迷宮ピラミッド サキvs巨体
早朝4時30分、まだ誰も起床していない時間帯にサキのテントに近づく人影があった。
RQ「サキさん、おはようございます」
レースクイーンだった。
んん~っと、もぞもぞとテントの中でサキが動く、朝は弱いのか返事が遅い。
RQ「起きましたでしょうか?」
サキ「ん~、うんおきでる」
RQ「では、30分後にレースがスタートしますので、お好きなタイミングでスタートしてください」
・・・
レーススタートと同時に出発したくて、私は寝る前にRQにモーニングコールを頼んだ。
オウタ達と一緒に行くと、私はオウタに頼り切りになってしまうから。
それじゃダメだ。私は『私の人生を生きる』と昨日決めた。
これからは1人で生きる。その決意表明をかねて、とにかく『行動』に移す!もう『考える事』を極力無くすようにするんだ!
リュックの中に入れる物は、昨日の夜に済ましている。
いつもボサボサにしている髪も、急いで梳きストレートに。癖ッ毛なのであまり意味がないけど。
目元まであった髪はRQがくれたヘヤピンで止め、前が見えやすいようにした。
RQがくれたヘヤピンがVと書かれた旗のデザインだったので、ちょっと嬉しくて、貰った後から、しょちゅう触ってしまう。
髪を梳いたまでは良いが、化粧をするという発想は無かった。そういった女の子らしい事を教えてくれる人は居なかったし、興味も無かった。
私の好きな物語は、こんな自分でも好きになってくれる人との恋愛モノだから、余計にこじらせているかもしれない。
肌のケアくらいは勉強していれば、ニキビ肌も少しはマシになったかもしれないけど、今の私には、どうでも良い事だ。
身支度の時間はたったの10分。それも髪を梳いて、制服に着替えただけ。女の子の朝とは思えないが。
テントから出ると、まだ少し暗かった。『ステージ2はあちら』の文字と矢印が共に書かれている看板が、あちこちに突き刺さっていた。
その案内に従い。
今、スタートと書かれたラインで待機する。5時の日の出と同時にスタートするのだろう、と思案する。
視界の先にRQ。Vと書かれた旗を掲げて待機している。その姿を太陽の光が神々しく照した時。
RQ「では、これより第2レースを開始します!」
ブンッっと旗を振った!さぁ!行こう!
そして今ッ!ボートが現れた!
・・・
第2ステージ 迷宮ピラミッド
迷宮ピラミッド内部で『鍵』を手に入れて、第2キャンプに向かえ!
ほんとに入るの?もう入ってる?まだ出る事ができない?
中は真っ暗!進んでるかどうかも定かじゃない!でも進むしかないね!
そう書かれた看板を読み、サキはピラミッドへ足を踏み入れた。
迷宮ピラミッド入口時点、【サキの瞳の文字は『不幸』】
ひんやりとした空気の中、迷路のようになっている壁は全て土で出来ているようだ。
足元から天井の方に向かって少しずつ暗くなっている。
サキ(どこから光が入っているだんだろう)
そう考えながら、歩き続ける。どこを見ても、土、土、土。
十字路や左右どちらかの道を選ぶ必要はあるが、今の所、行き止まりの道は無い。
どれだけ歩いただろうか?何もない通路を歩き続けて1時間は経っただろうか。
サキ(なんも無いなー。ホントに、ただの迷路なのかな?)
サキ(そろそろ、RQに頼んで朝食でも食べようかな。なんの目印も無いし、もう引き返す事も出来ないし)
そう考えながら通路を右に曲がる。その時、視界に何かが映る。
ぶっとい腕が、私の顔めがけて・・・脳の処理が追いついた時には既に死んでいたけどね。
2メートル20センチの巨体が、サキの顔面を殴った。その衝撃で土で出来た壁に叩きつけられる。
ぐちゃぁ。
・・・
1時間後。
サキ「はッ!」
跳ね起きた! 何っ!?何が起きたの?なにかデカイのが居たの見えた・・・。
でも、ドでかい腕が見えたと思ったら意識がなくなった・・・。
サキ「・・・」
とにかく、もう1度進もう。そう思い歩みを進めると、通路の向こうからズチャ・・・ズチャ・・・という足音が聞こえる。
通路の向こうからデカイ体の、ソレは歩いてきた。
サキ(・・・あれって、映画で見たことがある・・・)
全てが作り物の様に見える、作りモノであって欲しい。それも、とてもリアリティの高い作り物。
でも、いや、だからこそソレは本物の人間の様にも見える。
身長は2メートル20センチ、頭蓋骨がなく脳が露出していて、皮を全て剥がして筋肉や血管を全て露出されているグロイ肉体。
ムキムキとムチムチとしているように見える筋肉は何故か、そう見えるようにしているだけで。機械のような固さが手に取る様に分かる。
サキ「アレに殴られたら・・・そりゃあ即死だよね」
あはは。乾いた笑い。だけど『絵本』に入ってから初めての笑いだった。
サキ(アレを越えないとダメって事かぁ・・・こりゃあ能力がないと無理でしょ)
サキ(でも私は能力無いし、なんとか超えないと)
何故逃げない?サキは自身の直感を信じていた。あの巨体の向こうから通路とは別の光が漏れているのが見えたから。
サキ(この試練を越えた先に私の希望がある・・・。相手の攻撃が『殴る』行為なら、試してみよう)
ズチャ・・・ズチャ・・・巨体がどんどん近くなる。
背負っていたリュックを片手に持ち、そして、走り出した!
巨体は右ストレートを放つ構えをした。サキはリュックを巨体の後ろ側に投げる!
巨体の横を通るように、走りだす。敵のリーチ内に、今ッ!サキが入った!
ボッ!
バットを振った時、ブンっ!っと音が鳴る様に、その右ストレートも音が鳴った。
サキはスライディングで避けるつもりだったが、運動が苦手なサキは見事につまずいた!偶然にもソノおかげでギリギリで殴られずに済んだが。
膝が曲がり、地面に向かって顔を打ち付ける。脳が揺れて、視界がチカチカする。
サキ(痛った!)
すぐに顔を上げて、走り出す!
サキ「あっ、あぶなっ!」
ダァッ!っと勢いに任せて巨体の隣を横切る!
サキ(前ッ!振り返らない!走れぇぇぇえ!)
あの巨体がどれほどの速さで追ってくるのか分からないけど振り返ったら死ぬかもしれない。
それより、目の前にある明るい部屋に行くっ!
ダダダ!っと全力で走り部屋に辿り着く。
サキ「はぁ・・・はぁ・・・」
サキ(あっ、リュック・・・回収するの忘れてた)
酸素を求め呼吸が荒くなる。疲れた。初めて本気になって行動したかもしれない。ついでに命まで懸けたんだよ!
だが、そうまでしたかいがあった。部屋の真ん中には台座があり、台座の上に『銃』があったからだ。
呼吸が乱れたまま、銃を手に入れる『ⅠⅤ』と刻印が打たれた銃。
不思議とサキにとって丁度良い重さだった。
サキ「さっそく使ってみよう」
ズチャ・・・ズチャっと音が近づいてくる。
歩いてくる敵に向かって銃口を向けた。
サキ「走って来ないならそう言ってよ、無駄に走っちゃったじゃん」
そう言って、引き金を引いた。
バンッ!
銃声が鳴り、弾丸が巨体の胸に着弾すると。ボンッっと直径100ミリの穴が空いた。
完全に向こう側が見えるので着弾すれば貫通するのだろう。
敵の弱点をつけたのかは分からないが、赤い血をボタボタと流しながら仰向けに倒れた・・・バチャン。
完全に敵の機能が停止した。
サキ「・・・おっしゃー!私の勝ちぃー♪」
サキにとって人生で初めて・・・最高の笑顔でのガッツポーズ!