拝啓お姉様
拝啓 お姉様
お元気でお過ごしでしょうか。
お姉様が地方の見聞に旅立ち、ふた月が経ちましたね。
本日は、私の長年の気持ちをお伝えしたいと思い、筆をとりました。
最後まで、目を通して頂ければ幸いでございます。
お姉様もご存知の通り、私はとても口下手で、お姉様からも、お前は口下手だからあまり喋らない方が良いと言われてきました。
私の意見は全てお姉様が代弁してくださり、私が話そうとすると、叱ろうとなさるので、私は日々口を閉ざしてきました。
お姉様は、不出来な私のことをお母様に伝えて下さり、使用人に陰口を言われるたびに、私に教えてくださいましたね。
お姉様は私にいつも気を配ってくださいました。
周囲から、いつも言われていました。お姉様が、聡明で、美しくて、優しい方で羨ましい、と。私はその話を聞くたび、微笑むしかございませんでした。
他の選択肢はありませんでした。
先日、お母様のお気に入りの茶器が割れてしまいました。
私はその日、お母様に罰を受けました。お前が割ったのだろうと詰め寄られました。そのような見覚えはなかったのですが、仕方のないことだと諦めました。弁解などできません。
お母様の罰を受けて、お部屋に閉じ込められている間、唯一私に味方をし、私がこのような扱いを受けることに憤ってくれていた執事のエリオンが、屋敷を離れたと聞きました。
お姉様、私はエリオンが好きでした。エリオンも、私を好いてくれていました。
資金を貯め、5年が経ったら、二人でお屋敷を出ようと誓いあっていました。
以前、そのことをお姉様に言いましたね?お姉様はその時、応援してくださいましたね。
全て自分に任せて幸せになれと言ってくださいましたね。私はその時、ああ、これでエリオンと一緒になれると思い、嬉しくなりました。
そして、お母様の茶器が割れたのはその翌日のことでした。
まさかメイドが、お母様の茶器を割ったことを私のせいにするなど思いませんでした。
そのことを私は言えませんでした。これまで、そうして生きてきた私が悪いのだと思いました。
先日、エリオンが亡くなったと聞きました。メイドによれば、私と関わったせいで死んだそうです。そのメイドは笑いながら言ったのです。
「お前の恋人を殺したのはお前の姉」だと。
私は憤り、メイドの首を絞めました。
そしてそのまま、メイドの命を奪いました。
お姉様は、いつも私に気を配ってくださいました。私のことばかり、考えて下さいました。
お姉様は自分以外と会話してはいけないと、昔私に言いましたから、私はずっとそのように生きてきました。お姉様のお言葉に逆らわず、生きてきました。
先程、お母様の命を奪いました。
お姉様の名前を呼び、助けを乞いながら逃げ惑うお母様の様子は、いつも私に、そうあれと厳しく躾ける素敵なレディには程遠かったと思います。
その後、私は暖炉に薪を多めに焼べて、使用人たちへ、この中に一人ずつ飛び込むように命令しました。
いつもお姉様の言うことをよく聞く使用人ばかりで、私の言うことなど聞いてくださらないのですが、熱々の火かき棒で背中を押すと、皆さん自ら飛び込んでくれました。
使用人は、家人の言うことを聞かなければなりませんものね。私も今更ですが、使用人たちに躾をしてみました。
皆さん最後は大好きなお姉様の名前を呼びながら、勇気を振り絞って飛び込んでくれました。
お姉様は、私のために気を配ってくれました。私のことばかり考えて下さいました。
ですが、私は、お姉様が私に対してしてくださった行いを、一度も、ただの一度も、嬉しさや幸せ、感謝など、一度も、ただの一度も抱いたことはありません。
お姉様が私にしてくださった行いは、いつも私を追い詰めておりましたから、私は日々、そのことについて疑問を抱いておりました。
お姉様は、私に対して、さも良き行いをしたかのように振る舞っておりましたが、私はそのことについて、一度も、本当にただの一度も感謝を感じたことがありません。
ですが、私は口下手なので、そのような事について、異を申すことができませんでした。
鬱憤は、日々溜まっておりましたが、恐れ多くて、意見などできませんでした。なので、僭越ながら、今度から、私の意は行動で示そうと思いました。
お姉様が愛していたお母様を奪いました。お姉様を愛していた使用人たちを奪いました。
次に奪うのは、お姉様が愛しているお姉様自身となります。
これによって、私の今までの気持ちを汲み取ってくださいますでしょうか?
このお手紙をお姉様が読まれる頃には、私はそちらに着くと思いますので、呼び鈴が聞こえましたら、扉の開錠をよろしくお願いします。
私は昔から口下手で、お姉様に頼るばかりで、このようなことでしか自分の意見を申せません。
この度のこと、とても勇気を振り絞って行動に移してみました。最後までやり遂げたいと思っておりますので、どうぞご協力お願い致します。
妹 シェリアより