せ中。
トキノに援護の依頼をメッセージを送ったが、「やりたい事あるんだー、いけたら行くー」
と脈無しの返事が来た。
写真を見ながら、教室に入っていく生徒達を確認していく。
(これは・・・ちょっと恥ずかしいな)
違うクラスの男が立ってて、チラチラと持ってる写真と見比べてるんだから、そりゃ視線を集めるわけだ。
そんな羞恥心を抱きつつ確認していると。『シゲ』を見つけた。
さっそく話しかけて、勧誘するが。まぁ手応えは無かった。
こりゃ無理だな。と思っていると、トキノが動画を撮りながら援護に来てくれた。
トキノって凄いな。俺を含めた全員を虜にしてないか?
放課後
男子はトキノの活躍?のおかげで部員になってくれたので。
あとは2人の女子だ。名前は『サキ』と『サトミ』。
今思うと、顔写真に『名前』が書いてあるけど、なんで『フルネームじゃないんだ?』
トキノは、ノリで突っ込んでこなかったけど。いきなり下の名前で呼ばれるのって警戒しないか?
でも、苗字を書かれてないからどうしようもないけどさ。
「いきなり名前で呼ぶなんて失礼だと思わないのかしら?」
そう言われるのも、もっともなんだよなー。確かに過ぎるんだよなー。
でも、どうしようも無いんだよなー。
「わたくしの事は『お嬢』とお呼び、それ以外では返事するつもりありませんわよ?」
制服に着られてる感がある、新入生の俺達と違って。サトミはキッチリ着こなしてる様に見えた。
お金を持っています!って感じからの気品からだろうか?それとも自信たっぷりに振る舞う姿勢からだろうか?
ともかく、存在感が既に『お嬢様』って感じ。
「ボードゲーム部・・・校長先生からの指定?ふーん・・・気になりますわね」
「いったい何故、わたくし達が選ばれたのか・・・それも分からないですわよね?」
「部員になれば分かるかもしれない?そうですわね・・・何故選ばれたのか、それが分かるなら、まあ、名前だけ貸してあげますわ」
おぉ、以外と話ができる人だった!なんか上から色々言われて、散々罵られたあげく、断られるかと思った!
でも、俺も気になってたんだよな。なんで俺達が選ばれたんだろ?。選ばれたのか?ランダムだったのかもしれないな、まぁいつか分かるかも?
木曜日。
朝の授業が始まる15分前。最後の勧誘相手『サキ』に会いにきた。
初めて会う人達を勧誘するって、普通は無理難題のハズなのに、ここまでスムーズに来れちゃったなぁ。
不思議だ。俺って、以外と『魅力』あるんじゃね?
正直いうと、「無理でした」って報告する事になると思ってたんだけど。もう全員いけそうじゃん!
あとは勢いでなんとかなるだろ。・・・と思ったんだけど。事はそう簡単にはいかなかった。
『サキ』という名前の女子を見つけたので、いつもの様に声をかけたんだ。でも・・・無視された!ガン無視!
えぇーーー!こんなに?ここまで露骨な無視ってあんの!?
俺の声が小さかった?そんな事言われた事ないよ!?
でも。ちょっと、ちょっとだけ予想はしてたよ?『写真』を見るにコミュ障なんだろうなーって。
前髪で目を隠してる写真って意味あんのかな、とか思ってたけどさ!
中学の時、イジメられてそうとか。アニメ好きで不登校かもとか、この『写真』だけで分かる情報だったけどさ!
うおー!こんなにも『無視される』ってダメージでかいのかよ!めっちゃ心が痛ぇよ!
くそう!援軍を要請しよう!何度も何度も助けてもらう事になるけどトキノーたのむー!
昼。トキノに援護の要請をすると、何故かシゲとコウタまでくっついて来た。
『サキ』はパンを食べながら、小説を読んでるみたいだ。
他の生徒に、ごめん!と言ってる顔をしながら片手で謝りながら、教室へと入っていく。
セカンドトライだ!・・・トキノを含めた4人の『勧誘合戦』が始まった!
な!なんてヤツだ!。めっちゃ迷惑そうな顔しながらこっちを見る。
無言。無言。無言!
えぇ?ここまで一方的に!さらに4人に言葉を投げかけられたらさ、なんか言わね?「名前だけでも貸したくない」とかでも良いのに!
パンを食べる手も。小説を読む手も。止まってるのにー!嫌な顔してこっち見てくるだけ!
30分の格闘を経て、俺達は諦めた。
シゲとコウタは早々に「もう諦めようぜ?」なんて言ってくるけどさ、んー!
なんだろう。諦めたくない!『サキ』だけは諦めたくない!なんかさ、そう思うんだよ!
こう・・・『擁護心?』みたいなのが沸いてきちゃうんだよなー。
嫌な顔してるけど、そんな顔を・・・こう・・・笑顔にしてやりたいんだよなー。
放課後
「貴方ねぇー。それって、ただのお節介じゃありません事?」
『お嬢』に援護射撃をしてくれないかと頼みに来たら、そんな風に言われた。
そうなんだけどさ。ダメか?
「あら、認めるのね。でも返事も何もしないし。嫌な顔されるんですわよね?ほっといた方が彼女の為じゃありません事?」
『サキ』の為って言うならさぁ。俺の傍っていうか、トキノ達の傍にいた方が楽しいと思うんだよな。
「楽しいねぇ・・・彼女が必要だと思ってないなら絶対に部員にはならないと思いますわよ?自分の意見をぶつけて引き込むより、そっとしておいた方が良い事もあるのではないの?」
結局、『お嬢』の力を借りる事は出来なかった。本人の意思を尊重した方が良い。という意見の一点張りで負けた。
『本人の意思の尊重』。わかるけどさ。納得できないなぁ。俺と一緒に活動しようぜ?
お前の笑ってる顔を見たいって。そんな風に思っちまうんだよな。
夜。自宅
飯を食って、風呂に入り。テレビでも見ようかなとソファーに座ると、珍しく義母さんが小説を読んでいるようだった。
「ラノベを読むなんて珍しいじゃん」
「コレ、めちゃ面白いのよ。主人公が作中で最強で、ひっそりと暮らしててね?力を隠してるクセに、隠せてないのよ(笑)」
「隠してるのに、隠せてないってどういう意味だよ(笑)」
「えっと、神様から『力』を授かったんだけど、もう『競争社会』に戻りたくないって思いがあって、1人でコッソリと生き始めるの。『力』のおかげで、不自由無い人生を送る事が出来るんだ・け・ど。やっぱりラノベ!ヒロインが『偶然』主人公と出会い。その『力』は『世界を救える力』ってのがバレちゃう訳よ。そこからは『競争社会』っていう名のラブありの。賞賛される『世界』へご招待!って本ね」
楽しそうに小説の内容を教えてくれる義母さん。ここまで絶賛するなんて数えるくらいかもしれないな。
「ふ~ん?それって、結構量産されてる系の物語じゃないの?普通に見た事あるような気がする」
「ふふっ、たしかに。ありふれてる『設定』ね(笑)。この小説の面白い所はね?『競争社会』って所なの。この世界の住人は、主人公に救われて『賞賛』したり、『複数のヒロインが惚れたり』する王道がある中で主人公が偉業を成す度に、それを越えようとする『ライバル』まで増えていくのよね(笑)その『ライバル』が、少しづつ、主人公の持ってる『力』に追いつきそうになる『成長』も見られるっていう。他の本には無い魅力があるのよ」
「へぇー、俺も読んでみようかな・・・」
「はい、1巻はコレ。発売されてるのが、母さんが読んでる2巻までだから、ゆっくり読んでみたら?」
その日。俺はテレビを見る事なく、深夜になるまで、その本を読んでしまった。
不可能だと思われた事を、主人公が『力』で難無く達成してしまい。周りのキャラが、主人公が出来たんだから俺達もできんじゃね?
という発想を抱き、メチャ修行して、主人公を追い抜こうと努力しているシーンが面白かった。
こうして振り返ると、モブのシーンが多いようなイメージだけど。『ヒロイン』とイチャイチャしたり。修行をしてくれ!と頼み込んでくるモブを『力』を使って一掃してしまう、『力を隠せてない』シーンも面白くて、久々に楽しめた。
金曜日
放課後。3度目の正直だ!コレで最後にしよう。
今日の勧誘が失敗したら、先生に「無理でした」って報告しよう。
よし、いざ鎌倉!勢いよく教室に入ろうとすると、丁度出ようとしていた生徒とぶつかった。
本を持っていたのか、手から本を落としてしまう。
「ごめん、大丈夫か」そう言いながら本を拾うと、チラっと中身が見える。
「・・・」ぶつかった相手は何も言わなかった。
「はいコレ」と本を渡すと・・・ぶつかった相手は『サキ』だった。
おぉ!『サキ』じゃん。マジ?その本読んでんの?ソレ面白いよなー(笑)
俺も昨日読んだばっかりなんだけどさ。ヒロインとのイチャイチャよりも、モブの成長の方が気になってさー。
主人公も『力』隠してるくせに、モブに絶妙にヒント与えてるのが笑えるんだよなー。
あっ、ごめん。昨日読んだばっかりだから、興奮が残ってたわ。ごめんごめん。
ごめんついでだけどさ。どう?『ボードゲーム部』入らない?
「ぶ、部室・・・で・・・本、よ・・・読んで・・・いいなら」
え?ごめん。もっかい言って。
ぼそぼそと喋ったもんだから聞き取れなかったんだ。
「~~~~」っと何かを伝えようとする表情をしたかと思うと。何も言わずズンズン歩いていった。
ちょちょ、ごめんって、ほんとごめん。気が変わったらでいいから。1階に『空き教室』あるから。
是非!是非きてくれ!いつでも良いからさ!
奇跡だ。奇跡が起きた。全員そろったのは『サキ』の最後の勧誘から一週間後だった。
ーーーあれ?今思い出しても、やっぱり義母さんの手のひらの上で踊ってね?ーーー