湖ステージ トキノ視点
まだ、やっぱり慣れない。私だけだろうか?
皆そうなのかな?人の死体に慣れる事なんてあるのかな?
少なくとも、みんなは大丈夫そう。なんで?なんで正気でいられるの?みんなも私みたいに我慢してるだけ?隠してるだけ?
第1ステージで コウタの死体を見て。
第2ステージで シゲの死体を見た。
言葉にするのは難しい。
何かを失った感覚。だけど『死体』という形で目の前にあるの。
そりゃあ、何かにすがりたくなるよね。でも心にはたしかに喪失感があるんだよ。
涙は出なかった。私は他の人とは違うのかな?コレが人の心なのかな?
RQが来てくれて、治療?生き返す?・・・死んじゃったコウタが、シゲが生き返してくれる。
だから涙が出ないの?わからない。
さっきは目の前でキャバ嬢が死んでた、綺麗な花に囲まれているのに、あの中心だけ歪んで見えた。
あぁ、歪んで見えたって事は涙が出てたからかも、そう考えると少しだけ、なんだか救われた気分になる。
でも、こんな風に思うって事は私・・・私自身の事しか考えてないっていうヒドイ子になるのかな?
全くの他人でも、死んじゃってるのを見ると、心に喪失感が募った。
この心を制御する事は・・・できるのかな?
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コウタとシゲが前を歩いてくれている。2人の背中が大きく見える。カッコイイな。
ありがとうね。シゲはやっぱり頼りになる、最初の1歩を踏み出してくれるのはいつもシゲだ。
どんな動画を撮ろうかなーって考えている時も、率先して流行りの動画のネタを提供してくれるし、カメラ映りの勉強までしてくれているもん。
コウタは私達の頭脳だ。シゲの行動や発言に対して冷静に考えてアドバイスをくれる。
流行りでも同じ事してちゃ意味がないから私の動画らしくする為に、道具を使おうとか、大体の台本を作ってアドリブを楽しもうとか・・・最後の締めは視聴者にもチャレンジできるようなモノを提供しようとか・・・。
私のSNSの登録者が少しづつ増えたのも2人のおかげだ。私だけだときっと全然増えなかっただろう。
本心を言うと、増えて欲しいなんて考えていなかったけど、増えて嬉しいと感じるのは2人のおかげだ。
私の心はグチャグチャだったけど『湖ステージ』は見渡す限り綺麗な景色が広がっていた。
透明な湖。青い空。明るい緑の植物のおかげで、より一層自然を感じる事が出来る景色に思えた。
だから、メチャクチャだった気持ちも、少しだけ洗われた気がしたんだ。
コウタ「着いた、綺麗な湖だな」
シゲ「動物がいる感じはしないけどなぁー」
トキノ「空気が澄んでてサイッコー!フゥー!」
透明にさえ見える湖の底を覗いてみると、遠目から見た時に見えた青がちゃんと見えた。
トキノ「ん-キレイだねー♪」
トキノ「~~~♪~~~♪」
トキノは機嫌を良くしたのか好きな歌を歌い始めた。
ソレはSNSに歌ってみた動画として、3人で協力して制作していた事もあった歌だった。
だから、釣られるように2人も歌い始める。
シゲ「~~~♪」
コウタ「~~~♪」
3人は自然とステップを踏みながら楽しんでいた。別にダンスがある歌では無かったけど、歌と気分に任せるように3人が躍る。
そうこう楽しんでる内に、ダンスの流れでトキノが湖に目を向けた時、違和感を覚えた。
トキノ「んん?」
っと歌うのを止めて、透き通った湖の底を確認するように覗き込む。
コウタ「どした?~~~♪」
シゲもトキノが見ている所を一緒に覗き込んだ。
シゲ「~~~♪なんかあったかー?~~~♪・・・!?」
シゲも、『ソレ』を目撃した。
底に近づけば近づく程、青が見えるのに、透き通ってるその湖の中で、『何かが泳いでいる』。
コウタ「??シゲもどうした?魚でもいたか?」
2人が急にダンスを止めたので、コウタも止めて湖を覗き込んだ。
【コウタの『瞳』の文字『幸』】
【シゲの『瞳』の文字『幸』】
【トキノの『瞳』の文字『幸』】
トキノ「なんかいる、よく『視えない』けど『何か泳いでる』」
シゲ「デカいぞ、あれが『動物』か『アニマルズ』だから複数いるハズだ」
コウタ「なるほど、『トランスペアレント』って初めて聞いたから分からなかったけど『透明』って意味だったのか」
コウタ「『コレ』を倒せば『鍵』が手に入るぞ」
コウタ「この大きさ、多分だけど『サメ』じゃね?」
トキノ「あっ、そういう意味だったんだ知らなかった」
シゲ「ってかコウタなら既に意味わかってるかと思ってたけど知らなかったんだな。俺もさっぱり分からなかったけどな(笑)」
シゲ「サメ・・・ね、とにかく、撃ってみるか」
AK47に似た銃(マシンガンだと思って良い)を創り、泳いでいる『透明のサメ』に向かって撃つ。
バン!バン!バン!・・・!
弾丸が水面を貫くが、水中の抵抗力のせいでサメに当たるどころか届く事すらなかった。
トキノ「ダメっぽいねぇー」
シゲ「やっぱそうよな・・・俺の能力じゃダメかもしれない」
コウタ「いや、シゲ、レーザーだよ、レーザー!昨日のレーザー試してみろよ」
シゲ「・・・おお!そうだった、それがあった!」
コウタの発言で、昨日レーザー銃を創った事を思い出し、それを創造する。
シゲ「いくぞ!」
引き金を引くと、赤いレーザーが発射され、ジュゥゥゥゥっと水を蒸発させていく。
水の抵抗力など無視できるので、確かに敵に当てられそうだが・・・問題もあった。
コウタ「おいおい、これじゃ蒸発した湯気のせいで敵に当たってるか分からないな」
視線の先に向かってレーザーを放つ為、視線に湯気という視界を遮るものが出来てしまう。
引き金から指を離すと、頭をかく。
シゲ「んー。どーすっかな」
3人は考え始めた瞬間。水中からバシャァっと!見えない何かが飛び出してきた。
ソレはコウタ達が予想していたサメだった。
透明なので実際に見ることができないうえに、テレビでしか見た事がない程の規格外の大きさだった。
その為、巨大な胸ビレによって、コウタとトキノは後方へとぶっとばされた。
コウタ「くはっ!」
トキノ「きゃ」
レーザーを撃ったシゲが捕食対象だったんだろう。サメはシゲの捕食に成功し、地面へと着地する。
地面の上で、口をくちゃくちゃと咀嚼しながら、うねうねと体を揺らし湖へと戻ろうとする。
透明なので、シゲの体が潰されていくのが見える。
尻もちをついたが、すぐに体制を整えて戦闘態勢に入るコウタ。
コウタ「シゲ!くっそ!」
コウタ(このチャンスを無駄にはできない!)
そう思いすぐに、ドーピング薬を創り。すぐに飲む!
サメがもう少しで湖に戻りそうだったが、湖に戻られる前に捕まえないと倒せないとコウタは考えた。
トキノ「コウタ!何するつもりなの?」
トキノ(考えなしに行動しても意味ないよ?それとも、ちゃんと考えての行動なの!?)
コウタは体が完全に大きくなるより前に走り出した。
コウタ(とにかく、サメを湖へと戻るのを止める!そこまでいけば、何か糸口を掴めるかもしれない)
透明だが、水を弾く事から輪郭が分かり、大きさは理解していた。
だからコウタはタックルする勢いで『掴み』に走る。
後1歩で掴める位置でドーピングが完全に完了し体も出来上がる。
『サメ』も、シゲを咥え湖に入る直前まで迫る!
ほんの半歩速かったのはコウタだった!
タックルで『サメ』を捕まえる!
だが、コウタにとって予想外な事が起こった!
コウタ(あっ、軽い!軽すぎる!)
コウタ(もっと重いと思っていたのに!だから勢いを殺さずタックルした)
だけど、結果的には最悪な手段になってしまったのだ。コウタとサメは共に湖へと入ってしまった。
トキノ「コウタッ!」
バシャーーン!と水しぶきがあがる。
トキノは慌てて水中を見るが、見えるのは赤くなっていく湖だけだった。
コウタが上がってくる気配も、サメが襲ってくる気配もない。
今見えている赤い血が、シゲのモノなのか、コウタが仕留めた事による『サメ』の血なのか・・・もしくわ、コウタ自身の?
トキノ「・・・」
トキノには判断が付かなかった。ただ、コウタが出て来るのを、じっと待つ。
長い沈黙。動けなかった。どう動けばよかったんだろう?
何をするべきなんだろう?
トキノ「あっ!RQ!RQ!シゲとコウタの治療!治療をして!」
だけど応答が無かった。いつもなら呼んだ瞬間現れるRQなのに。何故か今回は全く現れる気配が無い。
トキノ「??。なんで?RQ!RQさん!?コウタとシゲの治療をしてください!」
トキノの叫びは虚しく、だれも来ない、なにも起きない。
『ホワイトボックス争奪戦』に参加してから、初めての孤独だった。